7話 ~LAST~
空は、どこまでも高く澄み渡っていた。
活気に満ちたお昼時の「じゃんけんパン」。赤い瓦屋根の下から漂う香ばしい匂いに誘われ、今日も多くの客で賑わっている。
金色の髪をした令嬢が、店に向かって歩いてくる。
彼女はいつものように、クロワッサンを三つと、二種類のサンドイッチをトレイに乗せた。
そしてレジで待つパン屋の若旦那の前にトレイを置いたとき、カウンターの上で、二人の手がわずかに近づいた。
ソフィアの細い指先には、陽光を跳ね返す銀色の輪。そして、パンを袋に詰めるスワロウの、節くれ立った左手の薬指にも、同じ輝きがあった。
急ごしらえの、決して高価とは言えない安物の指輪。
けれどそれは、煩わしい外縁をシャットアウトし、二人の平穏を守るための、何よりも強固な「約束」の証だった。
「ありがとうございます。……またお待ちしていますね」
お会計を済ませ、ふと目が合う。
言葉にできない秘密を共有する同志に出会えた喜びに、二人の唇は同時に、小さく弧を描いた。
カランカラン、と乾いた鈴の音を響かせて、ソフィアの背中が遠ざかっていく。
スワロウは、その凛とした後ろ姿を、愛おしむような、それでいてどこか誇らしげな眼差しで見送った。
すぐに次の客がレジへとやって来る。スワロウは瞬時に完璧な営業スマイルを浮かべ、職務に戻った。
「ありがとうございました」
店を出た途端に駆け寄ってきた、尻尾の先っぽだけが銀色の黒猫を見てソフィアが微笑む。
「お出迎え御苦労」
「お殿様気取りですか?」
笑うソフィアが、この世界に来て良かったと思うことの一つはこの美しい街並みのなかにいれる事。
不思議なことに、いつ見ても飽きることがない。ありふれた言い方をすれば絵画の中に入り込んだような気持ち。
使い込まれた石造りの建物が肩を寄せ合うように並び、窓辺のアイアンレールからは色鮮やかなゼラニウムが顔を覗かせている。
「なんか、とっても幸せそうだねぇ…………」
先を歩く猫が言う。
「駄目なの?」
「別にいいんだけどさ、なんとなくね…………」
「もしかして、嫉妬してる?」
「そんなわけないじゃん!」
「どうだか…………」
ソフィアは、ふと気が付いた。
全てを失ったように感じたあの日――けれど今の私は、昨日よりもたくさん笑っている。
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