表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/7

6話

 



「……ソフィアさん、私、本当に困っているんです」


 スワロウは、酔いに揺れる声でそう切り出した。


「お店に来る女性客の方々に、何度も何度も言い寄られて。その度に、角が立たないようにデートをお断りするんですけど……そうすると泣いたり、怒ったり……もう、修羅場ですよ」


 頭を抱え、深いため息をつく。


「それなのに、次の日には何事もなかったみたいな顔をして、お店に来るんです。本当に……女の人が、分からないです」


「……」


 ソフィアは黙って、続きを促す。


「それに、近所のお節介なおばさまたち! 顔を合わせるたびに、頼んでもいないお見合い話を持ってくるんです」


 スワロウの語気が強まる。


「結婚して家庭を持って、初めて男は一人前なんだからって。何回も、何十回も! あまりにしつこいから、顔を合わせないように避けていたんです。そしたら今度は、勝手に自宅の中にまで入り込んできて……不法侵入ですよ!」


 ドォン!


 テーブルを拳で叩き、「痛っ……」と顔を顰める。


「あの人たちの熱意って、一体どこから来てるんですか? 正直言って、私なんか赤の他人じゃないですか。赤の他人が結婚していようが、いまいが、本来どうでもいいことじゃないですか」


 言葉が止まらない。


「それなのに、独身でいるだけで人を社会不適合者みたいに扱って……。自分たちは良いことをしているっていう、あの『正義感』に満ちた顔!」


 スワロウは身震いした。


「……怖いですよ。私は、今のままで十分に幸せなんです。それなのに……」


「この世界では、それが当たり前ですからね」


 ソフィアの言葉に、スワロウは苦く笑った。


「おかしいと思いませんか? もっと自由に生きてもいいじゃないですか。誰に迷惑をかけているって言うんですか」


 再び拳を振り上げかけ、途中で力なく下ろす。


「……私の知り合いの話なんですけどね、ソフィアさん」


 空になったグラスを指先で転がしながら、スワロウは遠くを見るような目をした。それは、どこか懐かしむような眼差しだった。


「『みくり』ちゃんっていう、すごく賢いのに、損な立ち回りばかりしちゃう子がいて」


 ソフィアの胸が、わずかにざわつく。


「彼女は、職がなくて困っていた時、ある男性に提案したんです。――『就職としての結婚』を」


「……就職、としての結婚?」


 ソフィアの背筋に、微かな電流が走る。


「そう。契約結婚です」


 スワロウは淡々と、しかし熱を帯びて語る。


「恋愛感情とか、家柄とかじゃなくて、お互いのメリットのために結ぶ合理的な契約。雇用主が夫で、従業員が妻。家事という労働に対して、対価として生活費と給与を払う」


 一拍置いて、微笑む。


「……どうですか? 素晴らしいシステムだと思いませんか?」


 その瞬間、ソフィアは確信した――この人は、自分と同じだ。


「そういう『盾』があれば、お節介なお見合い攻撃も、世間の偏見も、全部シャットアウトできるのに。パン作りに専念できるのに……今の穏やかな生活を、守れるのに」


 声が、少しだけ震えた。


「……だけど、この世界で、そんな考え方を理解してくれる人なんて、いるわけがないですよね」


「……スワロウさん」


「やっぱり、ソフィアさんも……私のこと、おかしいと思いますか?」


 真っ赤な顔で俯くスワロウ。

 ソフィアは、その目を逃さぬよう、まっすぐに見つめ返した。


 そして、静かに、しかしはっきりと告げる。


「今の話、知り合いの話じゃなくて――ドラマの『逃げ恥』ですよね」


 ピタリ、とスワロウの動きが止まった。


 掲げようとしていたフォークが宙で静止し、赤く染まっていた頬の色が、サーッと引いていく。


「…………え?」


 それは驚愕というより、

 世界がひっくり返る瞬間を目撃した者の声だった。


「貴方も、私と同じです」


 ソフィアは続ける。


「前世の記憶を持ったまま、違う性別で生まれ変わったんですよね?」


 スワロウの瞳が、驚きで大きく見開かれた。





最後まで読んでいただきありがとうございました。


「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。


評価を頂ければさらに喜びます。


☆5なら踊ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ