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希死念慮

作者: 霜月希侑

 物心ついた頃から、私はこの世から消えたいと願っていた。生きる意味が見つからないまま、ただ息をしていることに耐えていた。誰もが常に心のどこかで、同じように消え去りたいという思いを抱えながら、それでも生き続けているのだと信じていた。


大人になって初めて知った「希死念慮」という言葉。それは、誰もが常に抱えるものではないらしいと知ったとき、私の心は少しだけ揺れた。


「あんたなんか産まなきゃ良かった」

「お前に生きる価値なんてない。はやく消えてくれない?」

 母の冷たい言葉も、同級生の刺すような言葉も、私の存在を否定する刃だった。生きていること自体が罪だと感じ、息をするたびに申し訳なさが胸を締めつけた。私はこの世にいてはいけない人間なのだと、そう思い込むようになっていた。


だが、ある日、一人の女性がそっと手を差し伸べてくれた。

「ねえ、きみ、いつも今にも消えてしまいそうな顔してるね」

 彼女の笑顔は、まるで私の心の奥底を見透かすように温かかった。

「私は、きみに消えてほしくない。少なくとも、私がこの世からいなくなるまでは、そばにいてよ」

 その言葉は、軽やかでありながら、どこか深い響きを持っていた。まるで私の心に細い糸を結びつけ、この世界に引き留めるかのようだった。


 私はまだここにいる。まだ息をしている。心臓が確かに鼓動している。消え去りたいという思いが完全に消えたわけではない。けれど、彼女のために、ほんの少しだけ生きてみようと思えた。それだけで、胸の奥に小さな光が灯った気がした。

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