プロローグ(1)
「なんだか頭が痛いよ,おかあさん」
「そんなに急いで頭を上げるからだよ.ゆっくりと頭を上げないと頭がくらくらするんだよ.」
「ふーん.そうなんだ.」
(そうなのだ.僕らキリンは背が高いせいで,頭を一気に上げると貧血を起こしそうになるのだ.)
広いサバンナの水場で,そのキリンは,ぼんやりと考え込んでいた.
(はてな?・・・何故,僕はそんなことを知っているの?・・・貧血なんてことをどこで知ったんだろう?)
西の空を真っ赤に染めて,太陽が褐色の大地に沈もうとしている.水場に集まったキリン達の影が,長く伸びていた.
「ジェイさんは,なんでいつもずーっと遠くを見てるの?」
さっきの子供のキリンが,側に寄ってきて彼に話しかけた.
「やあ,トミー.なんとなくね.どこか遠くに大切な忘れ物をしてきたような気がするんだよ.」
キリンの雄には珍しくジェイは子供の相手を嫌がらない.トミーはこの風変わりな雄のキリンが好きだった.
「へぇー,どんな忘れ物?とびきりおいしいアカシアの葉っぱかい?」
「うーん,僕はアカシアの葉っぱは苦手なんだ.それじゃぁないね.」
「じゃあ,なんなのさ」
「わからないよ.ずっと前に忘れてしまったんだ.」
トミーはジェイがここにやって来たときのことを思い出していた.
<続く>