表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

森を出る

 ……。


 まぶしい。

 残酷なまでに天気がいい。

 晴天以上。


 こんな日に王家に嫁ぐことができることに、浮足立っている。

 

 「私は祝福されているのね! こんなにも天気のいい日に、アオバの森を出て、神子として私の人生が始まるのよ」

 

 ジャラジャラと宝飾品をつけて、くるくると回っている。

 そのたびに、音が鳴り響くし、光が反射してまぶしい。

 目を合わせることは日常的にしていないけれど、今日は機嫌を損ねないために、ずっと目を伏せていないと。


 今日という日ぐらい、顔に傷のない状態で過ごしたい。

 今日をもって、私はこのアオバの森を出るのだから。


 「お社に挨拶にいってもよろしいでしょうか」

 「好きにして。時間にだけ遅れないでね。一緒に行くんだから。偽物の神子として断罪されるところを私が助けてあげるの。そうして、慈悲深い神子として王妃になるの」

 ふふんっとご機嫌。

 「……ありがとうございます」

 機嫌が変わらないうちに。

 

 ……本当なら、あなたも行くべきなのよ。

 神子としてこの森を出るのであれば、先代の神子たちにご挨拶する。そう教えてもらったはずよ。

 巫女から。


 ゆっくり、階段を上る。

 境内はとても静かで、風がゆったりと吹いている。

 さわさわと風が葉をなでる。


 ゆっくりと息をはく。

 

 「……いくのね」

 巫女が私に声をかけてくださった。

 「はい」

 民のなかで長老の次の長寿の方。

 「……私は神子にお会いできたけれど、私を教え導いてくださった巫女は神子にお会いできなかった。それをとても悔やまれていた。巫女は神子のためにあるから。だから私は幸せよ」

 私の頬に手を伸ばされて。

 「真の神子とお話することができた。……お会いできて大変光栄です。我らが神子」

 ……。

 ご存じだったの?

 「巫女は神子がわかるのです」

 「……もっとご一緒したかったです」

 

 私にとって、母のような人。

 

 「神子のご多幸を願っております」


 「……アオバの森が、民が、あなたが、幸せでありますように」


 私に出来るのは、ただ、願うだけ。

 神子として。

 巫女として。


 ただ、願うだけ。


 ……。

 歴代の神子は同じ思いを持ったのかしら。


 神子として生まれ、神子として生き、神子として死ぬ。

 全ては、民のため、森のため。


 それが幸せ。


 ……本当に?


 だめ。

 

 首を横に振る。


 疑問に思ってはいけない。

 これまでの神子はそうしてきたのだから。

 それが神子なのだから。

 神子として。


 ……でも。

 かなうのなら。

 あの子に。

 あの時のあの子に。

 もう一度。

 一目でいい。

 会いたかった。


 「なにしてるの! 遅いわ!」

 

 大きな声で私を呼び、持っている扇で私をたたこうとした。

 とっさに、手で顔をかばう体制になると。

 

 「……そうね。今日ぐらい許しましょう。慈悲深い神子として」


 ああ。

 吐き気がする。

 慈悲深い?

 神子?

 やめてほしい。

 神子は。

 神子は。

 あなたのような、まがい物じゃない。


 「それではいってきます」


 声高らかに。


 神子は歩いて向かう。

 歴代の神子がそうしてきたように。

 民が作る道を。

 森の土を歩くのは、これで最後だから。

 一歩一歩を踏みしめて。

 民の安寧を。

 森の繁栄を願いながら。

 

 風が背中を教えてくださっている。

 鳥が愛らしくさえずっている。

 太陽が温かく照らしてくださっている。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ