森を出る
……。
まぶしい。
残酷なまでに天気がいい。
晴天以上。
こんな日に王家に嫁ぐことができることに、浮足立っている。
「私は祝福されているのね! こんなにも天気のいい日に、アオバの森を出て、神子として私の人生が始まるのよ」
ジャラジャラと宝飾品をつけて、くるくると回っている。
そのたびに、音が鳴り響くし、光が反射してまぶしい。
目を合わせることは日常的にしていないけれど、今日は機嫌を損ねないために、ずっと目を伏せていないと。
今日という日ぐらい、顔に傷のない状態で過ごしたい。
今日をもって、私はこのアオバの森を出るのだから。
「お社に挨拶にいってもよろしいでしょうか」
「好きにして。時間にだけ遅れないでね。一緒に行くんだから。偽物の神子として断罪されるところを私が助けてあげるの。そうして、慈悲深い神子として王妃になるの」
ふふんっとご機嫌。
「……ありがとうございます」
機嫌が変わらないうちに。
……本当なら、あなたも行くべきなのよ。
神子としてこの森を出るのであれば、先代の神子たちにご挨拶する。そう教えてもらったはずよ。
巫女から。
ゆっくり、階段を上る。
境内はとても静かで、風がゆったりと吹いている。
さわさわと風が葉をなでる。
ゆっくりと息をはく。
「……いくのね」
巫女が私に声をかけてくださった。
「はい」
民のなかで長老の次の長寿の方。
「……私は神子にお会いできたけれど、私を教え導いてくださった巫女は神子にお会いできなかった。それをとても悔やまれていた。巫女は神子のためにあるから。だから私は幸せよ」
私の頬に手を伸ばされて。
「真の神子とお話することができた。……お会いできて大変光栄です。我らが神子」
……。
ご存じだったの?
「巫女は神子がわかるのです」
「……もっとご一緒したかったです」
私にとって、母のような人。
「神子のご多幸を願っております」
「……アオバの森が、民が、あなたが、幸せでありますように」
私に出来るのは、ただ、願うだけ。
神子として。
巫女として。
ただ、願うだけ。
……。
歴代の神子は同じ思いを持ったのかしら。
神子として生まれ、神子として生き、神子として死ぬ。
全ては、民のため、森のため。
それが幸せ。
……本当に?
だめ。
首を横に振る。
疑問に思ってはいけない。
これまでの神子はそうしてきたのだから。
それが神子なのだから。
神子として。
……でも。
かなうのなら。
あの子に。
あの時のあの子に。
もう一度。
一目でいい。
会いたかった。
「なにしてるの! 遅いわ!」
大きな声で私を呼び、持っている扇で私をたたこうとした。
とっさに、手で顔をかばう体制になると。
「……そうね。今日ぐらい許しましょう。慈悲深い神子として」
ああ。
吐き気がする。
慈悲深い?
神子?
やめてほしい。
神子は。
神子は。
あなたのような、まがい物じゃない。
「それではいってきます」
声高らかに。
神子は歩いて向かう。
歴代の神子がそうしてきたように。
民が作る道を。
森の土を歩くのは、これで最後だから。
一歩一歩を踏みしめて。
民の安寧を。
森の繁栄を願いながら。
風が背中を教えてくださっている。
鳥が愛らしくさえずっている。
太陽が温かく照らしてくださっている。




