表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

アオバの民として

 「最近、雨がなく、日照りが続いている。農作物に影響が出る前に雨が降ればいいが」

 「確かにとっても暑くて嫌になるわ。……そうだ! お父様。私、そろそろだと思うの」

 「そろそろとは?」

 「記録にある神子が認められるのって17だったと思うの。誕生日が近いでしょ? 次雨が降る日を当てられたら、きっと認めてくださると思うの。で、お声がかかるわ」


 嬉しそうに。

 楽しそうに。

 決まったことのように。


 冷たい水をつぎ、食器を片付けて、炊事場に持っていく。

 音を立てないように。

 

 「そうだな。さて次はいつ雨が降るのでしょうか。我らの巫女」

 「ええ……」

 

 ガシャガッシャー

 ポタポタ


 「何してるの」


 髪を捕まれ、背中からこけた。

 

 「……雨は」


 息を吐いて、目を閉じて。

 雨が降る日を願う。

 そうしたら、見えてくる。

 ……。


 「……5日後の、8月19日です」


 今年は梅雨が早くにあけて、雨が少ない。

 だから、雨が降ることは私が願っていること。

 民の生活のために、必要な雨。


 目を合わせず、うずくまって答える。


 「8月19日ですわ! あれには8月26日と言わせるわ」

 満足されたようで、すぐにいなくなれと蹴られた。


 誕生日は8月23日。

 先視が証明され、認めれば、晴れて王妃になる。

 それを待ち望んでいる。


 「あれはどうするんだ?」

 「そばにおくわ。巫女を偽るのは罪深いけれど、ひとりぼっち。そうやって気を引きたい、かわいそうな子として、慈悲深い巫女の私は、侍女として使うの。きっとそんな、私を素敵だといって、見初めてくれるわ」

 「ああ。こんなにも美しいのだ。必ず、そうなる。その日に拝謁しよう。そうしたら、おまえが巫女だとその場で認めてくださる。そのまま、王宮に残ることになるかもしれないな」

 「あら! そうなったら、必ずお父様を呼びますわ。一緒に王宮で暮らすの」

 

 頭のなかはどうなっているのか。

 ……先視の神子が生まれてなければ、その見目で選ばれることはあったかもしれない。

 見目と先視の神子という肩書きをもって、王妃になるのが、ずっと夢だと言っていた。

 そのために、私は使われると。


 求められているのは先視の神子だから。


 神子が生まれたと知られていなければ、違ったかもしれない。

 

 そっと目を閉じる。

 ……かわらない……よね。

 

 何度も視ようとした。

 私が幸せになる日を。


 ぬるい水でお皿を洗う。

 服についた汚れは諦めよう。

 あと少ししたら、ついていって、王宮にはいる。

 そうしたら、今よりずっとずっと綺麗な服を着るだろう。

 もう。

 それでいい。

 利用したければすればいい。

 それで、心が満たされるというのなら。

 その程度でいいのなら。

 

 先視の神子は優しいから。

 慈悲深いから。

 憐れんであげる。


 神子と巫女が、分からないかわいそうな子。

 アオバの民は森に生きる。

 髪色はとてもそれらしいけれど、身につけているものは、そうではない。


 質素を好み、簡素をもとめ、足るを知る。


 それがアオバの民。

 なのに、ジャラジャラと首飾りをつけて。

 首が痛いとよく言うけれど、何重にもなっているのだから、その分首に負担があるのは当然。

 バカらしいけれど、そんなことを言えば、態度に出せば、牢屋から出られなくなる。 

 黙って言うことを聞く限り、お日様の下にいられる。

 お月様だって見られる。

 それに、外のことを知らないと、視えたものが分からない。

 知らなければ伝えられない。

 ……こんな茶番劇に付き合わされる王族はどんな気分なのだろう。

 生まれた日で神子だと言われ、力の証明をして。

 過去にその日に生まれたのに力がなかった方がいたと記録にはあったから、正当にされたいのかしら。

 二人のうち、どちらが巫女で、どちらが神子なのか。


 ……願わくば、王子が正しく神子を見つけられる方であってほしい。

 神子は森の民のためにある。

 王のためではない。

 

 ……明日はお社にいって、掃除ね。


 歴代の神子が奉られているお社。

 そこを管理するのが、巫女のつとめ。

 先視の神子ではない、アオバの巫女のつとめ。

 

 ……とても青々とした空。

 お母様の髪色のようね。

 お母様が見てくださっているのかしら。

 大丈夫。

 アオバの民として、森を守る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ