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俺はただ。

 「泣かないで。お父様はちゃんとあなたを愛しているわ」

 「……でも、今日も来なかった」

 「公務でお忙しいのよ」

 「お母様がこんなにも、苦しいのに?」

 「……王とはそういうものよ」 

 「やだよぉ……」


 第2王子は泣き虫ね。

 ただしくは、第1王子の座をとられた王子よ。

 あら、そんなこと言ったら不敬だわ。

 言ったってだれもなにも言わないわ。

 陛下だって、見向きもしないもの。

 側室だった母親がなくなって、ひとりぼっちね。

 

 ……聞こえている。

 お母様がなくなって、王であるお父様は、お葬式はしてくださったけど、一言も声をかけてくださらなかった。

 あなたに望まれて、ここで生きることを選んだお母様に。

 一言もなく。

 あなたが言わなければ。

 求めなければ。

 お母様は違うところで生きていた。

 こんな、広いだけでなにもない部屋じゃなくて。 

 お母様はとても声が澄んでいる。

 とても心が動く。

 お母様は……。

 

 「おいで。泣くな。俺が守るよ」


 兄……になった第1王子。

 なにをさせても、俺より劣るのに。

 数日あとに生まれたのに。

 正妻の子だから。

 血筋がいいから。

 王様にはそういうのが必要だから。

 俺は弟で。

 2番だ。

 こんな風に声をかけてくれるのも。

 気にしてくれるのも。

 全部全部。


 「第1王子はとても優しい方。血が違っても、ちゃんと接しておられる。慈悲深い方」

 「やはり、こういったところが、王の器というもの」


 自分のため。


 かわいそうな弟。

 なにもない弟。


 自分の価値のため。

 評価をあげるため。

 分かりきってる。

 ……それでも。

 伸ばされた手をつかんで。

 どうにか笑って。

 

 「ありがとう。おにいさま」

 

 って言うんだ。

 そうしてたら、ここで生きていける。

 いつか、あの子にまた会う日まで。


 アオバの民は髪色が青いものが多いと聞いている。

 でもあの子の髪は、青より緑がかっていた。

 震えた声で。

 でもまっすぐ俺を視て。

 守ると言った。

 その言葉はとても強かった。

 その目はとても優しかった。

 左目の下に黒子があった。

 何度も声を思い出している。

 あの子に会いたい。

 お母様によく似た声だった。

 また聞きたい。

 そのためならなんだってする。

 これが王になれば、俺は出ていく。

 地位を捨てて、森に行く。

 アオバに行く。

 ……誰かとともに生きていたとしても。

 

 俺はただ、その日のために息をする。

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