私はただ。
「ほら。いいなさい。いつなの?」
「あ……え……あの……」
「あーもう! 聞こえない!」
「ひっ……。すっ少しだけ先……です」
「少しって?」
「ご……ごめんなさい……。まだはっきりは……」
「……もういいわ。そうね。まだ力が安定してないってことで、お父様には言うわ」
ガチャガチャと足音をたてながら、階段を上がっていって。
「……はぁはぁ……」
真っ暗になった。
……いつまでこうしていたらいいの?
……終わりなんてない。
……この力が安定したらきっと、もっとそばにいる。ずっと。
私に自由はない。
先はない。
神子が視るのは、自分以外のこと。
民のために存在するから、自分の未来は視ることができない。
それでも。
もし、願いが叶うなら。
私の先を視ることができるなら。
ただ。
「……あの子に会いたい」
思わず声に出ていた。
1度だけ。
たった1度だけ会ったことのある子。
初めて、綺麗だと思った。
ーーーーーーー
私はアオバの民。
お父さんとお母さんはもういなくて、おばあちゃんと暮らしてたけど、この前死んじゃって。
ひとりぼっち。
そんな私を、民のなかでも裕福なこの家が受け入れた。
先視がほしくて。
この国の言い伝え。
伝承。
蒼い月の日に生まれた子は、『先視の神子』。
未来が視える特別な子。
その子はアオバの森を、民を守るために、王族に嫁入りする。
人によっては、生け贄、人質というけれど、あの子にとっては玉の輿なんだと思う。
民の中で裕福といっても、森の外の民に比べたら全然で。
基本的には、長が外との繋がり役。
そうなれば、もっと豊かになると思ってる。
私とあの子は同じ日に生まれた。
アオバの民らしい、真っ青な髪。
愛らしい顔立ち。
先視の神子は自分だと言われて育ったそうだ。
でも、その力はなくて、私にとられたと。
だから、私をそばにおく。
視たものを言えと。
訳が分からなくて、どうしていいか分からなくて。答えなかったら、この場所に入れられた。
地下の真っ暗な牢屋。
ご飯も火もなくて。
叩かれて、怒鳴られて。
……自分が王妃になるために、私を引き取ったと。
さっきみたいに、騒ぐだけ騒いで。
いつ何が起きるのか。
視えるけど、はっきりとは分からなくて。
まだ断片的で。でもそれも少しずつ、大きくなっていくにつれて、鮮明になっていった。
……それが嫌だった。
いっそ視えなくなれば、ここから出られると思ったのに。
1度だけここを抜け出すことができて、森の中に隠れた日があった。
その時に出会った子。
赤みがかった黒髪の男の子。
質のいい服を着てた。
小さくなって泣いていて、思わず声をかけた。
「……アオバの子じゃないよね。どうしたの?」
「……お母様がなくなって。お父様は僕を見てくれなくて、1人なんだ。……アオバは慈悲深くて優しいんでしょ? 神子は僕をみてくれる?」
「……ごっごめんなさい。神子は……まだ力が安定してなくて、視れなくて。でっでも、いつか……いつか視るから。あなたの未来。視るから」
涙で一杯の瞳は、月灯りでキラキラしてて、とっても綺麗だった。
初めて未来を視たいと思った。
この子がどんな大人になって、どんな道を歩くのか。
「アオバは……先視の神子は、この地の民を守るから」