表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甘いメル  作者: Caamy
3/3

血の繋がり?いらないよ…心がつなぎ止めるから。

血の繋がり?いらないよ…心がつなぎ止めるから。



第3章




あの父との直談判の後、頭の中はめちゃくちゃだった。


信じられない。


本当に家を出してくれた。


ひとりで。


説教も。


罰も。


教育と思わせるあの忌まわしい道徳レッスンもなし。


“不滅者の倫理と責任”なんてレポートも。


図書館の湿っぽい棚から引っ張り出された気の滅入る哲学書の分析も。


そして最恐だったのは…怒らしを外した時に放たれる、あの殺意じみた視線すらなかったこと。


一瞬、罠かと疑った。


でも違った。本当だった。


ゴーストには理由がある。


僕が……人間だというだけで不滅者たちの間では不都合な存在。


王様に知られれば、ゴーストは本当に首が飛ぶかもしれない。


でも…仮面舞踏会だ。


顔を隠せば、僕が人間だと気づかれない。


耳を隠す長髪。


背筋を伸ばした立ち姿。


ただの群衆のひとりに紛れるだけ。


招待状を開く。


赤い紙。


金色のインク。


最後に書かれていた名前は…


ギゼル。


“男性にしては繊細な響きだな”って一瞬思ったけど、それよりも気になることが山ほどあった。


それでも…なぜ僕なんだ?


他にもいるだろう。強い、準備された、正統な子が。


なのに…人間の僕を選ぶというこの矛盾。


なんでだ……?


否だ。


そんな考えは振り払った。


ゴーストが僕を信じるなんて…それこそ世界の終わりだ。


知らないうちに、僕は部屋を歩き出していた。


廊下を頭を下げて一人で歩いていたら…


“バシッ!”


背中を強く叩かれて前のめりに転んだ。


振り返ると…そこには彼がいた。


シェリョー。


いつものあのバカみたいな笑顔。


まるで、自分が世界の中心かのように。


家の代表という重圧から解放された彼は、とにかくパーティしか頭になかった。


でも僕たちにはわかっていた。


すべてがうまくいかなくなれば…最終的に家の後継者になるのは彼なんだ、と。


そういう男だ。


確かに美しい。


でもあまりにも自己陶酔。


危うく身勝手。


日焼けした肌。


火のように赤い髪。


そして燃えるような瞳。


すべては祖父譲り。


貴族のプリンスみたいに、自信ありげに髪を振り乱す彼の姿は邪魔だった。


しかしそんな彼が近づいてきて、低く囁く。


「そこ、ちょっと来いよ…」


「どこ?」と僕。


返事もなく彼は僕を引っ張り、連れ去った。


まるでジャガイモの袋のように。


あの顔は…まるでいたずら好きな子どものようで、何か悪さをしそうでたまらなかった。


車中は緊迫していた。


彼はそわそわして足を踏み鳴らし、ニヤリと笑った。


まるで知ってしまった気がした瞬間、嫌悪がこみ上げた。


馬車は華美ではなかった。


家紋もなかった。


財力はあるけど目立たない、そんな控えめな装い。


「普通の服でいいだろ。派手じゃなきゃ十分隠せる」


と彼は鼻をピンと上げて言った。


そう思ってるなら大間違いなのに。


馬車が止まると…


彼は車体を叩いて大声で叫んだ。


「ヘビの館だ!」


その瞬間、僕の作り笑いは消えた。


緩和の予定もなかった。


彼はわかっていたのか?


僕が見たこともないほど怒りそうになるのを。


僕を叱るだろうと。


街中で彼の顔を平手で叩きつけるほど…


一種の遺恨になることは必至だった。


「虫みたいな眼で見るんじゃねえ、兄貴よ」彼は目をパチパチさせて、わざとらしい演技をした。


僕たちにとってこれは何度目の光景だったんだろう?


そして扉が開くや否や、彼は僕を前に押し出した。


「お前が護衛だ!いけ!」


—「は?!」


「そのマスクと黄色い死神みたいな目で俺を守ってくれ。しかも俺のワインは俺が持ち込んだからな、毒の心配ゼロだぞ」


彼のニヤリは軽蔑だった。


僕は目を細めたものの…歩き出した。戻る時間はなかった。


そこは見知らぬ者に興味津々な空間。


だが僕は静かに行動した。


やがてVIP用の大扉が現れた。


美女が僕の横に近づいてきた。


「じっと見てたら金が飛ぶよ?」


彼女は驚くほどの少衣装で、化粧もバッチリ。


低いうにゃった声。


「…てめえ、猫舌か?」


僕が返すと、彼女は少し怯えた。


「私…初めて見る顔ね。名前は?」


彼女はもっと近づくが、僕はくぐるようにしてドアを押し開けた。


言葉も不要だった。


中では、大喝声と酔い笑いが混ざる。


彼は確かにそこにいた。


女を二人抱え込み、体を預けながら笑う彼。


「ちょっと待て」と息を殺して言えば、ずっとボウッとなってた緊張が一気にほぐれた。


「話がある。二人きりでな」


僕は声を冷たく抑えた。


女性たちは表情を凍らせたが、その場には残った。


「楽しんでるのに邪魔するの?」 彼は悪びれない。


「お前らが聞いてたら…明日は誰か血を流すぞ」


で、彼の顔が凍りつき、手で女の頬を掴んだ。


空気が停滞した。


でもすぐ離した。


そして僕たちは離れて温泉に。


ここでは下着なしが基本だ。


俺たちだけで簡素な浴場に飛び込み、重い息を吐きながら温かな湯気の中で顔を合わせた。


「お前、礼服とマスク…必要だろ?」


彼は瞼を半分閉じて振り返ってだけだった。


「何で?」


「お前が代わりに行くんだ。


 この舞踏会にはそれ相応の理由がある」


僕の声は限界まで冷たかった。


彼が嘲笑う。


「また冗談か?」


「冗談じゃねぇよ。全部お前の計画だ。


 消えたのも故意だったし…


 父さんが選んだのは俺じゃなくてお前…それなりに理由あるんだろ?」


彼は酒をすすりながら首を横に振った。


「お前のヒステリックさには付き合いきれんぜ。


 “俺が行きたい”って言っただけなのに…」


僕は眉間にしわを寄せた。


「本来はお前の役目だった…第一子だ、正当な跡継ぎだ」


彼は髪を掻き上げながら言った。


「この頭と瞳で家継承の確率アップ…そんなもん、父さんが責任感じるしかないだろ」


僕は深く息を吐いた。


「ハレイのこと…覚えてるか?」


湯気の中、彼と目が合う。


一瞬で止まる彼の動作。


「誰のことだ?」


「ハレイだ」


彼の杯は手の中で動きを止めた。


そして…彼の笑みは薄れた。


でも彼はすぐに目をそらした。


「そんなのただの昔話だ。


Elfretico はひと目でただ一度だけ愛するって、お伽話よ」


彼は声を荒げた。

でも僕は眉根を寄せたまま言った。


「一度も傷ついたことないって?」


彼は短く首を振った。


「ないよ」彼は自信ありげだった。


僕は目を閉じた。


「そっか…信じてるよ」

「本当だって!」 彼は声を張った。


また同じパフォーマンスだ。


壊れた兄弟。


嘘を重ねる仮面。


そしてこれからも、火に油を注ぐだけだ。


でも…この兄に代わって送り出されるのは…また大惨事の始まりに過ぎない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ