公開処刑を始めましょう
「 リリー・カサブランカ公爵令嬢!
今この時をもって、お前との婚約を破棄する!
そして!!
これからはこのサリー・マクガレン男爵令嬢と婚約を結び直す!
お前は、俺がサリーと仲がいいのに嫉妬して、サリーに様々な嫌がらせをしたそうだな!
お前のような悪女とは結婚できない!」
理想の王子様の廉価版のような金髪蒼眼 の優男、マイケル・トーミウォーカー王太子は、隣にいるピンク・ブロンドのサリー・マクレガンの肩を抱いてリリーを指差した。
場所は学園の大ホール 。
今日は卒業記念パーティー。
最終学年の生徒と、そのパートナーたちが固唾を飲んで見守っている。
「その婚約破棄は、お受けいたしかねます」
リリーは毅然と胸を張った。
「は? 破棄すると言っているのだ。
お前に選択肢などない!」
「いいえ。
選択肢がないのは、あなたです。
マイケル第1王子殿下。
私がサリー・マクガレン男爵令嬢を虐げたと言うならば、その証拠をご提示ください」
「証拠だと?! そんなものサリーが、そう言ってるのだから、そうなのだ!」
そうなのだ? バカ◯ンかよ?
「「「そうだ、そうだ」」」
と、同調するのは教会長の息子セルジュ、リリーの義弟アフォメ、マイケルにベッタリ貼り付いて笑うサリー、そしてーー
「なんと生意気な悪女め!
頭が高い! 控えろ!」
アホ王子の後ろに控えていた取り巻きの1人、騎士団長の息子カルシオンが出てきてリリーを取り押さえる。
「ぐっ」
リリーは肩を押され無理矢理、跪かされる。
床の冷たさがリリーの体温を奪う。
「ははっ、いい気味だ。
そこから見える景色は、どうだ?
リリー・カサブランカ公爵令嬢?」
マイケル王太子が高笑いする。サリー・マクガレン男爵令嬢もニヤニヤと見下ろす。
「影!!」
リリーの号令と共に、音もなく現れた男達が王太子グループを、後ろから羽交い締めにした。
手には暗器を握っており、近衛は近づけない。
「「「なっ」」」」
「その者は、準王族である私を害しました。
傷害の現行犯です、斬り捨てなさい!」
リリーがカルシオンを指差すと、その背後にいた黒ずくめの男が、カルシオンの喉を短剣で掻き切った。
「「「「っ!」」」」
カルシオンが喉を押さえて、のたうち回る。
喉笛を切っているので、声は出ない。
ただ吹き出す血が床に広がっていくだけ。
誰が見ても、もう助からない。
いくつかの悲鳴と共に、人々が出口へ殺到するもドアは塞がれている。
バタバタと気絶する令嬢たちが、床に落ちていく音がする。
「では、始めましょう」
リリーは扇子を広げて笑う。
そして、ゆっくり王太子に近づく。
王太子は、完全に雰囲気に呑まれていて顔色が悪い。
「まずは陛下の"王命撤廃書"です。
私と殿下の婚約は王命です。
殿下、"王命撤廃書"を、お出しください」
マイケルは黙ったまま俯く。
「無いのですね? 陛下に無断で婚約破棄を宣言したのですね?」
「……」
リリーが笑う。
「そうでしょうね。あるわけない。
パーティーが始まる直前まで、何度も確認しましたもの。
この、ふざけた断罪劇は、王太子殿下の独断ですね?」
「お、お、俺は王太子だ!
王族にこんなことしてタダで済むと思うのか?!
さっさと離せ!」
「"王命撤廃書"は、無いのですよね?
では、あなたは王命に逆らった国家反逆罪の現行犯です。
確かに、この場で1番身分が高いのは王太子殿下ですが、罪人ですので場を取り仕切る権限は私にあります。
婚約破棄の手続きが完了するまで、私の身分は準王族ですので」
「く……」
「桜音歴276年、7月15日17時27分。連れ込み宿A。
桜音歴276年、7月19日17時55分。王宮、王太子の自室。
桜音歴276年、7月28日18時32分。王宮、王太子の自室。
桜音歴276年、9月14日17時55分。連れ込み宿A。
桜音歴276年、10月10日16時50分。空き教室。
続けますか?」
「っ……」
「黙秘ですね?
承りました。
それでは別件から進めましょう。
サリー・マクガレン元男爵令嬢。
桜音歴277年5月14日と278年9月21日に堕胎した子の父親は、どなたですか?」
グリンっ! と音がしそうな勢いで、会場すべての目がサリーに向く。
拘束されてるメンバーもだ。
「なっ、だ、堕胎なんてしてない!
何をふざけたことを?! 私は乙女よ!
こ、こんな、こんなことって?!
しん、信じられない! 人殺し!」
騎士団長の息子カルシオンは、床に横たわったまま動かなくなった。
「では先に不敬罪で処しましょう。
サリー・マクガレン元男爵令嬢、あなたは本日の正午、平民になりました」
「はあ?」
「マクガレン元男爵には、大金貨3万枚の借金がありました。
私は、その債権を1つにまとめてモリスタン子爵に売りました」
モリスタン子爵は、現代日本で言うところの闇金的存在。
「モリ……そんなバカな……」
「バカは、あなたです。
サリー・マクガレン元男爵令嬢。
マクガレン元男爵は、爵位と領地を売り払いました。
ですから、あなたは平民です。
平民にも関わらず王太子殿下に侍り、あまつさえ御身に触れ、準王族である私を見下し冤罪にかけ、侮辱しました。
不敬罪にて鞭打ちに処します」
リリーはドレスの裾から、鞭を取り出し構えた。
サリーを拘束していた男が、王太子が贈ったであろう高級ドレスを破り捨てる。
サリーの白い裸体が露になり、会場中が、それに釘付けになる。
ーーバシンッ!
容赦なく鞭が振り下ろされる。
「ぎゃああぁあ!」
ーーバシンッ!
「いああああぁああ」
ーーバシンッ!
「でああああぁああ!
ゆ、言うっ! 言うから待って!
……はぁ、はぁ、277年はセルジュ!
その後のはアフォメ」
会場は色んな悲鳴が混ざり合い、阿鼻叫喚。
王子が次期王妃にすると宣言した貴族令嬢が、非処女どころか堕胎経験者。
これは前代未聞の事件。
「なぜ王太子殿下の御子でないと、断言できるのですか?
可能性はありますよね?」
「マイケル様は!
後ろの穴しか使わないの!
『成婚前に孕むと困るから』と!」
「なるほど。
次、アフォメ」
名を呼ばれた男が体を震わす。
「お、お許しください、お義姉さま!
ぼ、私は騙されただけです! その女狐に!」
と、サリーを指差す。
「嘘つき!
『リリーを断罪して国外追放にしてやろう』と言ったのは、あなたじゃない!
『殿下との結婚がなくなったリリーが婿をとって家を継ぐことになれば、自分はお払い箱になってしまうから』と!」
「ち、違う! 僕はそんなことっ」
身内で揉め始める。
「まず第1に、私はアフォメ、あなたの姉ではありません」
「それは……血は繋がってませんが、カサブランカ公爵家に養子に入れていただきーー」
「そうです。
養子縁組した時に、契約書を交わしましたね。
そこには、こうありました。
『カサブランカ公爵家に害を成す行為、またはそれを企てた場合、廃籍及び、それまでの養育費教育費を返還する』と」
「で、ですから、そんなことはーー」
「桜音歴278年6月7日17時27分。
学園の生徒会室。
『サリー。最初に王太子殿下の子を産んだら、次は僕の子を産んでくれ。
それをカサブランカ公爵家の後継にしよう。
なに、本妻にはこっそり避妊薬を飲ませるよ。
石女と呼ばれるくらいなら、君の産んだ子を引き取るのに賛成するはずさ』
アフォメは縁戚ですが血縁でないため、カサブランカ公爵家の血を引く私の従妹を娶る予定でした。
もし2人に子が産まれなかった場合は、私の子か次に血の濃い親族が後継に選ばれる予定でした。
つまり、カサブランカ公爵家と血の繋がりの無い子を後継に据えようとしたということは、乗っ取りなのです」
「ちがっ! お義姉さま! それはその場の雰囲気で言ってしまっただけでーー」
「お黙りっ!
もうすでに、あなたは除籍しています。
影! その痴犬を裸に剥いておしまい!」
アフォメを拘束していた男が、彼の服を剥ぐ。
ーーバシンッ!
「ぎゃああぁあ!」
「あらあら、叫び声もマクガレン元男爵令嬢と同じだなんて。
平民同士、よっぽど仲がよろしいのね」
ーーバシンッ!
「ひいああああぁああ」
アフォメはフルチンで、のたうち回った。
勿論、誰も助けない。
「さて」
と、リリーは再び王太子の前へ行く。
扇子を開いたり閉じたりする。
ーーパチン、パチン、パチン
セルジュ教会長子息は、すでに気絶している。
マイケル王子の心も、折れていた。
「……まだ何かあるのか?」
「有責側は婚約破棄できません。
できるのは婚約解消を、お願いすることだけです。
私に何か落ち度がありまして?」
それから間も無くして、マイケル王太子とリリー・カサブランカ公爵令嬢が結婚した。
その初夜のこと。
「あっ、んあ……あら?
何か来たわよ?」
睦み合っていた国王と王太子妃リリーが、ガウンを羽織ってベッドから出る。
そこには窶れ果てたマイケルが、亡霊のように立っていた。
ここは王太子夫婦間用の寝室。
「誰かと思ったらアナル王子じゃない。
どうしたの?」
「な、何をしているのです?」
「子作りだが?」
「な、だ、お、俺が夫ですよ!」
「お飾りのな」
「王太子妃の責務は王族の血を遺すこと。
子種は、あなたじゃなくていいの」
「血、あ、そ、それでも、ふ、ふ、不貞じゃないか!」
「ウフフ、それをあなたが言うの?」
◽完◽