7.詩織の正解の選択
詩織と仕事終わりに駐車場までゆっくり歩く。
大輝は先に地元に戻っていて、明日からは年末年始の長期休暇に入る。
「詩織は休み中、大輝の所?」
「こっちの荷物を少しずつ運びながらね」
今年の冬も例年通り寒い。
まだ会社の中なのに、外に向かう通路がひんやりとする。
「大輝は地元に戻って元気にやってるか?」
「家の仕事覚えながら、自分がやってきた事も取り入れていくんだって。
すごく忙しそうだけど仕事は楽しそう…坂本もたまには連絡入れてやって」
「そうだな」
詩織とこんなふうに話すのも、あと少しの限られた時間なんだと思う。
ここへきての長期休暇は、つらい。
「坂本…」
「ん?」
「大輝がさ、実家が近いのに私と一緒に暮らす為のマンションを借りてくれて、そのマンションには段々生活する為の必需品が増えてきてて、あとは私が行けばいいだけになってきてるの」
「…良かったな。そのまま大輝の実家に入るとかだと詩織は特に気を使うからな」
「でもね、もちろん新しい生活は楽しみなんだけど、本当にこの決断が正しかったのか、どうなのか、ってまだ考えちゃう時があるの。全部自分で決めた事なのにね」
そう言って詩織は悲しそうな顔をする。
坂本は一瞬詩織を見てから、前を向いて話す。
「全てにおいて正しい方を選択するのは難しいんじゃないか。その時は正しいと思っても、あとになって変わる事もあるしな。
だから今の自分の気持ちに正直にいれたら後悔はしないだろ 。大輝を信じてついて行く、と自分で決めたのなら、今はきっとそれが正解なんだよ」
「そうだね…」詩織がつぶやく。
「坂本、正月休みはどうしてるの?」
急に明るい声で、詩織がたずねる。
「特に予定はないけど…」
「3人で初詣行こうよ」
「別にいいけど?」
「細かい事はまた私からメールするね」
いつの間にか、自分の車近くまで来ていた事に気付く。
詩織の後ろ姿を見送りながら、あまりの寒さに上着の襟を立てた。