4.大輝と坂本
坂本が訪ねてくる事は容易に予想できた。
きっと詩織から話を聞くから。
ただ予想よりも早い登場に、驚いた。
いつも以上の早足とキビキビした行動に、感情が高ぶっているのが分かる。
「実家に戻る話、詳しく聞かせてくれ」
工場と事務所をつなぐ階段隅で、立ち話をする。
一見上手くいっていない仕事の話だと周りは思うだろう。坂本が難しい顔をして詰め寄ってきているから。
賑やかに話す訳でもないから、多少休み時間が過ぎても構わない。
「オヤジの体調が良くなくて、3ヶ月前から入退院を繰り返してる。予定より早いけど、オヤジは一線を退くから、オレに継いで欲しいと連絡があった」
オレは淡々と話す。
坂本は表情を変えない。
「で、お前はどうするんだ?」
坂本がまっすぐオレを見て聞く。
「予定が早まったたけだから、実家に戻るつもり。短かったけど設計の勉強は出来たから」
返事に余計な感情は入れない。
「それはオレが聞きたい返事、全てじゃないのは分かってるよな?」
オレは坂本を見る。
坂本の気持ちは前に気付いて、一度お酒の力を借りて2人で話もした。
「詩織に、ついてきて欲しいとはオレからは言えない」
坂本から目をそらす。
「詩織には詩織の人生がある」
「その人生に踏み込んでるのはお前だろ?
全て詩織に任せるのは無責任すぎないか?
お前達付き合ってるんだよな?」
「第一…」
そう言って坂本はオレに一歩近付いた。
今にも胸ぐらを掴まれそうな距離だ。
「オレも詩織もお前の本心を聞いてない。
お前は詩織にどうしてもらいたいんだ?」
オレは坂本を見る。
詩織にオレ達の今後全てを任せているつもりは全くない。オレもオレなりに考えている。
だから一気にまくし立てる。
「そりゃ一緒に来て欲しいよ、一緒に地元に連れて帰りたいに決まってる。
けど、まだ足場も固めてないのに、知らない土地で不安な詩織を安心させてやる自信がない。
坂本、お前ならどうする?お前だったら、詩織を連れて行くか?オレはまだ自分の地元だからいい。
詩織は自分の慣れ親しんだ土地から離れるんだぞ」
「オレなら…」
坂本は覚悟を決めたような顔つきでキッパリと言った。
「本当に詩織が好きなら、多少強引でも説得して連れて行く。もし詩織が不安で仕方ないようなら、その時別の方法を話し合う。とにかく、詩織は側に居てやらないとダメなんだ。そうしないと、我慢して、うちに秘めて、最終的に自分を見失ってしまう」
坂本の言葉につい言ってしまう。
「オレより詩織の事が分かってるんだな…」
坂本が少し悲しそうな顔をしたように見えた。
「勘違いするな。詩織が好きなのはオレじゃない、お前だ」
オレは少し躊躇しながら、聞く。
「坂本はいいのか?オレが詩織を連れて行っても…」
坂本は笑うわけでもなく顔を崩した。
「オレは好きな子の幸せを願ってやれない程、野暮じゃない。お前が本当に詩織を想っているなら、一緒に居る方を選んで欲しい」
「…そうか」
「とにかく、詩織を泣かせないでくれ。オレはお前だから詩織を任せている」
坂本の気持ちは、充分理解している。
「今日にでも、もう一度詩織と話し合いをする。オレと詩織が納得出来る着地点を探ってみるよ」
坂本は静かに頷いた。




