37.平日のドライブ 詩織の喫茶店
いつもの〝カランコロン〟の音で、詩織の店に来たことを実感する。
「坂本!」
近づく詩織に、体をどけて美咲を見せる。
「美咲ちゃん!久しぶり!」
〝約1年振り位ですね〜〟と2人で、再会を喜んでいる。
「今日マスターは?」
1人で店を切り盛りしている詩織に確認する。
「マスター、体調が悪くて最近平日は私1人なの。2人は平日なのに仕事大丈夫だったの?」
「あぁ、オレの休日出勤の代休と美咲も有休が余っていたからドライブだよ」
他のお客さんはすでに何らかの食器が見えるので、提供は終わってるのだろう。
坂本にコーヒーと美咲にオレンジジュースをもらう。
「何か作ろうか?忙しくないから、何でも大丈夫。売り上げに貢献してってよ」
詩織の言葉に、グラタンといつものサンドイッチを頼む。
美咲と話しを交わしながら手際良くこなす詩織は、ある程度のお客さんの数なら1人でも店をまわせるだろう。もう立派にこの店を守っている。
コーヒーも心なしかこの前よりも美味しく感じる。
器用な詩織が作ったと思われるPOPも、店内に溢れている。
観葉植物も戻ってるし、一番最初に来た時と同じ様に見える。が、気のせいか何か店内が暗くなった気がする。
ふと、天井を見上げると、雨漏りをしたような跡が見えた。キレイにしていても建物自体は古いんだな、と気付いた。
サンドイッチを食べながら詩織と話していると、半年前に比べて少し痩せた様に感じる。
きっと毎日自分の事は後回しにしているのだろう。
「最近メールもないけど、毎日忙しいのか?」
坂本の質問に大きくうなずく。
「なんだかんだ毎日があっという間に過ぎてく。こんな20代になるとは思ってなかったよ。それだけ毎日充実してるのかもね」
詩織が笑う。いい顔をしているので、きっと本心なんだろうと思う。
「帰りに大輝の工場にも顔出すつもりなんだ。頼みたい仕事もあってさ」
「大輝、あれから1回コーヒー飲みに来てくれたよ。私の忘れ物を届けながらだけどね」
「そうか」
この前連絡取った時には何も言ってなかった。
「最後の話し合いの時に、感情的になって悪かったって謝ってた。いつもの人が良い大輝に戻ってたよ。私は、全然気にしてなかったのに」
「大輝も思うところがあったんだろ」
「…私も意固地になってたのかなぁって思って」
詩織の言葉にそっと美咲と顔を見合わせる。
「元通りとはいかなくても、普通に話せる様になれればいいな」
坂本の言葉に、詩織が頷きながら笑った。
「そういえばコーヒー豆の発送どう?」
会計時のレジ付近で話す。
「おぅ、時間がある日の朝に飲んでるよ。ウチはみんなコーヒー派だから気付くとなくなってる時もあるけど。一緒に入ってくる詩織の近況報告も楽しみにしてるんだ」
詩織が軽く笑う。
「じゃ、そのまま続けるよ」
「届くまでに時間はかかるけど、メールよりも手紙の方が味があるよな、詩織の字を見て懐かしんだり、気持ちも伝わってくる」
坂本が声のトーンを下げる。
「それより大丈夫か?オーナーというかマスターの娘婿が色々口を出してきてるんだろ?」
詩織が苦笑する。
「よくそこまで察する事が出来るね。ホント、坂本には負けるわ」
坂本が店内を見渡す。
「悲しいかな、状況を把握するのは得意だから。前より店が暗くなったし、雨漏りも直してもらえないみたいだ。広かった駐車場も半分売りに出したんだな。
詩織…負けるなよ。マスターにも頑張ってもらって居場所を守れよ」
詩織が深くうなずく。
もしかしたら坂本が思っている以上に事態は深刻なのかもしれない。
「分かってる。絶対に負けない」
詩織の強い口調に坂本もうなずいた。




