36.日向ぼっこの坂本と美咲
春の日差しが降り注ぐ窓辺で、坂本はやりきれなかった仕事をしている。ベランダでは、美咲の洗濯物が風でゆっくり揺れる。
ポカポカと暖かく、気を抜くと寝てしまいそうだ。
「はい、コーヒーだよ」
美咲が坂本のマグカップを差し出す。
「ちょうど飲みたかった、ありがと」
受け取ってそのまま口を付ける。
美咲は読みかけの単行本を手に、坂本と背中を合わせる。邪魔にならないように、あまり寄りかかりすぎないように、調整して続きから本を読む。
坂本が書類に書くペンの音と、美咲の時折本をめくる音がする。
外からは、車が通る音と鳥の声。薄い白のカーテンが揺れて擦れる音がした。
「よし、終わった」
勢いよくペンを置き、美咲の背中にもたれた。
「あ〜疲れた」
手を伸ばして、後ろ向きのまま美咲の頭をポンポンと軽く叩く。
「終わった?」
美咲はその手を触る。
「片付けだけ先にするよ」
書類をまとめて、持ってきた営業鞄に入れる。
コーヒーをこぼれない場所に移動させ、使用していた折りたたみテーブルは脚を折り曲げて、隅に片付けた。
ポカポカ日差しが届く窓辺で、坂本が寝転び腕を広げ、美咲を見て〝ここへ来て〟と合図する。
美咲は、読みかけの本を片付け、坂本の腕枕で胸に顔を埋める。
「付き合って1年だなぁ」
美咲の頭を撫でながら坂本が言う。
「記念の今日の外食が楽しみだね」
坂本の顔を見上げる。
「美咲は何時ごろ結婚したい?」
突然の質問に、坂本から優しく注がれる視線とは別に鼓動が速くなる。
少し考えてから答える。
「今すぐにでもしたい気持ちもある。でも独身の今、やっておいた方が良い事をしてからでもいいのかな」
「例えば?」
坂本の手が美咲の頬を撫でる。
「同期と旅行へ行ったり、料理教室へ通うこと。あとは計画的に貯金して結婚資金を貯める事かな」
坂本がおでこに軽くキスをした。
「そうだな、貯金はオレも始めてるよ。だから美咲は今しか出来ない事をちゃんとやっとけよ」
「…そのうちプロポーズしてくれるの?」
自然とニヤけてしまうのを抑えられずに坂本を見て聞く。
「美咲の様子を見てちょうどいいタイミングでな」
坂本の言葉に、熱い気持ちがこみ上げてくる。
そっと自分から坂本の唇にキスをした。
唇を離すと、今度は坂本から優しくされる。
薄いカーテンが揺れて、いい風が入ってきたのが、目を閉じていても分かる。




