35.坂本の家族
忘年会前の表彰式でもらった、新人賞の封筒を前に2人で正座する。
2人一緒に手を合わせてお辞儀した。
「ありがとうございます」
いつもの美咲のマンションだ。
「坂本さん、おめでとう」
「ありがと、美咲」
肩を抱き寄せ軽くキスをする。
「これで年末出掛けよう」
抱き寄せたまま美咲の鼻先をチョンチョンつつき、坂本がニヤニヤする。
「どこか考えてる所があるんですか?」
思い当たる所がなくて、美咲が首を傾げる。
「えっ、美咲の実家だろ?さすがに実家に泊まるのは気を使わせちゃうから、近くの温泉宿でも泊まってこようぜ」
当然の様に言う坂本に驚く。
「いいんですか?せっかく坂本さんがもらった賞なのに私の帰省で使っちゃって…」
「この前、美咲のお母さんにも遊びに行くって言ってあるしな。美咲が実家に泊まりたければ、オレが後で迎えに行きながら、帰りにどこかでゆっくりしてきてもいいよ」
すぐにイメージをする。
「それだと行きがバラバラになっちゃう。どうせなら一緒がいいな」
いつもは、交通機関を使って帰省するが、坂本となら車で移動するだろう。車内で一緒に話しながら居る空間も楽しい。
実家までなら、片道3時間位余計に一緒に居られる。
「じゃ、美咲の実家付近でいい宿探して早く予約しよ。もういい所はないかなぁ。どこか思いつく所ある?」
本棚に入っている旅行雑誌を取り出し、探し始める。
「坂本さんは、私のお母さんにたまたまとはいえ会ってるでしょ?」
「うん、この前美咲が風邪ひいた時な」
本を見ながら、返事をする。
「私も1回坂本さんの家族に会ってみたいな」
美咲からの言葉に、すぐに顔をあげ、真顔で見るから何かあるのかと一瞬緊張が走る。
「そういえば、ちゃんと会った事はないか…」
坂本は美咲の方に向き直った。
「すっげぇ騒がしいけど、いい?」
「すっげぇ騒がしい…?」
「前にも話したけど、オレ下に弟と妹がいんだよ。家の中がそれはもうバタバタしてて、こことは大違いで美咲ビックリするかも。それでもいい?」
「そんなに?」
「確かに一度会っといた方がいいよな」
独り言の様につぶやくと、携帯を取り出しすぐに電話をかける。
「母さん?今日夕食1人分追加して。美咲連れてくから」
トントン拍子に話が決まり、自分が言い出した事とはいえ頭が追いつかない。
電話を終えて、美咲の前に座ると頭を軽く撫でた。
「今日の夕食はウチで食べよう」
「急に大丈夫だったの?」
「大丈夫、大丈夫、弟の彼女も妹も居るって」
美咲の頬を撫で、軽くキスをする。
「確かにもっと早く連れてけば良かったかもな」
まっすぐ見つめる目を、美咲が見つめ返す。
「宿泊先、明日決めよう」
「今からは?」
「実家に行ったら2人きりになれないから、今からは沢山美咲に触れとく!」
優しいキスをして、坂本が微笑んだ。
出迎えてくれた優しい雰囲気のお母さんに、挨拶して手土産を渡す。
「ありがとう。後でみんなで頂くね。みんなもう揃ってるよ」
ニコニコされて、ホッとする。
リビングに行くと、派手な髪色のカップルがゲームしてる。
「あれが弟の仁。隣が彼女の奈々」
2人が気付いて「おいっす!」と手を挙げる。
「2人は美咲より1つ下の幼なじみ。だから奈々の事は小さい時から知ってる。あんな頭してるけど2人ともちゃんと働いてるよ」
テーブルの上に食器を並べたり手伝ってるのは、妹さんのようだ。「はじめまして」とニッコリされて、「はじめまして」と頭を下げる。
「妹の愛だよ。21歳になるから美咲より3つ下の大学生」
坂本の説明に、人懐っこそうな妹は「美咲さん呑める?」と聞いた。
「はい、お酒好きです」
「良かった。明日もお休みだから今日は酒盛りだよ」
隣からゲームで盛り上がっている声が聞こえる。
「部屋着持ってきたから、愛の部屋で頼むな」
「お兄ちゃんの部屋じゃなくていいの?」
ウフフと笑いながら、からかう様に言う妹に坂本が焦る。
「いいから布団用意してきて。奈々も泊まるかも、だろ。ここは代わるから」
坂本と一緒に手伝いをする。弟さん達は近くの酒屋へ買い出しに行ったようだ。
坂本のお母さんはイメージ通り気さくに話しをしてくれる。
「今日のお肉は、美咲さんの為にお父さんが同級生のお肉屋に頼んでくれたの。美味しいお肉だから沢山食べてね」
隣でトマトをくし切りにしてる美咲は喜ぶ。
「お肉も嬉しいし、いつも一人で寂しいから大人数で食べるのも嬉しいです」
「騒がしくても良かったらまたいつでも食べに来てね」
母親と談笑しながら手伝いをする美咲を、後ろからにこやかに眺める坂本が居る。
「そろそろ仁達も帰ってくるし、実と愛で分担してすぐ食べれるようにホットプレート温めて。お父さんもそのうち来るから火が通りにくいのから焼き始めよう」
父親の乾杯の合図で宴が始まり、2つのホットプレートで焼かれたお肉や野菜に手をつける。
みんな美味しいお肉に歓声が上がり、満面の笑みでアルコールも進む。
美咲のお皿が空になってくると、〝コレ美味しいよ〟とみんながそれぞれ勧めてくれるので、色々な物を食べながら楽しい話に耳を傾けた。
特に、仁が話す失敗談や体験談が面白くて、美咲は坂本や愛と顔を見合わせたりしながら、お腹を抱えて笑った。
仁の話に奈々も便乗して話しを大きくするから、どんどん盛り上がる。
話題も次から次へと変わり、母親も父親も一緒になってワイワイ話す。
お腹が満たされると、お酒の種類を変えながら、それぞれが好きなつまみで呑みだす。スルメで日本酒を呑む奈々はオヤジだと揶揄され、チョコレートをツマミに呑む愛は変わってると言われた。
そして、美咲は呑んでもあまり変わらないので、その小さい体のどこにアルコールがいくのか、と不思議がられた。
あっという間に楽しい時間は過ぎ、さすがに眠くなってきた頃、隣に座っていた愛にも限界がきたようで、「美咲ちゃん、寝に行こう」と手をつながれた。
目をこすりながら手を引かれ、愛の部屋で着替えて布団に入った途端に、記憶がなくなった。
美咲が気付いた時には、愛と奈々の真ん中で横になっていた。近くに自分の携帯があったので、時間を気にすると朝の7時だ。
2人とも起きる気配がないので、もう少し寝ようと決め目を閉じた。二度寝から起きた時には、10時近くになっていた。
布団の上に座りしばらくボーっとすると、奈々が目を覚まし、「今何時?」と聞く。
「10時過ぎだよ」と答えると、もぞもぞと起き出した。
「午後から出掛ける予定があるんだよ」言いながら半身を起こすも、まだ目を瞑ってユラユラ揺れてる。
「奈々ちゃん、何時に寝たの?」
美咲の記憶が確かならば、愛と寝に来る前にお父さんとお母さんが先に寝に行って、まだ若い人達だけは呑んでたはずだ。
「4時」
「4時!あれから2時間も呑んでたんだ…」
「2人が居なくなって、実と仁と3人で呑んでた。最後少し片付けだけして寝た」
奈々の髪があらゆる方向に跳ねている。
美咲は手を伸ばしながら、髪を直してあげる。
「片付けしてくれてありがと」
「美咲、連絡先交換しよ」
「うん」
奈々とメールアドレスを交換して、愛を起こさない様に簡単に布団を畳む。洗面所と坂本の部屋を教えてもらい、顔を洗ったりしてスッキリした後に坂本の部屋に入った。
本棚にはマンガ本が沢山並んでいる。その上のスペースには様々なミニカーが並べられ、出入り口付近には週刊誌が積み重なり、コーヒーの空き缶が1列に並んでいる。
坂本は、軽い寝息を立てながらベッドでグッスリと寝ているので布団に滑り込んで抱きついた。
ビックリした坂本が目を開けるが、美咲だと分かった途端に笑って抱きしめ返した。
「ビックリしたぁ〜」
美咲のおでこにキスをする。
「オレまだ酒臭いでしょ」
「うん。4時まで呑んでたんだって?」
「まだ完全に抜けてない」
抱きしめながらしばらく髪を撫でて、耳元で囁く。
「朝から美咲を抱きしめれるなんて贅沢だけど、脱がしたくなっちゃう」
美咲がクスクスと笑う。
「天気も良さそうだし、ウチまで散歩してのんびりしようよ。宿も決めなきゃ」
「そうしようか」
キスをして、微笑み合ってまたキスをした。




