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34.美咲の風邪

起きたらお母さんと坂本さんの話す声がする。

まだ頭が痛い。ツバを飲み込むと喉も痛い。

頭には冷えたタオルが乗せられている。

でも何でお母さんが居るんだろう…?


あぁ、そうか。

昨日電話で話をしたんだった。すぐに寝るから心配しなくていいって言ったのに。

坂本さんは営業の合間に寄ってくれたのかな。

暗証番号式の鍵だから2人とも部屋には入れるけど、鉢合わせして変な空気にならなかったかな…

お母さんには、坂本さんの事、細かいことまでまだ話せてなかったから。

耳を澄ませてみると、楽しげな話し声で安心する。



「美咲から好きな人が出来た、とは聞いてたけど」

「急にボクが入ってきたからビックリされましたよね。すみません、まだご挨拶もしてない段階で…」


〝いえいえ〟と美咲によく似たお母さんは首を振る。

「もう大人ですから、その辺は本人に任せています。それより美咲の好きなものばかり差し入れてくれてきっと喜びます。坂本さんはお仕事の途中ですか?」

「はい、今からまた営業回りに行きますが、まだ余裕はあります」

にこやかな坂本に、印象良くしたらしい。

「良かったら、お茶飲みませんか?」


小さいテーブルを囲んで、美咲の母と顔を見合わせる。

「一人暮らしをすると聞いた時は心配したけど、何とかやってるみたいで安心しました」

「美咲さんは、本当にしっかりしてますよ」

「だから、ですよ」と美咲の母は一旦落ち着くためか、お茶を飲んだ。


「私が離婚したのもあって、美咲には苦労をかけてしまったんです。下に弟もいるんですが、よく面倒も見てくれるし、家事も進んでやってくれました。おかげで美咲は親に甘える事なく育ってしまったので、本当に大変な時に人を頼る事が出来ないのでは、と心配になります」


坂本は、あははと笑った。

「笑ってしまってすみません。美咲さん、ボクと居る時はすごく甘えてくれますよ。今の話を聞くと本当かな、と疑ってしまう位です」


「美咲の口調は、キツくないですか?割となんでもハッキリ言う子なので、学生時代に友達から注意された事があったんです」


「それが逆にボクは助かっているんです。ボクは深読みしすぎる性格なので、美咲さんみたいに言ってくれた方が気を使わなくていいので助かります。

ハッキリと言っても、ちゃんと場はわきまえてるし人が傷つくような事は言いませんよ」


「同じ職場と伺ってますが、仕事の方はちゃんと出来てますか?」


「ボクの方が1年先輩で、1年だけ一緒に働きましたが、後輩の中でも覚えるのは早かったです。真面目なのでちゃんとメモを取りながら、いつも聞いてくれました。付き合い始めてすぐボクは営業に異動になりましたが、美咲さんの加工する製品はキレイだと評判です」


美咲のお母さんは気になっていた事を一気に聞き終えて、ホッとした様子だ。

お茶をゆっくりと飲んだ。


「今日は泊まられるんですか?」

「えぇ、せっかく来たので看病で終わってしまうかもしれませんが…仕事があるので明日には帰る予定です」


「良かったら、今度長いお休みの時に遊びに行かせてもらってもいいですか?弟さんにも会ってみたいです」

坂本の話に、お母さんは微笑み〝是非〟と答えた。



足音がして、坂本さんの顔が見えた。

「起きてたの?」

微笑んでうなずく。

そのままベッドの横に座った。

少しでも顔が見れるから嬉しい。


「今日はお母さんが泊まってくれるから安心だよ。

お母さん帰った後、何かあれば連絡よこせよ。なるべくすぐに来るから。明日仕事終わったら寄るから、欲しいものあればメールしといて」

ゆっくりうなずく。


「不安にならなくても大丈夫。明日は金曜日だし、週末はのんびり過ごして、来週には復活出来るように治そう」

頬を優しく触る坂本さんの手に自分の手を重ねる。


「明日は泊まってくれる?」

上手く声が出ない。

「美咲が治るまで側にいるよ」

「ホント?」

いつもの優しい顔で見つめられると、風邪を忘れて抱きつきたくなる。


よく見たら、スーツで仕事中だと思い出した。

「仕事頑張ってきてね」

「うん、行ってくる」


坂本さんは、最後にお母さんと挨拶してるみたい。

優しい彼だよって、早くお母さんに話せる位まで治したいなぁ…

瞼がまた重くなる。


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