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31.美咲の不安

この時期が来ると、憂鬱になる原因のヤツだ。

今日は早く帰るように、と会社からも通達があり定時に終わった。


なんでこの時間に来るんだろ、と美咲は思う。

仕事中なら周りに人は居るし、夜中ならお酒の力を借りればそのまま眠っていられたかもしれない。

頼みの坂本は、今日は帰りが遅いという。


まだ小雨の中、帰りに急いで買い物に寄り食材を買ってきた。停電してもいいように、そのまま食べられる物だ。すぐ手に取れる所に懐中電灯も置く。

携帯も充電出来たし、簡単な夕食も出来た。

雨戸も閉めたから、部屋の中はすでに暗い。

エアコンが切れたら、蒸し暑くなるだろう。


こんなことなら、事情を話して同期の家にお邪魔させてもらえば良かったかも、とだんだんと不安になってくる。独りで居ることが、余計に拍車をかけている様だ。

だんだんと雨音が酷くなるのが分かった。


よし、と気合いを入れる。

早いけど今のうちにシャワーを浴びて、お酒を飲んで寝てしまおう。


美咲がTシャツに手をかけた時、玄関の呼び出し音が鳴った。もしかしたら、という期待とともに、そっとドアを開け確認する。


「来てくれたの?」

急いでチェーンを外す。

「たまたま最後の予定がなくなったから」

そのまま坂本と抱き合う。

「結構濡れちゃったね。シャワー浴びる?」

「助かる。家寄って着替え持ってきた」


坂本がお惣菜も買ってきてくれたので、すぐ食べれるようにしておく。

入れ違いで美咲も浴びに行く。

その間にキッチンを借りて、坂本も酒のツマミを用意する。


2人で乾杯した時には、キッチンの小窓が時折ピカッと光った。

少し時間があいてゴロゴロと音がする。


「まだ遠いね」

美咲がビクビクしながら言う。

「オレが居るから大丈夫だよ。呑んで寝てしまおうか」

「せっかく一緒に居るのに?」

「居るのに」


また光る。

美咲がビクッと体を硬直させる。

「怖い?」

「雷は怖い。坂本さんは怖くない」


またピカッと光った。

すぐに坂本が美咲の両耳を塞ぎ、胸に抱き寄せる。結構な音でさっきより早く落ちた。


「美咲、目を閉じてて」

坂本の両手がそのまま美咲の両耳を塞ぎ、坂本の手の上に美咲が手を重ねる。

2人の手がヘッドホンになって、今なら雷の音は微かに聞こえる程度だろう。

それよりも、優しく長く続くキスに気を取られ、集中し、恐怖を忘れてしまう。


「だいぶ遠くなったよ」

そっと唇を離し美咲を見つめる坂本を、見つめ返す。

「こんな甘い時間を過ごせるなら雷も好きになるかも」

クスッと笑い、美咲に軽くキスをする。

「オレの事は?」

「もっと好きになる」


「まだゴロゴロいってるから、次の雷に備えてご飯食べちゃおう」

まだ何か言いたそうな顔の美咲が見つめてくる。

「次も甘い時間にしてくれる?」

甘える美咲に言われなくても決まっている。

「朝まで一緒だよ」



次の日の会社で、工場に来た峯野くんがわざわざ美咲の所に寄った。

「昨日は坂本さんと仲良く過ごせましたか?」

峯野くんはニヤニヤしている。

「何で知ってるの!」

「最後の仕事、納品だけだったから頼まれて代行したんです」


「ホント?」


「今度坂本さんの奢りで呑みに連れてってくれるって。ボクも送迎してくれる彼女欲しいなぁ」

羨ましがる峯野くんに言う。

「その日は、大サービスで峯野くんも帰り送ってあげる。仕事変わってくれてありがと」




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