29.美咲の誕生日
「コレ可愛い。お土産で買おうっと」
キャラクターの印刷してある箱を片手に、サッとレジへ向かう。坂本が売り場を確認してみると、中身はお饅頭だ。
(美咲さん、まだ行きのサービスエリアなんですけど…)思わず苦笑する。
レジ近くでもまだ寄り道をしている美咲は、また何か手に取った。
(楽しんでくれているなら、なによりか…)
坂本を見て微笑む美咲に、坂本は自販機を指さす。
挽きたてコーヒーの自販機で、コーヒーを待つ間に美咲が会計を終えて来た。
「美咲は何か飲むか?」
「私はまだ車の中にあるから大丈夫」
コーヒーを手に取り、一口飲んで落ち着く。
ふと、香りで詩織の喫茶店を思い出す。
「あとどの位で着く?」
美咲の声に反応する。
「あと2時間弱かな。お昼は着いてからでいい?」
「うん、大丈夫」
手をつなぎながら、こぼれない様にゆっくり歩く。
「天気が良くて良かったなぁ」
「うん。ホント良かった」
美咲が覗き込むように見てくるから、〝ん?〟と目で合図する。
「何でもなぁい」
美咲は笑って、繋いでいる手を振りながら歩く。
坂本はほどけないように強めに手を握る。
部屋に入った途端に、絶景が飛び込んできた。
早速窓を開けて、景色を眺める。
2人で景色を見た後、美咲は他の扉を開けたりしながら、部屋の間取りを確認している。
予約の時に〝誕生日のお祝いで…〟と伝えておいたのが良かったのかもしれない。
「空いてるからって、広い部屋にグレードアップしてもらったし、露天風呂が付いてる部屋なんて初めて泊まるけど、こんなに贅沢しちゃって大丈夫?」
坂本の側へ戻ってきた美咲が心配する。
「美咲さんのお誕生日ですから」
そっと抱き寄せてキスをすると、止めるのが嫌で、早くこうしたかったんだ、と思う。
強めに抱きしめてから、体を離して頬を撫で、美咲を見つめる。
「誕生日おめでとう、美咲」
「ありがとう、坂本さん。大好き!」
美咲から不意打ちのキスは、坂本の自制心を揺るがす。
「お前、今オレがどれだけガマンしたか…」
「キスするのを?」
「そうだよ、これ以上したら止められなくなるから!」
「先にお風呂にしますか?ご飯にしますか?」
美咲の可愛い顔に自然と笑みがこぼれてしまう。
「新婚さんごっこ?」
「一度言ってみたかったの」
お互いにどこか触れ合っていたくて、手をつないだ。
「先に大浴場行こう。出てから館内探索してればちょうど夕食位の時間になるよ」
腕の中にすっぽりと入り、微睡んでいる美咲のおでこに口づけながら頭を撫でる。
「美咲、そのまま寝るとかぜひくよ」
目をこすりながら起きる。
「今何時?」
「22時30分だよ」
少し体をズラして、軽くキスする。
「せっかくだから、部屋の風呂に入ろう?」
「えっ、なんかちょっと恥ずかしい」
「いまさら?」
「それとこれとは別なの」
「美咲と一緒に入りたくて、風呂付きの部屋にしたのに。見て、月明かりの下で入れるなんて贅沢だし、お互いタオル巻いて入れば良くない?」
「それもそっか」
「お湯の温度がちょうどいい。気持ちいいね」
「日頃の疲れが吹っ飛ぶなぁ」
部屋の明かりを消して、月明かりを楽しむ。
「こんなにいい所じゃなくていいから、また連れてきてくれる?」
美咲の肩を抱き寄せてキスする。
「たまのご褒美で来ような」
自然と2人で月を見上げてしまう。
「夕食の時もケーキ出してもらったり、こんな幸せな誕生日初めて」
「今度は形が残るモノも用意するな」
〝ううん〟と首を振る。
「私にとっては、一緒に過ごせる時間の方が嬉しい」
もっと肩を抱き寄せて、こめかみ同士で顔を寄せ合う。
「来月から泊まりの出張も増えてくるだろうし、寂しい思いさせるかも」
「仕事だし仕方ないよ。でも会ってる時は甘えていい?」
「もちろん」
美咲からのキスは、さっきと同様に坂本に火を付ける。だけど、今度はガマンしない。欲望のままに美咲を愛す。
帰り道の車の中は明らかに美咲のテンションが低い。分かりやすくて、笑えてくる。
「美咲さん、また連れてくるから元気だして!」
「ホントですか?」
(敬語に戻ってるし…)
「せっかく一緒に居るのにもったいないから楽しもう」
「そうですね…じゃあモノマネ大会!」
「いや、モノマネはいいよ」
「レパートリーが増えたのに?」
「あっ、それはちょっと興味あるかも。誰の?」
「坂本さんを呼ぶ峯野くん」
「さかもとくん!」
「あれ?ちょっと似てるかも…」
「ホントですか?」
「ウソだよ。モノマネもやればいいってもんじゃないから…」
「似てませんか?」
「残念ながら。峯野くんは、〝さかもと〟の〝も〟を一番強く発音しなきゃ」
「坂本さんやってみて下さいよ」
「さかも↑とくん」
「あれ?上手い。何で?」
「センスの問題だな」
赤信号で止まったから、美咲の顔を見て頬を撫でる。
「他の人の前ではやらないでよ」
「何で?」
「なんか可愛いから」
「坂本さんにだけ?」
「オレにだけ見せて。橋本さんの真似はもっと論外だからね」
お互いに微笑み合う。
青信号になり、ゆっくりとアクセルを踏む。




