28.坂本と峯野くん
ゴールデンウィークも終わり、浮ついていた気持ちも落ちついてきた。
坂本は書類の作成方法を学び終え、教育係の鈴木主任の指導で今度は営業の流れを学んでいる。
今までよりもあちこちの部署に行く機会が増えた。
資材課へ材料を取りに行ったり、製造課へ製品の進捗を確認しに行く。
最初は指示されて動いていたが、だんだん分かってくると、効率を考えて先に動くようになった。うまく立ち回るので、鈴木主任も坂本を信用し可愛がってくれる。
坂本もデスクワークより動いている方が合っているし、工場の方にも行けるので、今の方が楽しく仕事が出来ている。
「坂本!ちょうど良かった。ちょっと機械見てくれ」
ついでに美咲の様子を見ようかと寄った工場で、入った途端に声をかけられる。
先輩社員に声をかけられたらさすがに断れない。
「これは高さのバランスが悪くなってますね。応急処置でこの部分だけ当たるように当板敷いた方がいいっす。後から技術課呼んで下さい」
坂本が見本を見せる。
うまく出来た製品に納得してもらう。
少し離れた場所から、美咲の様子を見てみる。
新入社員の本宮さんに、機械操作を教えているようだ。邪魔にならないように、近付くのはやめておく。本宮さんが慣れたら、坂本がやっていた機械に美咲が入ると言っていた。
こちらに気付いた美咲が笑った。
坂本も少し手を挙げて合図する。
気付いた本宮さんもペコリと頭を下げた。
「坂本さん!こっちも帰りに寄ってくれる?」
ちょうど通りかかったベテランさんからお声がかかる。
「今から行きますよ」
並んで機械に向かう。
古い機械なので、またいつもの所が緩んでるのかもしれない、と話しながら。
「坂本さん、製造でもみんなに頼りにされてますね」本宮さんが言う。
「私たち同期も、すごく助けてもらいました。飲み会で聞きましたけど、付き合ってるんですよね?」
返事の代わりに、美咲は軽く笑う。
「カッコいい彼でいいですね。美咲さんとお似合いです」
「…ありがと」
恥ずかしさと嬉しさが入り混じる。
鈴木主任と外回りから帰ってくると、車の鍵とETCカードを返却した。
「坂本、給油の領収書もまわしといて」
鈴木主任に声をかけられる。
「了解っす」
シャチハタを押して所定の位置に領収書を入れる。
今日はあと日報を入力するのみだ。
パソコンを立ち上げて、日報を入力しながら、対面の峯野くんを気にする。
ホワイトボードを見ても、外出している様子はないのに、橋本さんは机に居ても、峯野くんは居ない。
(社内のどこかに居るのかな…?)
定時で終われそうなので、美咲の様子はどうかと工場へ足を運ぶ。
平日では久しぶりのご飯を食べに行ければいいのだけれど。
工場に足を踏み入れた所で、同じ様なスーツ姿の男性が目に付く。
坂本もすぐに声をかけられるのは、スーツで目立っているからか、とやっと理解した。
「峯野くん何かあった?」
「坂本くん!」
美咲と本宮さんと3人で話をしている所に声をかけ、美咲とは目配せする。
「橋本さんに頼まれて加工依頼書を持ってきたんだけど、誰に依頼したらいいか分からなくて、本宮に相談してたんだ」
「断ったらまた〝融通が利かない〟って言われちゃうかな」
美咲の一言で状況を把握する。
「ルールはルールなんだから気にする事ないよ。峯野くんがこれがルール違反だって分かっていれば」
「今2人から聞いたよ。橋本さん、お客さんからの注文を忘れてたみたいなんだ」
坂本が納期を確認する。明日の日付だから、加工依頼書を回し忘れたか、注文書を放置したんだろう。
橋本さんが持ってくるとまた問題になるので、何も知らない峯野くんにやらせた、ってところか…
「オレが使ってた機械空いてるよね?この材料ならあの機械が一番早く加工出来る」
美咲が〝うん〟とうなずく。
「オレが加工するから、美咲達は自分の仕事すすめて。峯野くんは材料持ってこっちへ」
機械に電源を入れ、その間に材料をセットしプログラムを確認する。
ネクタイは巻き込まれないように外し、一度試し打ちをして出来上がった製品を確認する。
問題ないと判断し、そのまま自動設定で一気に作り上げる。
「坂本くんカッコいいな」
「ついこの間までやってたからね」
1シート目の梱包を2人でやりながら話す。
「最初知らずに加工を渋られた時、新入社員だから嫌な顔をされるのかなって思った」
「美咲はそんなヤツじゃないよ」
「そうだよな、坂本くんの彼女がそんな人のはずがないって…だからちゃんと理由を聞いて良かったよ」
2シート目の材料をセットしスイッチを押した。
「先入観持たせたらいけないと思って話せなかったけど、橋本さんはちょっと問題あるからさ、何か変だと思ったら聞いてな」
「うん、分かった。あの、話は変わるけどさ…」
「ん?」
坂本が峯野くんを見ると愛嬌ある顔を見せている。
「坂本くん達、付き合ったきっかけは?」
「きっかけ?」
「そう」
「ん〜、この前のバレンタインにチョコをもらった事かな」
2シート目の製品を取り出し、作業台に置くと最後の材料をセットしスイッチを押した。2人で梱包を進める。
「それまでは?」
「1年以上同期の製造の子に片想いしてた。今は辞めちゃって居ないけどね」
「へぇ〜!なんか意外」
「そう?だから美咲にオレと同じ想いをさせてたのかなって思うと、大事にしなきゃいけないなぁって」
「坂本くん、やっぱカッコいいよ」
「うん、オレもそう思う」
2人で顔を見合わせて笑う。
「会社に居るといろんな人が居るけど、信頼出来る人にはやっぱ信頼出来る人が集まるね」
「そう?」
「オレにとっては坂本くんで、坂本くんが選んだ美咲さんならやっぱ信頼出来る人なんだろなって思うよ」
「峯野くん、いいヤツだね」
「うん、オレもそう思う」
「マネするなよ」
さっきよりもさらに笑う。
「坂本、お前探したんだぞ!」
工場の入り口から声がする、鈴木主任だ。
「パソコンもそのままだし、まだ帰ってないとは思ったけどどうした?」
峯野くんが事の成り行きを話す。
全て聞き終えた鈴木主任は〝そうかぁ〜〟と言った。
「実は橋本に教育係をやらせるのは、正直反対意見もあったんだ。でも、もしかしたら橋本が変われるチャンスになるかもしれない、ってそっちに期待したんだけどなぁ…」
鈴木主任が頭をかく。
「この件は、オレに任せてくれないか。ちょっと課長と相談してみるよ。お前達、製品は出来たのか?」
「あと梱包だけです」
「よし、早く終われたし呑みに行くか?」
坂本と峯野くんの目が合う。
「いいんですか?」
「おぅ、車は会社に置いてくか、一旦家に置いてこい。今野も誘うから。19時に西口駅前の〝のんべぇ〟に集合な」
「ありがとうございます」
2人の声が揃う。
「鈴木主任も信頼出来る人だなぁ」
背中を見送りながら、峯野くんがつぶやく。
「奢ってくれるからだろ?」
「バレたか」
「早く片付けちゃおうぜ」
出来た製品を峯野くんに託し、機械の電源を落としてから、美咲に報告しにいく。
きっと「帰り迎えに行こうか?」と聞いてくれるだろう。




