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27.坂本と詩織と大輝と

次の日仕事の詩織のために、早目に店に集まった。この前大輝と一緒に呑んだ中間地点にある店だ。

3人とも呑むために電車で来ている。


まずはビールで乾杯して、3人で会えた事を喜ぶ。

昔の楽しかった頃に戻った様だ。

2人の関心は坂本なので、必然的に最初の質問は坂本が標的になる。


美咲の事を筆頭に営業課へ異動した事までを、一気に話す。

とりわけ美咲の事は、途中で根掘り葉掘り聞かれた。

アルコールが入ってなければ、話せない。


一区切りついた所で、詩織の喫茶店の話を聞く。

だんだん暖かくなってきたのもあって、飛び込みのお客さんが増えてきたらしい。

特に土曜、日曜のランチの時間は、まだ慣れない詩織をフォローするママさんも入れて、3人体制で対応していると言う。


「あの美味しいコーヒーまた飲みたいなぁ」

と坂本がこぼすと

「良かった、忘れる所だった!」

と詩織が手をパチンと叩いた。


「坂本コーヒー気に入ってたから、マスターに豆を挽いてもらったんだよ」

はい、と渡された紙袋からは微かにコーヒーのいい香りがする。


「もらっていいの?すっげー嬉しいんだけど」

「これで優雅な朝を迎えたまえ」

「ありがとう。明日の朝早速飲むよ」


ショルダーバックに、大事そうに入れる。

そんな坂本の姿を、詩織と大輝が見守っている。


「大輝の仕事の方は順調か?」

何気なく聞いたつもりだが、聞かれるのが分かっていた大輝の顔が曇った。


「何か…あったのか?」

おそるおそる大輝に問いかける。

「オヤジがさ、また体調が悪いんだ」

「えっ、一時落ちついたよな?」

「一時はな。今度は長い入院になりそうだよ」


「そうなのか…」

「そうなの?」

詩織と声がかぶる。


「詩織知らなかったのか…?」

坂本が驚く。

「入院したとは聞いてたけど、長くなりそうだとは聞いてなかった」


「詩織忙しそうだし心配かけたくなかったから言わなかったんだ」

大輝が日本酒をゴクリと呑む。

「お袋も病院と工場を行ったり来たりしてる」


「それは大変だな。じゃあ工場は近く大輝が代表になるのか…」

「あぁ、その方向で動いてる」

「責任重大だな。大丈夫か?」


大輝は言葉を選ぶようにして話す。

「お取引先様とは、何とかなるんだ。品質を落とさない製品を納めていれば信頼は築いていけるから。

ただ、社内の人にオレを信用してもらうのが一番大変。そりゃ長年勤めている人にとっては面白くないと思うよ、オレみたいの。

後から来て上に立って、時代について行きたいからコレやります、って言われてもすぐには納得出来ないよ。

つい最近も長く経理やってくれてた人が、パソコンの会計システムにはついていけないからって辞めたんだ」


「でも、パソコンへ移行した方が後々ラクになるしな」


「オレ達世代はそう思うしすぐに対応出来るけど、親世代は今までやってきた事を止めて、新たに何かを覚えるのは抵抗あるんだろうな」


「で、その代わりの人どうした?雇ったのか?」

「急だったからさ、オレが今やってるよ。お袋にも経理処理を教えてもらいながら、今日も休み返上で仕事してから来たんだ」


「だから最近土曜、日曜も家に居なかったんだね」

そう詩織が話す言葉に、坂本が違和感を覚える。


「このゴールデンウィークも工場に?」

「この所、毎日の様に職場には行ってるよ。行かないと落ち着かなくなっちゃってさ」


「そうか…でも大輝まで体調崩したら困るからさ、休める時は休めよ、なっ」

「あぁ」

大輝がいつもの笑顔になって、ホッとする。



2人と別れて1人反対方向へ向かう電車の中は、感情で押しつぶされそうだ。酔ってはいるが、頭は変に冴えている。

今、坂本の頭の中は三叉路をそれぞれ進む3人のイメージしか浮かんでこない。


最寄り駅の改札口を出ると、見慣れた車を探し小走りで駆け寄る。

「お待たせ」

急いで助手席に乗り込んで、そのままの勢いで美咲を抱きしめる。

「会いたかった…」

積もった感情が耐えられずに崩壊する。

体を震わせる坂本に、美咲はそっと背中に手を回し慰めた。


「何か悲しい事があったんですか?私はずっと側に居るから安心して下さい」

その言葉に、坂本は涙を拭い美咲の頬にキスをした。

体を離し、「ごめんな」と伝える。


美咲はまだ残る坂本の涙を拭う。

「今日は一緒にいましょうか?」

坂本の手は美咲の顔を包み頰を撫でる。

「こんな気持ちで、美咲を抱けないよ」

美咲はクスッと笑い、「うん」と小さく言った。


「もうすぐ誕生日だろ?この休みは遠出出来なかったし泊まりで温泉でも行こうか」

「ホント?」

「実はもう予約したよ。楽しみにしていて」

「聞いただけでもう楽しい」

美咲の喜ぶ顔が一番嬉しい。



詩織と大輝、2人一緒の時の雰囲気が、間違いなく今までと違う。

それは何時間も一緒に居た友だから分かる。

坂本が見る限り、今の2人はお互いを信頼し、支え合っているようにはどうしても見えなかった。

大輝は特に今1番の踏ん張りどころのはずだ。

その今を詩織は一緒に生きていない。

情報すら共有出来ていない。

相手が忙しそうだからと気を使ったつもりで、一番話し合わなくてはいけない相手から逃げ出してる、そんなイメージさえ持ってしまう。


2人とも本当は気付いているはずだ。

どちらかから歩み寄って関係を見直して欲しい。


美咲に送ってもらいながら、車窓をながめ考えている。美咲は何も言わず、そっとしておいてくれる。



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