25.兄貴分の坂本
年度が変わり、営業課へ異動になった。
新入社員ではないのに、一部の研修は出席するように言われ、それ以外は書類の作成方法から教わる事になった。
今年の新入社員で営業課に配属された峯野くんのデスクとは対面だ。
2年前の坂本の同期入社は全部で5人だった。
大輝と詩織、南営業に行った阿部さん、関連会社に出向中の渡辺さん。
坂本と大輝以外は女性で、別の支店にいるのもあってあまり交流がない。
今年は峯野くん以外に3人の社員が入った。
一緒に研修を受ける事もあるので、先輩なのに同期みたいだ。
後輩は普段呼び捨てで呼ぶのに、「くん」「さん」で呼んでしまうのもそのためだ。
みんなで、メールアドレスも交換した。
研修のレポートを書くのに、わからない事があると4人からメールが来たりする。
頼れる兄貴分の立場なんだろう。
坂本の研修は明日で終わり、という時に峯野くんからお誘いのメールがきた。
親交を深めるために、明日、みんなで集まらない?という内容だった。
「明日、新入社員と呑むことになったんだ」
お風呂上がり布団の上で、美咲に電話する。
同じ社内に居ても、場所が離れたらなかなか会えない。美咲はお昼も弁当持ちだ。
2人で決めて、同じ時間に出社することにした。車から降りて、職場に行くまでの短い時間だけだが、顔を見ることは出来る。
仕事が終われば、美咲の車があるかをすぐに確認する。坂本が帰る頃にはない事がほとんどだが、過去にあった時には社内に戻り、工場を確認しに行った。ちょうど、向かってくる美咲と一緒になり、そのまま2台で食事に出掛けた。
「週末だし帰り迎えに行きますか?」
美咲の提案に心が揺らぐ。
「でも終わりの時間が分からないから、待たせるのもなぁ」
「じゃ、別の言い方をすると、坂本さんと会いたいので終わったら連絡くれますか?」
…こういう所が美咲らしい。
「終わったら1回連絡入れるよ。もし連絡取れなければ自分で帰るから無理しなくていいよ」
「はい」
「それとさ、確認しときたいんだけど、オレと付き合ってる事は言わない方がいいか?もしそういう話が出た時にさ」
「ウチの会社大丈夫ですよね?」
「大輝と詩織は入社前から付き合ってた位だから」
「私は全然大丈夫です。私も朝一緒に来てるのに、ごまかすのに厳しくなってました」
「えっ、聞かれたら、今美咲は何て言ってる?」
「〝妄想では付き合ってます〟って」
「お前いいよ、普通に言ってくれて」
「みんな察してくれたみたいで、最近は聞かれなくなりました」
飲み会が終わって美咲に連絡すると、すぐに迎えに来てくれた。美咲の車の助手席に座ると、異動の時に美咲からもらったネクタイをさらに緩める。初めて乗った車の助手席で、いつもとはまったく景色は違うが、美咲の顔を見ると安心する。
「わざわざありがとう」
座席に深く腰掛け、シートベルトを締める。
「思ったより早かったですね」
「そうか?眠かったよな、ごめんな。
みんな酒が強い子ばっかりだったから、つられて呑みすぎた。これでも終電の子と一緒に先に抜けてきたんだけど」
「女の子ですか?」
「あぁ、本宮さんっていう製造課に配属予定の美咲の後輩」
美咲の車がゆっくり動き出す。
「結局、彼女は聞かれました?」
「製造の1年後輩の子って言っておいたからすぐ分かると思うよ。美咲しか居ないもんな」
「なんかちょっと嬉しいですね」
「そうか?」
「うん、嬉しいです」
噛み締めるように言う美咲に触れたくなる。
呑み会の様子や、出た話題なんかを話し、この週末の予定を確認し、ゴールデンウィークはどうしようか、と話していると急に美咲の声色が変わった。
「坂本さん」
「どうした?」
「私…」
「何?」
「坂本さんの家知らずに走ってました」
「えっ?今どこ」
「ウチの近くまで来ちゃいました」
坂本が思わず吹き出し、笑いながら美咲を見る。
「そういえばオレも話に夢中でうっかりしてた。
やっぱり、オレの彼女はちょっと抜けててすごく可愛い」
笑いながら、美咲の頭を撫でた。




