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24.詩織と喫茶店と美咲と坂本

開き戸を押すと、カランコロンと軽い音が鳴った。

エプロン姿の詩織と直ぐに目が合う。


「坂本!」

小走りで来る詩織に、美咲の姿も見せる。

「えっ?…美咲ちゃん?」

2人での登場に驚きつつ、よく来てくれたね〜と美咲と手を取りあって再会を喜んでいる。

美咲も連れてきて良かった、と思う。


マスターに挨拶して、詩織がすすめてくれたカウンター席に座る。

メニューを見せながら、詩織がオススメを教えてくれた。いい時間なので、ランチのセットを選ぶ。


「で、いつからなの?」

奥の坂本と手前の美咲を交互にみながら、詩織がニヤニヤする。

〝あぁ〟と坂本が一瞬迷うと、先に美咲が口を開いた。

「まだ、私の片想いなんです」


「じゃあ、時間の問題だね」

と詩織が美咲に言う。

「坂本は気が合う人じゃないと長時間一緒には居ないから」

「そうなんですか?」と美咲が聞き返す。


詩織が美咲に近付いて、小声で話す。

「こう見えて意外と気を使うから、疲れちゃうみたいよ。ここまで一緒に来るって事は、坂本も美咲ちゃんの事気に入ってるはず」


「あの、全部きこえてますけど…?」

坂本の声は無視される。


「多分もうすぐだから大丈夫だよ」

詩織が美咲の肩をポンポンと叩く。

美咲が坂本を見てくるから、坂本は肩をすくめる。


詩織が他のお客さんと話している間に店内を見渡してみた。

観葉植物がセンスよく散りばめられ、コーヒーの香りが漂い、ゆっくりとちょうどいい音量の音楽が流れている。

マスターは柔らかい雰囲気で、カウンターはキレイに整えられ、時間がゆったり動く。


「詩織が気に入る理由が分かるな」

「すごく癒されますね…」


先に出してもらったコーヒーを一口飲む。

美味しさが口の中に充満し、思わず声が漏れてしまう。

目の前に居るマスターに声をかける。

「僕コーヒーよく飲みますが、今までで1、2を争うくらい美味しいです」


優しく笑いながらマスターは言う。

「美味しいコーヒーを淹れらるのは、私がこの仕事が大好きだからです。詩織ちゃんが来てくれて、また私の楽しみが伸びました」


詩織は他のお客さんに料理を提供しながら、楽しそうに対応している。


「詩織さん、生き生きしてますね」

「あぁ、幸せそうで…来て良かったな」

ランチセットのサンドイッチもグラタンも、2人で思わず顔を見合わせるほど美味しかった。

詩織は確かに自分の居場所を見つけていた。



美咲の気遣いで見送りに出てきた詩織と2人で話す。

「いい店だし、詩織の仕事ぶりを見たら安心したよ」

「そう言ってもらえると嬉しい」

詩織の笑顔が懐かしく思える。

この笑顔に何度救われただろう。


「高架下で別れを惜しんだ時の気持ちは鮮明に覚えてるのに、オレの知らない詩織を見ているみたいだ」

「私、そんなに変わった?」

「少し離れてる間に、ひと回りもふた回りも自立した大人の女性になったよ」

「私という存在を認めてもらう為に、強くなったかもしれないね」


「詩織、今の自分の気持ちに正直に生きてるか?」

「充分すぎる位、正直に生きてるよ」

「おぅ!それでいい」

2人で笑い合う。清々しい気持ちが広がる。


詩織が車に居る美咲に目を移す。

「坂本は正直に生きてる?」

坂本も美咲を確認する。

「そうだなぁ、生きなきゃいけないな。

詩織…オレ、美咲の事好きになってる」

「うん」

「ただ、最後に詩織に言った言葉や気持ちは嘘じゃない。幸せそうな姿を見て安心したし、形は変わってもお前を忘れないからな」


「分かってる…坂本も幸せになって」

「あぁ、また美味しいコーヒー飲みに来るよ。ドライブにちょうどいい距離だしさ。大輝と仲良くやれよ」

「うん、大輝ともまた呑みに行ってやって。

また来てくれるの待ってるし、連絡もするね」


車に乗り込んで、詩織と別れると深呼吸した。

「大丈夫ですか?」

心配する美咲の頭を軽くポンポンとする。

「すごろくのコマが1つ進んだよ」

「坂本さんの中で?」

「そう」

「出たマス目には橋本さんのモノマネって書いてある?」

「書いてない、書いてない、いや、お前がやるな」




帰り道は色々寄り道をし、夕食も済ませて帰ってきた。

美咲のマンション近く、邪魔にならない所に車を停める。

「結局、お昼も夜も奢ってもらっちゃて、ありがとうございます」

美咲はこういう所がしっかりしている。

「美咲は1人暮らしなんだから、なるべくオレが出すから大丈夫だよ」


「またどこかへ連れて行ってくれる?」

「どこへ行きたい?」

「映画が見たい」

「分かった。映画館は両想いで行こう」


坂本が、固まってる美咲を見つめる。

「…あのさ、付き合おうか、オレたち」

「それは、私の彼が坂本さんで坂本さんの彼女は私って事?」

思わず笑ってしまう。

「まぁ、一般的にはそうなるよな」


美咲の目がだんだん涙目になるのがわかり、焦る。

「えっ?どうした?そんなに嬉しい?」

急いで美咲の涙を手で拭う。


「本当は今日、詩織さんに会ったらまた気持ちが盛り上がってしまうんじゃないかって心配だったんです」

「美咲全然そんな素振り見せなかったじゃないか」

「そんなの、見せれる訳ないじゃないですか」

「そうか、ごめん…」


坂本はそっと美咲を抱き寄せた。

「詩織の事は大事だけど、オレが笑わせたいのも、こうやって触れたいのも、今は美咲だけだよ。

実はさっき一足先に詩織には報告したんだ。

心配かけてごめんな…」


体を離し、美咲を見つめる。

「今から、美咲の彼はオレで、オレの彼女は美咲でいい?」

「…はい」


美咲の頰をそっと撫で、ゆっくり美咲にキスをした。



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