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22.大輝の本心

今日仕事の詩織は抜きで、大輝と2人で久しぶりに呑む事にした。ちょうど中間地点位の駅で待ち合わせ、近くの居酒屋へ入る。

 

大輝は風格が出て、男らしくなった。

最後に会ったのは、詩織の送別会で約2ヶ月しか経っていないのに。

責任感や立場がそうさせるのかもしれない。


とりあえずビールを頼み、乾杯をする。

すぐに詩織の話になる。

詩織は明日まで雑貨屋に勤務し、月曜日から喫茶店に勤めるらしい。


「喫茶店には行ってみたのか?」

坂本の問いかけに大輝が答える。

「すぐにマスターに会いに行ったよ。悪い方に考えたらキリがなかったから。話しもしたけどいい人だし、店の雰囲気も明るくてとりあえずは安心した」


「急展開でビックリしたな」

「予想もしてなかった」


大輝の話によれば、平日の休みに詩織が1人でドライブに出掛ける事はよくあったという。

元々詩織は車の運転が好きだったし、帰ってきたらその日の出来事を話してくれていたので、信用していた。

ある日、いい雰囲気の喫茶店を見つけたと話し、それから休みの日や空いた時間はそこで過ごすようになった。

詩織も隠さず、喫茶店での出来事を話すので行く事に反対する事も無かった。


ある日、仕事から帰ってきて早々に話があると言われた。聞けば今勤めている雑貨屋を辞めて、よく行く喫茶店で働くつもりだ、と言う。


「雑貨屋は割とこの辺では大きい会社が母体だから、給料や福利厚生面とか心配してなかったんだ。だから時が来るまでは、詩織の好きに勤めればいいと思ってた。休みの日は違うけど、その分一緒に住んでるし共有できる時間は調整出来るかなって」


「時が来るまでっていうのは?」

「具体的には結婚か、オヤジ、お袋が引退した時だよな」

「時が来たら、一緒に工場で働いてもらいたいと思ってたのか?」


「こっちに連れて来るまでは、仕事までは強制するつもりはなかったんだ。でも一緒に働けば、共通の話題は増えるし、お互いを支えられるし、もっと詩織との絆は強くなると感じ始めたからさ。オヤジ、お袋を見ているのもあってな」


「それは、詩織には伝えてあったのか?」


「正月に実家に連れて行った時に、先にオヤジ達がチラッと話したんだ。それをあんまりいい感じで捉えてなかったから、話すタイミングを狙いつつまだ話せてなかったんだよ。実際、結婚やオヤジ達の引退が決まった訳じゃなかったしな」


「詩織はそうとう喫茶店が気に入っている様だな」


「あぁ、マスターもいい年だし、もし本当に店を譲られたら自分の店としてやってくつもりだろうな」

大輝はビールが終わり、日本酒を注文した。

坂本も今日は呑む気で来ているから、濃いめのハイボールを頼む。


「大輝も親の手前、立場がつらくないか?」

「もちろん詩織は工場を手伝ってくれるものだと信じているから、言える訳ない」

大輝の呑むピッチが早い。気持ちは分かるから、逆に呑ませてやりたいと思ってしまう。


「オレが一番心配してるのは、詩織との仲だよ。それはそれで2人の中で解決できてればいい。ただ今回の件が少しでも壁になったのであれば心配だからさ」

「坂本がオレの立場ならどうする?」

「大輝、それオレによく聞くよな」

「参考がてら聞きたいんだよ」


「オレは跡継ぎの重圧が分かってないから、簡単には言えないけど、オレなら詩織のやりたい様にやらせるかな。知り合いも居ないこっちに来て、居場所を探していたのも分かるんだ。それが見つかったって言われたら太刀打ち出来ないもんな。

ただ、やっぱり親には言いにくいよなぁ。特に継いでくれるって息子は言っているのに、嫁になる人は入ってくれないって、親世代は、まぁ人によるだろうけどなかなか納得してくれないよな。そこが詩織との仲に影響しなければいいな、とは思う」


「オレがちゃんと親を説得出来る位の、詩織をかばう強い気持ちがあればいいんだよ。別に詩織の代わりに従業員を雇えばいいんだから」

「強い気持ちがあるんだよな」

大輝は質問に答えず坂本を見た後、ふぅ~と静かに息を吐いた。

さらに日本酒を追加する。坂本も同じ日本酒を頼む。


「坂本には俺たちを応援してもらってるからこそ、本音を話すよ。正直、今回の事はオレはショックだった…

詩織より早く地元に帰り、詩織の居場所を作るためにマンションも借り、なるべく家事も協力してきたよ。

居場所を探し見つけた、と言われても、じゃあオレが作ってきた居場所は何だったんだ、と思う。

気に入らなかったなら言ってほしかったし、喫茶店の事も決めてしまう前に一度相談して欲しかった」


「詩織への信頼が、薄れたか?」

「ガッカリしたっていう言葉がしっくりくるかな」


大輝が残っていた日本酒を一気に呑む。酔いたいのだろうが、多分酔えないヤツだ。

坂本も同じ様にハイボールを飲み干す。

追加していた、日本酒がくる。


胃に入れた方がいい、と大輝の取り皿に中途半端に残っていた酒のツマミを入れる。

空いてる皿を片付けて、一旦机の上をキレイにした。

「人の気持ちもこんな風に配れてさ、キレイに出来たらいいのにな」

大輝がポツリとつぶやく。

「ホントだな。特に負の感情は請け負って欲しいよな」

「オレの負の感情は、坂本が半分背負ってくれるけどな。お前の事だから、オレ達2人の事で悩むなよ。まだ2人の仲が具体的に変化した訳じゃない」

「あぁ。この壁は2人なら軽く乗り越えられると信じてるよ」


「坂本の方は浮いた話はないのか?」

「製造の美咲と1回食事に行った位だな」

「おぉ!送別会に居た、あの小さくて可愛い新人の子だよな。発展しそうか?」

「そうだな、するといいな」

「また経過を教えてくれよ」


後は自然に世間話になり、笑い話に変わった。

急に酔いもまわりだし、テンションも上がる。

2人で思い出話に花を咲かせ、バカ話をする。


終電に間に合わせ、お互い反対方向の電車に乗った。また近い内に呑む約束をして…



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