21.詩織の事情
残業が終わって運転席に座る。
詩織と連絡とるのは、いつも会社の駐車場だな、と思う。
仕事は終わった時間だろうから、と詩織に電話をかける。
昨日よりも長めにコールして、詩織が出る。
「もしもーし」
「おぅ、お疲れ。昨日は悪かったな」
昨日よりも詩織の声が明るい。
「こっちこそ心配かけてごめん」
「昨日は大丈夫だったのか?」
詩織の話を聞く。
おそらく昨日大輝と話して解決したのか、落ちついた口調だ。
ざっと詩織の話を聞いて、質問をする。
「詩織がその喫茶店を守りたい事は分かったけど、オレは大輝の気持ちも分かるんだ。詩織は大輝の所の工場を手伝う気持ちはあるのか?」
少し沈黙があった後に詩織が答える。
「私は今回喫茶店で働く事に決めた時から、大輝の工場では働けないと思ってる」
「それは、大輝には伝えた?」
「直接は言ってないけど、大輝も気付いたはず。
マスターがね、引退する事になったら私に店を譲りたいって。それは大輝にも伝えた」
「マスターとは口約束の段階なんだよな。急に話が変わることなんてよくある事だぞ」
「坂本、私はね、今はあの空間で過ごせて、喫茶店のノウハウが学べればそれで満足なんだ。
最終的にあの喫茶店の様な自分のお店を持てたら、尚嬉しいけどね」
詩織の告白に少なからずダメージを受ける自分がいる。勝手なイメージで、将来詩織は大輝の工場でバリバリ働くもんだと思っていた。
でも、誰にも詩織を止める権利はない。
「詩織、正直な気持ちを教えて欲しいんだ。
大輝とはこれからもやっていけるんだよな」
坂本の願いも込めて聞く。
「大輝とは仕事の面では協力出来ないけど、今まで通り仲良くやっていこうって昨日話をしたよ」
「そうか、それなら大丈夫だよな」
本当は不安しか残らないが、坂本はそう答える。
本来であれば、異業種とはいえ、お互いの仕事に協力しつつ、理解をしながらお互いを高め合っていく、が正解じゃないのか…?
「坂本、私こっちに来てやっと居場所を見つけた感じなんだ。あの喫茶店に居ると、自分が無理をしなくていいの」
「よっぽどいいお店なんだな」
「うん。ねぇ、今度坂本も来てよ」
「そうするよ。ドライブがてら行くよ」
詳しい場所を聞いてメモする。一度近い内に見に行こうと決める。定休日以外なら今月の下旬から出勤しているらしい。
「詩織、水を差すようで悪いけどさ、大輝の事もフォローしてやってくれよ。多分あいつも大変な時期だと思うからさ」
「大輝にはワガママを聞いてもらったから、感謝してる。ちゃんとフォローするね」
詩織との電話を切ってからも、一抹の不安が残る。
一度大輝の気持ちも聞いてやった方がいい。
家を継ぐという事が、どんなに大変かは分からないが、親との間に入る大輝が肩身の狭い思いをするのは目に見えている。
大輝に早速メールしておく。
取り越し苦労で、2人の間に波風が立ってなければそれでいい。
次話からは次の日の12:20に投稿します。




