19.帰り道と美咲
「ごちそうさま〜」
会計を済ませ、店を出る。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
美咲にお礼を言われて、「おぅ!」と返す。
「大丈夫か?」
「酔いならちょうどいい位で、楽しいです」
素直な感想が嬉しくなる。
駅までなんでもない話で笑いながら、そろって歩く。美咲は足ももつれてないし、真っ直ぐ歩けている。
急に大きな音がして、クラクションを鳴らした車が近くを通った。
ビクッと驚く美咲を、坂本がかばう。
「今日は美咲の好きな物を沢山知ったけど、苦手な物も知れたな」
「急な大きな音が苦手なんです。びっくりしてしまって」
「美咲って、知れば知るほど面白いよな」
怒った様にする美咲の顔に、またニヤニヤと笑ってしまう坂本が居る。
駅に着いて券売機上の路線図を2人で確認する。
「美咲の最寄り駅はオレと1駅違いだよな」
「ここからは坂本さんの方が近いですね。私が切符買いますよ」
「じゃ、甘えるけど美咲の駅までで。ちゃんと送るよ、トイレ行ってくるから買っといてもらっていい?」
トイレから戻る途中で、携帯がバイブで着信を知らせた。画面を見ると大輝からだ。嫌な胸騒ぎがして、電話に出る。
「大輝どうした?」
「坂本悪い、今大丈夫か」
大輝の声があせっているのが分かる。
「何かあったのか?」
「詩織、そっちに行ってないか」
「えっ?詩織と連絡取れないのか」
歩きながら経緯を聞き、美咲を確認する。
美咲も気付いて小走りで近付いてくるも、電話中と分かって近くで足を止めた。
美咲の顔を見る。
「大輝悪い、今オレ動けなくてさ。何かあったらメールしといてもらえるか?」
「…分かった」
電話を切って、美咲を見る。
心配そうに見る美咲に、へたなごまかし方はしたくない。
「大輝からだった。詩織と連絡が取れないらしい。詩織の仕事場にも連絡したけど、今日は体調不良で急に休んだって」
「詩織さんが…?」
「昨日、大輝とケンカしたのが原因みたいだな」
「詩織さんこっちに来てるなら探しに行きますか?私は独りでも帰れます」
「そうだな…一度詩織の家に行ってみるかな。何度か会ってるから親も知ってるし。
反対方向の駅になるけど、良ければ美咲も一緒に行くか?」
「…私も一緒に行って大丈夫なんですか?」
「あぁ、でもその前に一度詩織に連絡してみるよ。電話に出てくれれば事情が聞けるかも」
坂本がメール以外で詩織に連絡するのは、久しぶりだ。
緊張しながらコールする音が途切れるのを期待していると、4コール目で詩織の声がした。
「もしもし、坂本?」
「詩織、お前どこにいるんだ?」
電話が通じたと、目で美咲に合図する。
「ちょっと考え事があって独りでドライブしてたの。大丈夫、もうマンションの駐車場」
「それなら良かったけど、大輝が心配してたぞ」
「…うん。心配かけてごめん」
「何か、あったのか?」
なるべく優しく聞いてみる。
「大輝と仕事の事でケンカした」
「雑貨屋の事?」
「うん…実は他にやりたい事が出来て転職を相談したら、どうせ転職するなら大輝の工場でもいいだろ、とか他にも言われて…」
事情が混み入ってそうで、美咲を気にする。
「今からもう一度、大輝と話し合うんだよな?」
「もう私の答えは出てるから、もう一度大輝には伝えるつもり」
「明日また連絡するから、その時詳しく教えて。とにかく2人でしっかり話し合えよ」
「…坂本、今、外なの?」
「だから長く話せなくて悪い。また明日連絡するな」
電話を切って、美咲を見る。
「詩織は家に着いたみたいだから、大丈夫だ。美咲まで巻き込んでごめん」
「坂本さんが悪い訳じゃないから」
2人で改札口に向かう。
美咲とさっきまでの騒動を気にしないように、別の話題を話す。
着いた駅から歩いて美咲のマンションまで来ると、2人で向き合う。
「坂本さん、今度もまた2人で会えますか?」
美咲の質問に坂本が答える。
「今度は…ドライブでも行こうか」
「はい!楽しみにしてます」
笑顔で答える美咲が可愛いらしい。
美咲と別れてから、1駅分歩く事にする。
今日1日を振り返りながら、前を向く。
車通りの多い道を選びながら、好きな車を眺める。
自分の中にある〝好き〟の基準を考える。
色や形、性能、大きさ…。
意識しなくても、自然と好きな車は目に入る。
今は誰の顔を一番に思い浮かべるのか…
誰と一緒に時を過ごしたいと思うのか…
携帯が鳴りメールが入る。
美咲からお礼の連絡だ。
ホッと胸が温かくなる。




