17.詩織の近況
残業が終わり運転席に座ると〝ふぅ〜〟と息を吐いた。
既に車がまばらになっている駐車場でしばらくボーっと考え事をする。
おもむろに携帯を開き、メールする。
〝2人とも元気にしてるか?〟と。
仕事中でなければ、すぐに返事がくるだろう。
近くの桜の木は花芽が出てきている。あと半月もすれば満開だ。
買ってきたコーヒーを開ける。
香りが広がり、一口飲むと力が抜けるように落ち着いた。
その時ちょうどメール着信の音が鳴った。
すぐに携帯を開く。
〝元気にやってるよ。坂本は?〟
メールを打っている姿が目に浮かび、自然に笑みがこぼれる。
〝オレも元気。最近変わった事あったか?〟
車の中でいつも聴いてる、お気に入りの曲が2曲終わった頃返事がくる。
〝大輝は仕事忙しいけど、楽しそうだよ。私は、休みの日はお気に入りの喫茶店に入り浸ってるの。一度坂本にも紹介したい店だよ〟
〝2人とも楽しく過ごせてるなら安心した。こっちに戻って来る予定はあるのか?〟
今度は返事が早い。
〝5月の連休のどこかで休みがもらえると思うから大輝と帰るつもり。そういえば、美咲ちゃんと会ったよ〟
詩織から話題をふってくれてホッとする。
〝聞いたよ。手作りの抹茶チョコももらった〟
〝ラッピング選ぶのにも真剣だったよ。付き合う事にしたの?〟
詩織のストレートな質問に少し複雑な気分になる。
〝いや、まだそこまでいってない〟
〝5月の連休にさ、大輝にも言っておくから久しぶりに会わない?〟
〝そうだな。予定が決まったら教えて〟
〝了解〟
坂本の中で複雑に感情が入り混じった。
1つの喪失感とあとはすごろくでいうと、1つマス目が進んだような。
詩織に対してなんとなく感じた罪悪感は、もう持たなくていいかもしれない。
きっと、お互い次のステップに踏み出しているのだろう。
そもそも最初から温度差があったのだ。
寂しく感じる感情は、また日々の忙しさに埋もれていく。
そしてまた、何事もなかったかのように、別の感情が芽生えてくるはずだ。
坂本は、ハンドルを握った。
遠回り、ドライブしながら帰ろう。
頭の中が整理できて、気持ちも落ちついてくるかもしれない。




