16.美咲
駐車場から通用口を通って、工場内を目指す。
3月に入っているのに、まだ朝は寒い。
前に美咲の後ろ姿が見えた。
まだ声をかけるには遠い。
急にかがむので、何かあったのかと思ったらすぐに立ち上がった。
どうやら、落ちていたゴミを拾いゴミ箱に捨てるようだ。
皆が見てない所でも善意で動く美咲を、見習わなくてはいけない。
ちょうど工場入り口で、追いつく。
「美咲、おはよ」
声をかけると、美咲は振り向き、坂本を確認して笑顔を見せる。
「おはようございます」
バレンタインデーから、2人の距離が少し変わった気がする。
坂本は気付かないうちに美咲を目で追うようになり、彼女のいい所を改めて発見していた。
新しい仕事をする時には必ずメモを取り、分からない事は納得するまで聞く。
ゴミが溜まっていれば、人知れず片付けているし、備品が少なくなっていると、率先して総務に連絡をしていた。
今まで、そんな美咲の気遣いに気付かず、当たり前のように過ごしてきていた事を恥じた。
後輩の美咲に気付かされた事を、受け止めなくてはいけない。
それに、美咲はそれを周りに言う事もなく、強要する事もなく、誇張して行動する事もない。
ふと気付くと、シュレッダーゴミがいっぱいで、点滅している。
たまには、オレが、と片付けていると美咲が寄ってきた。
「坂本さん、私がやりますよ」
代わろうとする美咲に言う。
「じゃ、ゴミを出してくるから、良かったら溢れてるクズをはいてもらってもいい?」
早速箒を持つ美咲にそっと話かける。
「少し先のホワイトデーのお返し、考えてたんだけど…」
美咲が坂本を見る。
「日曜日だし、その日ご飯食べに行かないか?」
美咲が笑顔を見せる。
「はい」
食べたいものを考えておくように伝え、坂本はシュレッダーゴミをゴミ捨て場まで運んだ。




