15.詩織の気持ち
大輝と一緒に住むようになった。
大学時代からの付き合いだから、既に大輝の事はほとんど解っていると思い込んでいた。
でも、一緒に住むと好みが細かい所で違った。
みそ汁の味噌は合わせ味噌から赤味噌に変わった。
目玉焼きより厚焼き玉子の頻度が増えて、麦茶より緑茶をよく飲むようになった。
大輝の仕事が終わって帰ってくるのは、いつも20時近くになる。
こっちに来て直ぐに決まった雑貨屋は、勤務時間が2交代制だ。
詩織が遅番の時は、冷蔵庫に作り置きしておいたオカズを温めて待っていてくれる。
詩織が早番の時は、帰りに買い物に寄って旬の食材で夕食の支度をする。
食事を作るのは苦ではない。
昔から何かを作るのは好きだから。
その代わりに、大輝が他の家事を率先してやってくれる。こうやって2人で協力しながら、家庭を築き上げていくんだろう。
好きなテレビ番組を一緒に見て、笑って、思いついた事を話して、時々愛し合って、また1日が過ぎていく。
大輝は付き合った時から、何も変わらない。
優しいし、詩織を想ってくれているのが分かる。
先日の休みにたまたま日帰りで実家に帰った時、買い物中の美咲を見かけた。
平日に知り合いに会うとは思ってなかったので、本当に美咲か、としばらく確認で眺めていた。
何度も行ったり来たりを繰り返し、真剣に選んでいる。よっぽど大切な人へのプレゼントなんだろう。
美咲だと確信し、しばらくしてから、声をかけた。専用の売り場だったので、何気なく渡す人を聞くと坂本だと言う。
〝坂本は抹茶のチョコが好きだよ〟
と伝えると、
〝それは知りませんでした。じゃあ、本を見ながら頑張って作ってみます〟
と美咲は笑って答え、しばらく世間話をした後、手を振って別れた。
詩織はカゴに入れていたラッピング材料を元に戻す。大輝に渡す為のラッピング材料は、勤めている雑貨屋で買ってある。
既に買ってしまった生クリームや抹茶は、自分の為に生チョコを作ろう。
坂本の為に、去年約束したバレンタインのお菓子を今年も作る予定にしていたが、美咲の話を聞いた以上、自分は譲らなくてはいけない。
大輝の為に、最後に酒屋さんに寄って帰る。
甘いものを食べない大輝には、好きな日本酒を考えている。
坂本と一緒に食べた甘いチョコレートは、もう無い。
自分のためだけに生チョコを作るのは、やっぱりやめよう、と思い直した。




