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12.坂本と詩織

もう1軒だけ行こう、と限られた人数だけで次の店に移動する。

夜風が冷たくて、また星空は綺麗で今日に限って満月だ。


坂本は詩織を見つけて、さりげなく横に並ぶ。

「詩織、呑みすぎてないか?」


詩織は、マフラーで顔半分位隠れている。

「全然大丈夫」

目だけで笑って答える。


何気ない話をしながらも、歩くスピードを遅くして、わざと列の最後になるようにする。

店に着き、店内に入ろうとする詩織を引き止めた。


「詩織、最後だし少し2人で話さないか?」


大輝は他の人に続いてすでに店内に入っている。

揃わない2人は、大輝が上手くごまかしてくれるだろう。


近くの自販機で、温かい飲み物を買う。

詩織に手渡しながら、高架下の柱に一緒に寄りかかる。

詩織は、缶で手や顔を温めている。

マフラーはさすがに首元まで下ろしたようだ。


「こうやって話せるのも今日で最後だな」


坂本は缶コーヒーを開けて一口飲んだ。

一緒にかじかんだ手も温める。

息が白くなる。コーヒーからも白く立ちのぼる。

まるで抑えきれない坂本の気持ちの様に。


「詩織…幸せになれよ」

独り言のようにつぶやく。

「それ、この間も聞いた」

「大事な事は何回言ってもいいだろ」

坂本は、詩織に笑いかける。


「坂本…」

「ん?」

いつもよりしおらしく呼ぶ詩織に耳を貸す。


「坂本は今、自分の気持ちに正直に生きれてる?」

突然の問いかけに、心の中を見透かれてしまったのかと、詩織を見つめてしまう。

耐えきれず、1歩、2歩と前に歩く。

「そうだなぁ…」


「坂本が教えてくれたんだよ。今の自分の気持ちに正直になっていれば後悔はしないって」

坂本は苦笑いする。その通りだ。


「正直になりきれてないから、後悔するかもな」

「それで良かったの?」

詩織の質問に、ゆっくりうなずいた。


「さっきまで迷っていたけどそっちを選んだ」

「どうして?」

「お前達2人の事が好きだから」

しばらく街灯と月明かりの中で目で会話をしてしまう。詩織なら全て察してくれる、と甘える。


「結局坂本と私は似た者同士だね」

詩織が近くの標識を見た。


「一方通行も走り出したら、逆走すればルール違反で、もう元の位置には戻れないじゃない?

3人の関係を壊さない選択をしてきたのは、坂本だけじゃないよ。もちろん私は、今の選択を後悔してるわけじゃないけどね」

「詩織…」


「1つお願いがあるの」

「何?」

「私の事、忘れないでくれる?」

忘れられるわけがない。


「忘れないよ、この先ずっと。詩織が幸せになれるようにずっと祈ってる。詩織は詩織のままでいい、だから無理はするなよ」


坂本の言葉に、詩織が笑った。

好きな笑顔を最後に目に焼き付けた。



頑丈な柱に寄りかかりながら、独りで残りのコーヒーを飲む。

「ふぅ~」と大きなため息をつくと、後頭部を軽く柱に数回ぶつけた。


本当にこれで良かったのか、と詩織の笑顔を思い出しながら自分に問う。

これが、今自分に出来る精一杯の事だったと、言い聞かせる。





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