11.坂本と大輝
隣のテーブルでは、女性社員達が別れを惜しみながら話に花を咲かせている。
中心に居るのは、今日が最終出勤日の詩織だ。
課内の仲が良い数人だけの送別会だから、気を使わずにみんなで話が出来る。
美咲からこの話を聞いた時に、課内だけなら大輝も誘っていいか、と了承を得て、今、目の前には大輝が座っている。
「久しぶりに大輝と話がしたかったから良かったよ」
「オレ達、いつの間にか連絡取り合うのも詩織を介してになってたもんな」
「実家の仕事の方はどうだ?」
「オヤジの体調も落ち着いたし、仕事の流れも慣れたよ。後は、新しくやりたい事を、長年勤めてる人を説得しつつ段々始めてる」
大輝なら、その辺りは大丈夫だろう。元々機転が利くし、人当たりもいい。
「詩織との生活の方は大丈夫そうか?」
少し行き過ぎた質問になったか、と気にしながら聞くも、大輝は全然気にしてないようだ。
「ウチの両親に紹介した後に、オレ達との考えの違いでしばらく居心地悪そうにしてたけど、オレがしっかり間に入るようにしたよ。
それに、詩織も最近ちゃんと言葉に出してくれるようになって、考えてる事が分かりやすくなった。坂本のおかげかな」
「確かにオレが散々〝大輝とちゃんと話せ〟と言ったしな」
気心のしれた仲間で呑む酒は、それでなくてもピッチが早くなる。
特に今日は大輝に話したい事があって、タイミングをはかって余計に呑んでしまう。
「大輝、今日帰りはどうするんだ?」
「今日は、詩織の実家に泊まる予定」
「じゃあ、明日は休みだしゆっくり呑めるな」
「そのつもりで来てる」
大輝も酒に強く、何時間呑んでもあまり表現が変わらない。いつもより陽気になるくらいだ。
「オレがまだ正気な内に頼みがあるんだ」
「坂本からなんて珍しいな」
「今日、詩織と話す時間が欲しい」
大輝は、坂本をジッと見た後に、詩織を確認した。
坂本も同じ様に詩織を見る。
賑やかに楽しそうに笑いながら話し込んでいる。
「分かった。玉砕されてサッパリしろ」
大輝が言う。
「よっぽど自信があるんだな」
坂本が嫉妬する。
「自信なんかないさ。ただ詩織を信じてるだけだよ」
大輝が静かに酒を呑んだ。




