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最終回「エピローグ」

 エキシビジョンマッチから一週間後。

 シンドウ・カズトラの一日は、カワシマ・ガンテツの墓前に手を合わせることから始まる。

 毎日太陽が昇り始める頃に訪れ、祈りをささげる。過去の愚かな行為への謝罪とこれからの未来をどう生きていくか報告をして、墓前に新しい花束とウィスキーの瓶を供えた。


「師匠。行ってきます」


 墓参りを終えた足で、ナルカミマギシングジムに向かう。

 朝日の差し込むジムのトレーニングルームは、にぎやかな喧騒に包まれていた。イズナとユーリを含めた数十人の若い魔道師たちが明日のチャンピオンを目指して汗を流している。

 マリアはイズナとの試合が終わった後、自身の運営していたジムの活動を休止して所属選手をシンドウに託した。


『百年頑張ったから少し休みが欲しいのよ。それにあなたとユーリは魔術の適性が似てるし、いいトレーナーになれると思うわ』


 と、言い残して旅に出たのだった。

 当のユーリや所属選手たちは口をそろえて「マリアはそういう人だから」と特に不満は感じていないらしく、素直にナルカミマギシングジムに移籍してくれた。

 さすがのシンドウも最初は戸惑った。

 しかしイズナとユーリのライバル関係はお互いの成長のために役立つし、ナルカミジムが多くの選手を迎えて活気づくのはよいことだと考え、マリアの申し出を快諾した。

 あるいはこの急な移籍話もイズナの夢であるナルカミマギシングジム再興に、マリアが一役買って出たということかもしれない。

 シンドウが選手たちの練習を見守る中、サンドバッグを叩いていたイズナが突然声を上げた。


「あ、そうだ。私ユーリにプレゼントがあるんだった!」


 首を傾げるユーリを残して、イズナはトレーニングルームと自宅を繋ぐ扉を開けて自宅へ行った。しばらくすると使い古された長杖を持って帰ってくる。

 ゲンイチロウが現役時代から愛用していた杖だ。


「ユーリの杖、私が壊しちゃったし……よかったら、もらってくれる?」

「え!? でもこれは、イズナさんにとって……とても大切な!」

「だけど私は適性的に使えないじゃん? 誰にも使ってもらえないのも可愛そうでさ。だからユーリに使ってほしいんだ。私のライバルで……親友のユーリに使ってもらったほうがおじいちゃんも喜ぶからさ!」

「イズナさん……」


 ユーリはイズナから杖を受け取ると、宝物のように抱きしめた。


「大切に使います……でも、今度ユーリがあなたと再戦して勝っても、杖を返せー、なんて言わないでくださいね?」

「言わないよーだ! だって次も勝つのは私だから!」

「そんなことはありません! 次戦ったらユーリが勝ちます!」


 時が止まり、静寂に包まれていた五百年と比べると、今の時間は毎日目まぐるしく進み、騒がしい。だけどこんな幸せな日々が人殺しの魔術師にも訪れるとは思ってもいなかった。

 いや、自分を卑下するのはもうやめておこう。

 シンドウは、トレーニングルームの中央にあるスパーリング用サークルを踏んで起動する。


「二人とも、今度と言わずに今決着をつけてみるか?」

「お! いいね! やろうよユーリ!」

「そうですね。新しい杖の感触も掴みたいですし、望むところです」


 イズナとユーリがサークルに入ると、他の選手たちも練習の手を止めてサークルを囲こうように集まってくる。


「よし。二人とも準備はいいか?」

「もっちろん! 負けちゃって泣いても知らないからねーユーリ」

「その台詞はそっくりお返ししますよイズナさん」

「よーし、それじゃあ両者構えて、ファイト!」


 新しい世界でシンドウ・カズトラと若い魔道師たちの新たな闘いのゴングが鳴らされた。


 おわり

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