19 女の子は手を取り合って未来をめざす
※ ※ ※
――数ヶ月後。
私はお母様お父様と共に王城へと招待された。
悼む場でもあるからと、華美にならないような服装で馬車に揺られる。
王城で通されたのは、謁見の広間などではなく応接間だった。
国王様に謝罪を受け、その後私は場を辞した。
後のことは大人達で話したほうがいい気がしたから。
両親と国王様に許可をいただいて、私は色々な思いと共に進んできた廊下を歩いた。
ウィリーとかけっこをした場所、王妃様の後ろをついて歩いた場所。
ひとつひとつ、確認するように歩く。
そうして進みながら一人、あの始まりの場所へと着いた。
今日は晴れているから、木々が青々しく風にゆらゆらと揺れている。
花が咲き誇り、噴水や脇の方にはちょっとした菜園のあるその場所は、ウィリーと遊び王妃様に見守られた場所でもあった。
眺めていると、花壇を見ている背中を見つけた。
「ゼファー」
「ああ、ウルム。そうか、今日は父上が謝罪の場を設けた日だったね、いらっしゃい」
「お邪魔してます」
「話は、もう済んだの」
彼が、振り向きながら柔らかく聞いてくる。
私は近づきながら答えた。
「後は大人に任せたわ」
「そう……」
前へ向き直す彼の、横に立つ。
ゼファーは手を目の前にある花へと伸ばしながら、ぽつりぽつりと、話し始めた。
「……どこからか聞いていたかも知れないけど。俺は、王族といっても王妃様が言ってらしたように、側妃の子ですらない」
「知らなかった……。ウィリーも王妃様も、おっしゃっていなかったから」
「外聞が悪かったんだろう。母は王城でメイドをしていて、見初められたらしい。暫くは城下で俺と母は二人で暮らしていた」
暮らしぶりは悪くなかったという。
彼が言うには、国王様からの資金援助が少なからずあったんだろうということだった。
慎ましくも楽しい日々、それが儚くも散ったのは彼が六歳、あの私がウィリー王子とあったまさにその頃で。
お母様が亡くなって国王様に引き取られたものの、やっと側妃を迎える許可を得たばかりの時期で。
ゼファーの存在は特秘とされた。
「俺は敷地のはずれの離れで、ひっそりと暮らしていた」
「よく見つからなかったわね」
「そこ以外立ち入り禁止だったからね。俺も勝手がわからなくて、きちんと守っていたし。……けどそれが王妃様に見つかったのは、その生活に飽きて許可外の敷地へ足を踏み入れたからだった」
私は思い出した情景を、再び脳裏に思い浮かべていた。
あの日、王城の庭隅で出会ったのは多分、抜け出した時だったんだろう。
それを目撃されてしまったらしく、彼は王族として迎え入れられはしたけれどやはり、少し体が弱いことを理由に病弱ということにされその存在は隠されて、知る人ぞ知るとなったらしい。
「ウルムの噂は聞いていたよ。おしゃべりなメイドが色々と話していたから。……兄上からも、聞いたことがあるし」
「ウィリーからも?」
「うん。引き取ってもらってすぐ位に、実は住んでる離れが兄上にバレてね」
「え?!」
「ほら、兄上って活発の権化、みたいなとこがあったから冒険してたらしいよ、王城の敷地全部」
「まぁ」
ウィリーらしい。
庭先に、かけていく彼の背中が見えた気がした。
その彼は今、生死の境を彷徨いつつも、デューデン様の介抱の甲斐もあって少しずつ回復しているらしい。
あの混乱の後、改めてゼファーが調べてくれた内容が精査され。
私の怪我の元となった男子生徒は退学になり、色々と噂にのせられて行動を起こした人達もそれぞれ罪に見合った処罰を受けた。
発端となったデューデン様もまた、周りの証言から罪に問われることになった。
けれど――
あの場の衝撃が大きすぎたのか、本人からはまともな証言が得られず。
ただひたすらに介抱だけをする様に、ウィリーの容体が安定し次第城のはずれでひっそりと、二人一緒に療養と称した幽閉をされることが決まったらしい。
「……俺の存在が、きっと王妃様と兄上を壊した」
彼のその発言に、私は思わず彼の手を取った。
「違う! 違うわ!! いえ……きっかけかも知れない。けれど、その後の選択はそれぞれがしたのよ。王妃様も、ウィリーも、もちろん……私も」
そう、いつだって選んでしまっていた。
足掻かず諦めの道を……。
後悔に、つい手を離し花壇を見やる。
「ウルム……」
「私も国王様も王妃様も、ウィリーも……間違えたの。きちんと言うべきを、間違えた。それは誰の責任でもなく、自分の責任なの。特に上に立とうとするものにとっては」
花が風にそよいでいる。
そこから視線をゼファーへと向ける。
澄んだ水色が私を見つめる。
彼が、口を開いた。
「兄上の廃嫡が決まった。父上は引退するそうだ。後継にと言われたけど断った」
「そう」
「ただ弟がまだ小さいから戴冠させるわけにもいかなくて。中継ぎとして立とうと思うんだけど……ついてきて、くれる?」
「あらゼファーこそ、悪女が隣でもよろしいの?」
「喜んで!」
冗談めかして踏ん反り返ったふうにして言うと、彼が破顔した。
どちらからともなく手をのばし繋いだ。
私たちはまた、歩き出すだろう。
もう、ひたむきにただ後ろを追うだけにはしない。
そう決意して。
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それでは、またどこかのお話でお会いできましたら幸いです。
本当にありがとうございました。




