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次期王妃な悪女はひたむかない  作者: 三屋城 衣智子
本編

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18/21

18 悪女は思い出ごと彼と共に

 きゃー!!


 誰からともなく悲鳴が上がる。

 民衆のどよめきが風のようにやってくる。

 慌てふためく国王のお供や騎士達。

 デューデン様は王子に縋りつき絶叫しながらその体を揺する。


「誰か! 医療の心得のあるものはおらぬか!! 誰でも良い、(はよ)う!!」


 青ざめた国王様が、動揺を(にじ)ませつつもなんとか落ち着いた声で呼びかける。


(わたくし)が!」


 そこへ声を上げたのは、特別席に来ていたらしい私の母だった。

 気づかなかった、いつからそこに?

 私が驚きと嬉しさにどぎまぎしているうちに、颯爽とこちらへと駆けてきて王子の処置を始めた。

 後ろから父もやってきて、騎士と共に動きはじめる。


「誰か水を!! 大量にちょうだいな」


 ついで王妃様の元へ行き呼気などを確認していたけれど、母は国王様へと顔を向けると静かに、首を横に振った。


「シュシュリナ……」


 国王様が顔を歪ませ震えた声で王妃様の名前を呼ぶ。

 けれどすぐ様切り替えたのか、元の威厳ある姿に戻った。


「誰か担架を!! 処置を進めつつ王城へ戻る」


 侍医(じい)の元へ戻る方がいいと判断したのだろう、騎士達にそう指示すると手早く帰城の支度を進めていく。

 私もゼファーも見ることしかできなかった。

 その私達へと向き直り、国王様が口を開いた。


「ウルム、此度のことはまた改めて謝罪の場を設けさせてほしい。……ゼファー、私はウィリーと王妃のために一旦城へ戻る。混乱したこの場を任せてよいな?」

「わかりました」

「……苦労を、かける」


 そう言い残し、私の父母、そして国王様達一団はその場から王城へと帰って行った。


 場は今も混乱しているのだろう、騒然としている。

 私は現実味がまるでなくて、ただその場に突っ立っている。

 隣に立つゼファーが、そっと私の手を握ってきて、彼の方を見ると前を見据えながら口を開いた。


「今から言うこと、よく聞いて、聴衆のこととか考えずに、ウルムの心で答えを出してほしい」

「え?」


 何を言われたのかわからなくて、私はただゼファーを見つめた。

 彼の手が離れていく。


「お集まりの方々、本日はご足労いただきありがとうございました! 今あなた方がその目で見、お聞きになったことは紛れもない事実であり、この場で起きたことは王並びに我々王族の罪であり罰です」


 誤魔化しもせずきちんと認めた彼に、会場からどよめきが上がる。


「しかし、事情はそれぞれの胸の内にあり、それもまた真実であったこと。そのために起きた今日の悲劇は、我々国の中枢を担うものがそれぞれ胸に刻まねばならないものだと、私は考えています」


 ゼファーはそこで、一旦言葉を区切った。

 少し言葉が詰まったようだった。

 けれど気丈に、締めの言葉を発する。


「また言えた義理ではありませんが、どうか皆様も、身近な人と目を見てきちんと話し、噂を信じず相手をきちんと知っていただけたらと願います。私も気をつけながら、これからより一層国のために尽力することを、ここに誓います!」


 誰も何も言わない。

 王家の信頼は失墜(しっつい)したのかも知れなかった。

 不安になってゼファーを見る。

 その瞳は、ただただ力強かった。


 間を置いて、まばらな拍手が起こる。

 やがてそれは大音量となった。

 彼の目が見開かれて段々と潤む。

 良かった。


 そう思ったら抱きつかれた。


 再び場に少しのざわつきと静寂が戻る。


「ウルム」

「はい」


 抱擁は一旦解かれ、潤んだ瞳で見つめられた。


「これは償いじゃない。けれど、王族である俺と共にいたら、きっと兄上のことを思い出すだろう。背中の傷がひどく疼くかも知れない。離れるべきだとも思う。けれど、嫌なんだ。君のことが好きすぎてそばにいたいと願ってしまう」


 出来事と言葉の乱高下に、ふわふわ考えがまとまらない。


「願いを、叶える許可を……くれないかい」


 言われ、私の涙腺は壊れた。


「いいえ、いいえっ! 私がお慕いしているのよ。殿下は自分の罪だと言った……ならばこれは私にとっても罪。一緒に考えながら、歩ませてくださいまし」


 失わせておいて、と。

 命を奪っておいて、と言う人はいるだろう。

 けど私は、それごと一緒に生きていきたい。

 あの日も本当。

 今日もまた、本当なのだ。


 見つめ合うと、そっとキスが降ってきて。

 私はそれに応えた。


 民衆からどよめく声。

 一つ二つ「いいぞー」だったり口笛が聞こえ。

 それはやがてうねりとなり、拍手や応援の声となった。

 場を埋め尽くすその音に、私の目から一粒。

 涙が落ちて土へと還った。

 けれどもうあの日々には還れないし還らない。

 それごと進むと決めた胸の内が、背中と共に熱かった。



 鳴り止まない民衆の熱気の中。


 きらきらとした「ウルムー!」という呼び声とかけてく足音が――聞こえた、気がした。




 ※ ※ ※




 翌日、王妃様の罪状確認と葬儀の手配が素早くなされ。

 その数日後にはひっそりとしめやかに、けれど他国の姫だったこともあってしっかりと、国葬が執り行われた。

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