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次期王妃な悪女はひたむかない  作者: 三屋城 衣智子
本編

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12/21

12 悪女は牢に入る

 そうだった、昔それぞれにではあったけれど、私はこの兄弟と約束をしたのだ。

 ウィリーと共にある、と。


「なのに! 好きだったのに、愛していたのに! 母上はおっしゃっていた、お前は裏切ったのだと、俺よりも奴を選んだと!! わかるか、俺の気持ちが!!」


 王子は両手で顔を覆った。

 泣いているのかも知れなかった。


「あれはっ」

「違うウィリー! 最近の彼女は自分の汚名を(そそ)ぎたかっただけだ! 事実王妃教育は毎日頑張っていたじゃないか、王城に来て王妃様と何時間も部屋にこもっていたのを俺は見」

「うるさいうるさいうるさい! 黙れ悪女黙れ盗人(ぬすっと)!! 言い訳など聞きたくない! おいそこの、人を突き落としたのはあの女だ。牢に入れろ!!」

「待ってください、ウィリー殿下!!」


 王子の掛け声に学園に常駐している王子専属の騎士が、私の両脇に来て引っ立てられる。


「殿下!!」


 誤解だと説明がしたくて抵抗した途端。

 危険行動ありと見られたのだろう、こめかみを殴られ私の意識はそこで途切れた。




 ※ ※ ※




 頬を何かが往復する感触がする。

 私はそのくすぐったさで、(まぶた)をあけた。


「ひっ!」

「目が、覚めたか」


 手のひらごしに見えたのはウィリー殿下だった。

 気を失い横になっていた私の傍らに座り、頬を()ぜていたらしい。


 思わず後ずさって、けれどすぐに背中が壁に当たってしまう。

 見渡すと、石造りの質素な部屋に私が今いるベッドと部屋の角にお花摘み(トイレ)の場所。

 部屋の一辺は全て鉄格子となっていて、自身が牢に運び込まれたということがわかる。

 じゃらり、と金属の擦れる音が足元からして、見ると(かせ)が足首についていて鎖がベッドの脚に繋がれているようだった。


「殿下、デューデン様の容態は?!」


 気を失う前の情景を思い出して、私は気になって尋ねた。


「笑わせる。お前がああしてしまったのに、形ばかりの心配か?」

「決して、決してそのようなことはっ!」

「黙れ!!」


 ベッドへ乗り上がると私へとにじり寄り、顎を掴まれ上に向けさせられる。

 怒りのこもった双眸(そうぼう)に、気持ちがひるんだ。

 右頬に、手の甲が当てられゆるゆると移動していく。


「女はベッドの上だけで(さえず)っていればいい」

「なっ!」


 思わずカッとなって王子の頬を張ろうとして、けれどその手は掴まれ阻まれた。

 そのまま手を横に引っ張られ、姿勢が崩れてベッドに仰向けになってしまう。

 いつの間にか両手首に王子の手があり、それは頭の上でひとまとめにされ彼の右手で縫い止められた。

 太ももの上、王子が跨いで座ってくる。


「ゼファーに国をやろうとでも言われたか?」

「なに、を……」


 制服の上着のボタンが次々と外されて。


「残念だったな、あれは数人いる妾腹の中でも実家の後ろ盾がないやつだ。王になることはないだろう」


 彼の左手が、頬、首筋、鎖骨をなぞっていく。


 嫌な予感がして体がだんだん震えてきた。


「……っ、デューデン様へは何もしておりませんし、王妃の座に固執もしておりません! 婚約解消をなさってく、痛っ」

「否定するな否定するな否定するな否定するな否定するな!!」


 王子が私の右胸を強く掴んだ。


「俺の、ことを、ひていするな!!!!」


 ブラウスのボタンが弾け飛ぶ。


「いやっ!!」


 いよいよと危険に気づいて私は全力で抵抗した。

 頬を打たれる。

 だけどこの先に待つ未来の方が、おぞましい!

 両手を突っぱねようとしたところ、もう一度打たれる。

 その衝撃で少し思考が揺れ、反応が遅くなったところに頭上で両腕が縛られる感触がした。

 ヘッドの柵に結えつけられたのか、そこから腕を動かすことができない。




 助けてゼファー!!!!




 ……ぁ……。

 私、何を……。


 お父様でもなく、お母様でもなく、どうして彼の名を……。



 この状況で自身の気持ちなんて気づきたくなくて。


 一筋。


 涙が頬を伝った。










 何かが私をまさぐっている。

 自由な瞳は見ていたくなくて瞼を閉じた。

 両腕の縛りは何をどうしても隙間すら生まれない。

 足はいくらばたつかせようとしても、王子が太ももに乗っているから大した動きにならない。




 諦めかけたその時。


「殿下」


 城の騎士だろうか、王子に声をかけるのが聞こえた。


「忙しい、後にしろ」

「そういうわけには。お忍びと理解しております、探されるのは本意ではないのでは。王がお呼びですので」

「チッ。……舌など噛むなよ。お前の父親が立ち回っている、長生きの方が親孝行だ」

「殿下」

「わかっている。うるさく言うな」


 面倒くさそうに前髪をかき上げながら、王子は腕の拘束をとき乗っていた私から離れると牢から出た。

 そうして格子越しに振り返り口を開く。


「処罰が決まるまでは、お前は俺の物だ。勝手に死ねばお前の家族がどうなるか……わかっているな?」


 その言葉に、ただただ恐怖しかなくて私の体はびくついた。


「……また来る」


 言って満足したのか、王子は騎士を連れて牢から離れていった。

 緊張がいっときほぐれる。

 けれど今の自分の状態を見るのも理解するのも、何もできなくて。

 弾け飛んだ先――床の、転がっているボタンを見ながら、私はただただ涙を流した。

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