プロローグ:後
ビュウウウウウウウウウウゥゥーーーーーーーーンンンン!!!!!
「お母様ーー!風が凄過ぎます!」
「耐えるのよ、オデット!もう少しだけで異界からの勇者が召喚術に応じるはず!」
今、【聖白潔実】と【絶対防衛の巨大魔力障壁】を合わせての複合的魔術障壁に囲われている英傑女王ことアブリエールとその娘である第一王女、オデットが感じる凄まじい緑色の風は国の最高級神官、ルイージアの身を中心に発せられているものだ。
ルイージアの愛用の魔杖、【イルナスヴエイール】を元に開放されている緑色の風の本流は魔法障壁の中にいる彼女達だけじゃなくて、障壁の外で正面に対面している敵軍の総司令官であるロデリック将軍にまで届く。
「ーーくっ!【絶対防衛の巨大魔力障壁】も展開していることなのに風がここまでも漏れ出てくるとはーーー!まさかお前達ーー!?」
『異界からの勇猛なる者よ、我が声を聞き給えー!』
『数多な民の涙と血による懇願と切実なる思い、汝の心に届くようにー』
『どうか、我々の求めに応じて、ご召喚に応じて下さいませーーー!』
『ーーー【異界の召喚術】ーーーーーーーーー!!!!!』
そんな詠唱を唱え終えた女神官ルイージアは彼女の魔杖、【イルナスヴエイール】を天高く掲げ、そこから何重にまでも展開されていく魔法陣が解き放たれた!
ビュクーーン!ビュクーーン!ビュユオオオオオオオオオオーーーーーーンンン!!!!!
金属的な耳鳴り音が木霊し始めると同時に、ルイージアの頭上に展開された一つ一つのそれぞれの魔法陣らには青白く点滅し出していて、光り輝く閃光を放つ。
「くー!くそ!やっぱり異界から何かを召喚する類の魔術かーー!だが、そう簡単に完成させるもんかーー!」
尚も手のひらを魔法障壁に囲われている彼女達へと突き付けようとするロデリックに、
「無駄よ!術式は既に完成済みだわ!そなたが大物の魔術を放とうとしても詠唱を最後まで間に合えないはずよー!ルイージア!」
「承知致しました、我が女王陛下!」
「いよいよですね、お母様!」
ビュユオオオオオオオオオオォォォオオーーーーーーーーーンンンン!!!!
いっそう青白く光り輝いた魔法陣らは魔杖から放たれている緑色の突風と連動するように激烈な音と閃光を放ちながら、謁見室の室内すべての面積をそれらで埋め尽くしたのだ。
バコーーーーー!
行動が遅れたロデリックは成す術も無しに、その凄まじい閃光に目を晦まされながら、威力申し分ないの突風に吹き飛ばされ、壁にまで激突させられている。
「ぐー!」
ビュウウウウウウウウウウ............
やがて、光の本流が徐々に収まっていくと、
「ううぅぅ............えー?ここは...」
魔法障壁の中に、女王アブリエールとその娘、オデット、そして女神官であるルイージア3人が立っているところより前に姿を現しているのは10代後半らしき見た目の男性だ。但し、彼の外見に対して、何やら驚いたような表情を浮かべる一同。
「...そ、それは新鮮な色なのね、そなた」
「肌が....黒い人?」
「お肌が真っ黒すぎるようですけれど、もしかして異界の人ってそういう者ばかりなのでしょうか?」
口々に登場したばかりの少年に向かって感想を述べていく3人の女性達。
「え?ここってー?わああー!天井が高すぎるよ、ここ!それに、壁も灰色で複雑な彫刻や文様があっちこっちでいっぱい飾られてたり掘られたりするし、すごく豪華って感じの広~~~~い部屋だ!まるで欧州のおとぎ話によく出てくるファンタジーって感じのお城の中にいるみたいーーー!!」
少年は自身が転移させられてきたここの謁見室の形に対して、キラキラした目になっている様子だ。
「みたいじゃなくて本当に私達の住んでいる城なんだけど....」
少年の独白にツッコんだのは王女であるオデットだ。
「ほえー?!?き、き、貴女はーー?」
「ええ、見ての通り私は本物の王女だよ。名はオデット・フォン・エドゥーノースと言うんだ。私達の国を救ってもらうために、君をー」
「も、もしかして貴女は【白人】なんですかーーーー!?」
「...はいー?」
と、自分の事を名乗り出た王女は彼がどうしてここにいるのかを説明するために続きを話そうとしたけど、いきなり少年からそういうことを聞かれてきょとんとした。
タタタタ....
いきなり王女の側まで小走りしていくかと思いきやー
「僕、ムキサって言います!アフリカの【ウガンデ】っていう超小国が出身地なんですよ!今年に入って16歳になったばかりなんだけど、ずっと、ずっと白人の友達が欲しくて
夢見ていてここまで生きてきましたよーー!あの、本当に王女だと仰っていたようですけど、それならご握手してくれませんか?」
「..お、おう。 って、テンション高すぎないか君ーー!?」
早口で喋り出す少年に、少々戸惑いながらも律儀に白い手袋をはめている手を差し伸べる王女のオデット。
「ふふふ....召喚されてきて10分も満たない内にどうやらすっかり馴染んでくれましたようですね、女王陛下?」
「ええ。娘も上手く彼の事をフォローできるような姿勢を見せ始めるし、これなら初日で戸惑い気味のはずの彼を任せてもいいかもしれないわね」
オデットと少年のやりとりを見て微笑ましい気分になっている女王と女神官。
「わあー!そこのお二人の女性もお城の者ですか!?やっぱり冠をつけている方が女王様で貴女の母親なんですよね?みんな肌が白くてこれぞ僕がずっと憧れている【白人】のお美しい容姿ばかりで超嬉しいーーー!」
「さっきからハクジンハクジンっていうけれどなんなのよ、もうー!もしかして君と違って私達の方が白い肌をしているから君の元いた世界では私達のような人がそう呼ばれて
いる名称なのかな?」
「はいです!僕、黒人ばかりの国に育ったんだけど、小さい頃に一人の有名なお金持ちのフランス人博士、アントワーヌ氏が町づくりのためにやってきて、それで科学研究のための新しい近代的な都市を僕達のために作ってくれましたよ!そしてその頃、僕の幼馴染になってくれた彼の一人娘、デルフィーヌとも超仲良く
なっていました!」
「....要するに、君の国では君みたいにダークチョコレートに近い感じの肌色ばかりの人が住んでいるけど、私達みたいな白い肌をしている有名人がやってきて君達の生活改善のためにたくさん貢献してくれたから【ハクジン】なる者が好きになっていると、そういうのだな?」
「うん!ところで、なんか王女様の着てらっしゃるドレスってファンタジーすぎる感があるんだけど、もしかしなくてもここは西欧のどこかの国じゃなくて異世界なのかな?なんかそれを口にすれば、今更はじめて自分の体内に流れている何かの凄まじい【力】も感じ始めてるし!」
「ええ、それについては後から詳しく説明するとして、まずは君に関することから話すことだね。確かに過去に沢山のいい思い出があったり、親しい仲にまでなって楽しい記憶ばかり自慢したりするからハクジンが大好きなのは分かるんだけど、たとえ私達のように肌の白い人でも悪い人がいっぱいいるってことを忘れたりしないよね、さすがに」
王女と少年の会話が弾んでいるところに、
「どいつもこいつもオレを差し置いて盛り上がるんじゃないーーー!喰らえーー!【極凍絶滅寒獄】!!」
王女と少年に無視されっ放しにされているロデリック将軍が彼らの態度が気に入らないのか、大技の魔術、【極凍絶滅寒獄】を魔法障壁に守られながらの彼ら4人に向かって打ち出した。
カチャカチャカチャカチイイーーーーーーーーーーーンンンン!!!
激しい冷気を放つ極寒の巨大な氷柱が次々とゆっくりしたペースで地面から生えて迫ってくるが、女王アブリエールがそれを見ても怯んだりせずに、ただニヤリと前方にいる娘と少年二人を凝視してるだけだ。
「ぎゃはははーーー!!第6階梯の超破壊級の魔術だ!これで全員まとめてあの世送りだぜーー!!!」
ロデリック将軍の高笑いを気にすることなく、ついさっき王女からの発言に答えるように、少年が声を出す。
「はい!それも十分知ってるんですよ、王女様ー!だってー」
王女に諭されるまでもないかのように振舞う黒い肌の少年は、前に振り向いて、ロデリック将軍の方をやっと視認するようになった。
「彼みたいに貴女の国でヒャッハー!と暴れようとするような極悪人ーー僕も大嫌いですからね!」
それだけきっぱり言い放ったムキサという少年は、ここの世界に召喚されて10分も経たない内にロデリックの放った氷柱の大群を見ても動揺したりするのを忘れたかのように、そっち方面に向けて腕を一振りしたのだった!
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