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1話 ひかりあれ


 ――ひかりあれ。

 家にいた私と家族は、突然の光に包まれた。


 ------◇◇◇------


「みんな! いいニュースと悪いニュースがある。どちらから聞きたい?」

 突然のできごとに、私は困惑していた。

 いや、私といったが、戸惑っているのは私だけではない。

 トラブルに巻き込まれた家族も右往左往している。


「そんなのどうでもいいでしょ?! ここはいったいなんなの?!」

 目の前にいる赤っぽいセーターにジーンズを穿いた中年の女性が、私の妻だ。

 彼女はいつもこうだ。

 私の話を聞こうともしない。

 2人の仲もすでに冷え切っており、家族も崩壊寸前だ。


「ホ○リーシット! ワッツザファ○ク!」

 ちょっと離れた場所で、スマホを見ながら下品な言葉を吐いているのが、私の娘。

 小さな頃は、可愛くてとてもよい子だったのに、今や学校でも札付きの問題児。

 停学中で家にいたのだが……。

 ツインテールに、ボロボロのデニムジャケットを着て、下着が見えそうな短いスカートを穿いている。

 服装をなん回か注意したのだが、私の話など一向に聞いてくれない。


「イェェェェェ!」

 そしてなぜか大空に向かって奇声を発しているのが、末っ子のトーマス。

 メガネをかけて、シャツにジーンズの普通の格好。

 学校でも目立たない彼だが、話を聞くとナードとか言われているようで、日本のアニメが好きだ。

 女はブロンド、男はブルネット――綺麗に分かれた。


「ジョセフ! ここはなんなの?!」

「落ち着け、メアリー」

「こんな所にいきなり放り出されて、落ち着けですって?!」

 まぁ、彼女の言葉にも一理ある。

 なにせ、私たちは突然、鬱蒼とした森の中に放り出されていたのだ。

 今まで見たこともない植物やら、高い空には得体のしれないものが飛んでいる。


「そうだまずは落ち着いて、状況の把握をだな……」

「いやぁぁぁ!」

「落ち着け!」

 取り乱す妻の両肩を掴み、なんとか落ち着かせる。


「……うう」

「私の言うことなんて聞きたくないのは解るが、それじゃお前らだけで、ここから脱出できるのか?!」

 妻に辺りの景色を見せると、うなだれた。

 女1人で、こんな森の中でどうにかできるはずがない。

 彼女は、キャンプすら行ったことがないのだから。


「ネットもつながらないなんて、マジ最悪……」

 いつも悪態をついている娘も、下を向いたままブツブツとなにかつぶやいている。

 彼女のスマホでも、まったくネットにつながらないらしい。

 ネットにつながらないスマホなんて、ただの板だからな。

 ネットジャンキーの彼女には堪えるのだろう。


 その半面、末っ子のトーマスは元気だ。

 なにかポーズをつけてあれこれ叫んでいたが――一通り終わると、私の所にやって来た。


「ダディ! ここは異世界だよ!」

 彼が明らかに興奮しているのが解る。


「異世界?! 確かに見たことがない世界だが……そんな馬鹿な……」

「僕は、日本のアニメを観て研究していたからね! 異世界には詳しいんだ!」

 トーマスの話によると、ここは私たちが住んでいた世界とは違う場所らしい。

 そんな突飛で荒唐無稽な話を信じたくはないが――周りの景色やら、見たことがない生物がうごめく世界。

 もう信じるしかないようだ。


 私と妻、そして娘のソフィアも、それを受け入れるしかなかった。


「はぁ……」

 私は地面にへたり込むとため息をついた。

 地面には草が無秩序に生えており、カサカサと見たことがない虫が這っている。


「いやぁ! シッ! シッ!」

 娘が肌に群がってくる虫を追い払う。

 そんな短いスカートを穿いているからだ。


「ダディ! 異世界に来たら、まずはステータスオープンだよ!」

 息子が妙なことを言い出した。


「なんだいそれは?」

 トーマスによると、異世界で通じる呪文のようなものらしい。


「僕が試してもなにも起きなかったから、ダディが試してみてよ!」

 彼が変なポーズを取り、なにやら叫んでいたようだが、どうやらそれだったようだ。

 なんだかよく解らないが、彼に強く説得されて、つぶやいてみた。


「ステータスオープン……」

 私の目の前に光の板が現れる。


「あなた? どうしたの?」

 突然のできごとで困惑する私に、妻が声をかけてきた。


「目の前になにか出てる……」

「イェェェェェ!」

 トーマスがはしゃいている。


「なんだこれは?」

「ダディ! それってステータス画面だよ! なにか書いてない?」

「私の名前と年齢が書いてある」

「イェェェェェ! 他には?!」

「アイテムBOX……」

「アイテムBOXキター!」

 トーマスが、叫んでいる。


「ダディ! 他には?!」

「え~と、シャングリ・ラ……」

 シャングリ・ラって、あれだろうか?

 私の頭には、世界中で利用されているネットスーパーが思い浮かんだ。


「ネットスーパーチートキター!」

 彼によると、これらはチートと呼ばれる能力らしい。

 説明を受けてから、シャングリ・ラと書かれている部分をタッチしてみた。


 私の目の前に、いつも見慣れたネットスーパーの画面が出る。


「はぁ……確かにシャングリ・ラだ……」

「ダディ! 本当にシャングリ・ラの画面が出てるの?! なにか買ってみてよ!」

「ちょっとパパ! 最初に虫除けを買って!」

 トーマスの言葉に被せるように、ソフィアがリクエストを出してきた。


「まてまて、急かすんじゃない。私だってなにがなんだか解らないんだから……」

 シャングリ・ラはいいのだが、画面に出ているのが、よく解らない言語だ。

 トーマスに話してみるが、彼には画面が見えないので伝えるのが難しい。

 画面を見ながら、地面に棒で字を書いた。


「ダディ! それは漢字だよ! 漢字を使っているのは日本と中国だけ」

「簡単なこんな文字もある」

 それを見たトーマスが、シャングリ・ラに出ている言語の正体を教えてくれた


「ダディ、それは日本語だね」

 そういえば、検索ウインドウの隣に、日本の国旗が見える。


「日本語? そんな言葉は私には解らないぞ?」

「ジョセフ、本当にシャングリ・ラなら、言語の切り替えがあるんじゃない?」

「そうか!」

 妻の言葉を参考にして日本の国旗をクリックすると、言語を英語に切り替えた。


「パパ! 早くして!」

 娘がイライラしているのが解るが、こっちだってなにがなんだか解らないのだ。


「確かに英語に切り替わったが、商品の説明は日本語のままだぞ」

「ダディ、検索ウインドウは、英語が使えるんじゃない?」

 トーマスの助言に従い、私は英語で検索をしてみた。


「insect repellent っと……出た出た!」

「あなた、どう?」

「とりあえず検索はできるようだ」

「ダディ、なにか買ってみてよ」

 私は皆に急かされるまま、虫除けのスプレーらしきものをカートに入れて決済ボタンを押した。


「しかし、これでBUYボタンを押したからって、どうなるんだ? D○LやF○dexがここまで届けてくれるわけじゃないんだろう?」

 私の心配をよそに――突然、空中からオレンジ色のスプレーが落ちてきた。


「イェェェェェ!」

 それを見たトーマスが、はしゃぎまわっている。


「本当に買えたぞ? だが、料金とかはどうなっているんだ?」

「ダディ、これはチートだからね。そこら辺は大丈夫さ!」

 彼が親指を立てる。

 そうなのか? ものごとには対価ってものが必要だろう。


「料金を取られないなら、悪魔などに魂を取られるんじゃないのか?」

「HAHAHA! 大丈夫さダディ! 日本の異世界もので、そういうパターンは今までなかったから」

 彼は、あくまで日本の異世界ものとやらの知識を前提に話しているのだが、それが正しいとなぜ確信が持てるのだろう。

 私は訝しんだ。


 ソフィアは、落ちてきた虫除けスプレーらしきものを早速使っている。


「ソフィア、そんなものを使うより、ズボンを穿いたほうがいいんじゃないのか?」

「そんなの可愛くないから嫌!」

「こんな世界で可愛いとか可愛くないとか言っている場合じゃないと思うが」

「……でも、嫌!」

「ダディ、ソフィアになにを言っても無駄だよ」

「しかし……」

「あなた、それでものが買えるなら、なにか飲みものがほしいわ」

 妻からも、娘を戒める言葉がほしかったのだが、私の期待は叶わなかった。


 それにこのシャングリ・ラも簡単な問題ではない。

 金を払っていないのだから、買えているわけではないはずで……。

 これを使い続けることに一抹の不安があるのだが、家族のリクエストに応えてしまう。


 ここしばらく、家族に頼られるなどということがなかった私は、その優越感に溺れてしまったのだ。

 おお、神よ――私は弱い人間です。

 お許しください。


「これが日本のコーヒーなのね? 美味しいわ」

 妻と娘は、缶コーヒーを飲んでご満悦だ。

 私もコーヒーを飲んでみた。

 甘い――が、こういう精神的に疲れている所に甘いものは、正直ありがたい。


「ダディ、僕はお腹が空いたよ」

「そ、そういえばそうだな……お前たちはどうだ?」

 あまりに想定外なできごとで、空腹を忘れていた。


「そういえば――お腹が空いたかも……」

 妻と娘も空腹を訴え始めた。

 それでは食事にするか……。


「さて、こういうときにはなにを食べればいいのか……」

「インスタント食品でしょ?」

「おお、トーマス、冴えているな」

「僕は、異世界には詳しいからね」

 シャングリ・ラで、インスタント食品を検索する。

 英語で検索してもそれっぽいのが沢山出てきたのだが、見たこともない商品ばかりだ。


「おお、これなら解るな」

 私は、見慣れたカップ麺をカートに入れて購入ボタンを押した。

 空中からカップ麺が現れた。


「イエェ! カップ麺だ!」

 食料をゲットしたトーマスがクルクルと踊っている。

 こんなにはしゃぐ子だったろうか。

 異世界とやらにやって来て、テンションが上がっているのかもしれない。


「それでいいかい?」

「OKだよダディ!」

 トーマスが親指を立てたので、女性陣にも確認すると――2人ともカップ麺でいいらしい。


「そうか――」

 近くにはなにやら黄色いカップがあったので、それも購入してみた。


「ダディ! これはインスタントのカレーだね!」

「そういうものもあるのか」

「どうやって作るんだろう……」

「貸して!」

 ソフィアが、トーマスから黄色いカップを取ると、スマホで撮影を始めた。


「……お湯を入れて5分たってからぐるぐるとかき混ぜる――って書いてあるわ」

 どうやら、スマホで撮影した文章を翻訳してくれるアプリのようだ。


「ソフィアやるじゃない」

「ふん」

 弟に褒められて、まんざらでもないような彼女だが、こんな会話すらいつ以来だったのか忘れてしまっていた。

 そのぐらい、私の家庭は崩壊しつつあった。


「よし! それじゃ火を起こそう! みんなで薪を集めてくれ!」

「はぁ? そんなことをしなくても、シャングリ・ラでコンロでも買えばいいんじゃないの?」

 まぁ、娘の言うことも一理あるのだが、現状このシステムを使ってなにが起こるか解らない。

 使わないのに越したことはない――と、家族を説得するつもりだったのだが、見事に失敗した。


 結局、カセットガスのコンロと、水などを買ってしまったのだ。


「美味い! ダディ! このカレー美味いよ!」

 トーマスはもちろん、娘と妻もヌードルを美味しそうに食べている。

 突然、訳の分からない世界に放り込まれたが、なんとかなりそうだと解って表情も明るくなった。


 食べ終わったら後片付けだ。

 ゴミはゴミ袋に集めた。

 妻と娘は「そこら辺に捨てれば?」――と言うのだが、捨てるわけにもいくまい。

 ヌードルの汁などは、トイレを作った際にそこに捨てることにした。

 野生動物だって糞をしているんだ。

 私たち人間だって、糞をしてもいいだろう。


 さて、ゴミを集めたのはいいのだが、どうしたらいいのだろう。

 そのまま放置しては、ゴミを捨てたのと一緒になってしまう。


「ダディ! そういうときのアイテムBOXだよ」

「アイテムBOX?」

 彼の説明では、見えない空間にものを収納できる能力らしい。

 信じがたいのだが、彼の言うとおりアイテムBOXにゴミ袋を収納すると、私の眼の前から消えた。


「イェェェ!」

 トーマスが片拳を突き上げてジャンプしている。

 某ゲームのコインをゲットしているような格好だ。


「確かにこれは便利だ。ものを持って歩かなくても済むのか……」

「そうだよダディ。いつだって手ぶらでOKさ!」

 これはいったいどういう力なのだろうか?

 神の奇跡? それとも魔法? それとも人智を超えたなにかのテクノロジーだろうか?


「それはいいが、これからどうすればいい?」

「まずは衣食住だと思うけど、着るものと食事は摂れるから――」

「あとは住処か……」

 トーマスの言葉どおりに、私はテントを2つ購入した。

 とりあえず、拠点を設置する必要があるだろう。

 この状態で雨でも降られたらヤバい。


 説明書を読みながら、テントを設営する。

 カブスカウトでやったことがあるから、このぐらいはどうってことはない。

 こんなことになるなら、もう少し真面目にやっておくんだった。


 愚痴をつぶやきながら、テントを2つ設営し終わる。


「ねぇジョセフ、こんな場所にいつまでいるつもりなの?」

「そんなの解るはずがないだろう。ここがどこかも解らないんだぞ」

「私は嫌よ!」

「嫌と言って帰れるなら、私も『嫌』って言うけどね」

 妻の言葉に少々苛つきながら答えると、テントの前に石油ストーブを置いた。

 幸い、シャングリ・ラには白灯油も売っていたので、これでほぼキャンプの準備は整ったわけだ。


 ちょっとしたキャンプ気分だ。


「ふう……あとはなんだろうか」

「武器じゃない?」

「そうか――冴えてるな、トーマス」

「まぁね。僕は異世界には詳しいんだ」

 こんな場所だ。

 いつ野生動物の襲撃があるか解らない。

 シャングリ・ラで武器を検索してみる。


「銃はないか。ライフルかショットガンがあれば簡単なんだが」

「日本のシャングリ・ラなんでしょ? ネットゲームで知り合った日本人がいたんだけど、大型のナイフやボウガンやクロスボウなども、販売禁止らしいよ」

「それでどうやって家族を守るんだ?」

「ダディ、日本は平和だからそんなものは必要ないのさ。HAHAHA」

 確かにそんな話を聞いたことがあるが、銃のない世界など想像もできない。

 検索を繰り返すと、コンパウンドボウは買えるようだ。

 とりあえず、そいつを購入してみた。


 両端に滑車がついた大型の弓が空中から落ちてきた。


「イェェェ! クール!」

 トーマスが挑戦しているが、彼には強すぎて引けないらしい。


「ん!」

 ぐっと引いてみる――かなり力がいるが、引き切ると軽くなって狙いをつけられる。

 こいつは強力そうだが、咄嗟の場合攻撃ができるだろうか?

 やっぱり、大型の剣や刀のほうが……。


「ダディ! 僕にも小さいのを買っておくれよ!」

「そうか……」

 彼も自分の武器が欲しいようだ。

 もう少し小型のものを探すと、購入してみた。


「どうだ?」

 彼が弓を引いてみて、ニコリと親指を立てた。

 矢もあるので、早速撃ってみるらしい。

 訓練は必要だし、いきなり実戦というわけにはいかない。

 彼は正しい。


「イェェ!」

 トーマスが矢を射ると、見事に立木に命中した。

 どうやら使えるようだ。


「お前たちにも渡す」

「え?! 要らない……」

 ソフィアが拒否反応を示した。


「自分たちの身は、自分たちで守ってもらわないと、どんな不測の事態になるか解らんだろ?」

「だって、そんなの使ったことがないし」

「私も困るわ……」

 妻と娘は、この非常事態を理解していないのだろうか?


「それよりも、武器ならチェーンソーなんかがいいんじゃない?」

 チェーンソーか――確かに強力そうだが……。

 ソフィアの言葉に、トーマスが食いついた。


「ダディ! 相手がアンデッドなら最強だよ!」

「アンデッドってどんなのだ?」

「ゾンビとかだよ!」

 そういえば、ゾンビ映画やらゾンビゲームでは、チェーンソーはつきものだ。

 シャングリ・ラで検索すると、緑色のチェーンソーがヒットした。

 安心と信頼の日本製だ。

 一緒に燃料も表示されているので、それも購入してみた。


 購入ボタンを押すと、緑色のボディが落ちてくる。


「新品だな」

 一緒に落ちてきた説明書を読んでいると、トーマスがチェーンソーを持って振り回し始めた。


「バババッ! ギュイイイイン!」

 エンジンはかけていないので、危険はないと思うが……。

 トーマスから機械を返してもらい、オイルとガスを入れた。

 まずは、キャブレター下のボタンを押して、燃料を送る。


「これでエンジンがかかるはずだが……」

 チョークを使い、スターターの紐を引っ張るとエンジンが唸りを上げた。

 スロットルをあおることをなん回か繰り返す。

 すごい轟音と白い煙が辺りに立ち込めたのだが、この音だけで、野生動物は逃げるんじゃないだろうか?


「すげぇぇぇ!」

 トーマスがはしゃいでいる。

 私はエンジンを止めた。


「確かにこいつは強力そうだが、生き物に使うのはマズいんじゃないのか?」

「だからダディ! 対ゾンビ用の装備だよ!」

「お前の言うとおりにゾンビが出てくれればいいけどな」

 とにもかくにも、衣食住は確保したし武器も用意した。

 装備はほぼ揃ったはずだろう。


「雨などは――降りそうにないか……」

「そうだね、ダディ」

「トーマス、次の一手は?」

「う~ん、偵察だと思うよ」

「なるほど……」

 ここがどういう所で、周りになにがあるのか調べるのは大切だ。

 もしかしたら、人家が近くにあるかもしれない。


「しかし、この状況で戦力を分けるのは得策じゃないな」

 私が偵察に出て、家族が野生動物に襲われたりすれば、トーマスだけでは守れないだろう。

 せめて、妻と娘がやる気を出してくれれば……。


「それならいいものがあるよ」

「トーマス、お前のナイスアイデアを聞こうじゃないか」

「ドローンさ」

「ドローンか……」

 欧州で行われている戦争でも、ドローンが大きな役割を果たしている。

 新しい戦争の形だ。

 確かに、ドローンを飛ばして上空から見れば、ここがどういう所か一挙に把握できる。


「さすがだな、トーマス」

「イェー! 僕は異世界には詳しいからね」

 私は、彼と拳を合わせた。

 いつもアニメやらゲームばかりしていて心配だったトーマスだが、彼の知識がこんな所で役に立つなんて。


 早速、シャングリ・ラでドローンをググる。

 沢山売っているのだが、あまり安いものも心配だ。

 そこそこの値段で、レビューの★も参考にした。

 もっとも、それらも工作されていると噂されているので、信用できないのも確かだが。

 私の所にも購入した業者からハガキが送られてきて、★5レビューを入れてくれればギフトをプレゼントするというのが実際にあった。

 しかもそのギフトは不正に取得されたもので、使ったりするとアカウントがBANされる。

 世の中なんてものは、ウソとインチキで成り立っているわけだ。


 私たちが置かれている状況も、なにかのウソであってほしいと願っているのだが。

 たとえば、ドローンを飛ばしたら、すぐ近くに公園がありました。

 これはドッキリの撮影でした――とかな。

 まぁ、動植物が見たことがないものばかりな時点で、その希望的観測は多分外れていると思うのだが。


 ちょっと憂鬱になりながらドローンの購入ボタンを押すと、商品が落ちてきた。

 早速トーマスがはしゃいでいる。

 私は彼を横目で見ながら付属の説明書を読むことにした。


「トーマス、遊んでいないで周りの警戒もしてくれよ」

「了解!」

 いつも返事だけはいい。

 さて――見たところ、AI制御で簡単に飛ばせるようだ。

 コントローラーを確認してみると、周りを確認するディスプレイとしてスマホが必要らしい。


「ソフィア、君のスマホを貸してくれ。どうせ、ネットにはつながらないんだろ?」

「いいけど……」

 彼女からスマホを借りると、コントローラーとリンクさせた。


「トーマス、そっちのスイッチを入れてくれ」

「OK、ダディ!」

 トーマスがスイッチを入れると、スマホに彼の顔が写った。


「使えるようだぞ」

 コントローラーのジョイスティックを動かすと、ドローンのプロペラが回っている。


「飛ばしてみる?」

「ああ、ちょっと高く掲げてくれ」

「OK!」

 ジョイスティックを入れると、ドローンが垂直に飛び上がった。

 画面の中がみるみると地面から離れて、私たちの姿も小さくなる。


「イェェェ! こいつはファ○キングレイトだぜぇ!」

 トーマスが下品なセリフを吐いているのだが、注意する気にもならない。

 それどころではない。

 ドローンを限界高度まで上げて辺りを確認すると、私の後ろで妻と娘も画面を見ている。


「OH! シット!」

 見渡すかぎりの、森森、そして森。

 人家の痕跡すらない。


「ダディ、僕にもやらせて!」

「OK……」

 それどころじゃなかった。

 私たちが置かれている状況が冗談でもなんでもなく、本当に異世界に来てしまったというのが確実になってしまったのだ。


「「……」」

 私の後ろで画面を見ていた2人も同じ心境だろう。

 どうしたもんかと考えていると、ドローンのモニタを見ていたトーマスが叫び声を上げた。


「ダディ! 森の中をこちらになにかが向かってくるよ!」

「なんだ? 人か?」

「いや――犬か、狼みたいに見える。沢山の群れだ!」

「ファ○ク!」

 野犬でも狼と変わらない。

 狂犬病の可能もあるしな。


 最悪だ!



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