プロローグ 少女の場合
願いを叶えるためなら、自分の大切にしていた何かを犠牲にしたって構わないって?
そうね、私もそう思うわ。のどから手が出てしまうほど欲しくて仕方ないのに、何かを理由に諦めるなんて私にはできそうにない。
もっとも、私にとっては私以外はさほど大切じゃないからそう言えるのかもしれないけど。
私は何かに焦がれるほど執着したということも、狂いそうなほどに熱烈な感情を抱いたこともない。思い返してみても、やっぱりあり得ないと言い切れる。
私はショッピングモールでたまに見かけるような駄々をこねた子供であったことは一度もない。
欲しがる必要なんてなかったからだ。たとえ欲しがらなくたって与えられた。欲しがる前に与えられた。
いつだって、気づいた時には私の前にはすべてが用意されていた。それこそまるで、私のために世界があるかのように。言い方は悪いけど、誰もが私にひれ伏していた。
幼いころはそれが当たり前で、それよりずっと時間が経っても、そういうもんなんだと疑問にも思わなかった。明確におかしいと思ったっていうのは特に心当たりがないけれど、すこしずつ、変だということを察知していったんだろう。
そう、私が与えられた全てとは、人の心を意のままに操るという力。
別に、それが忌まわしいとか、そういうことは思っていない。
ただ、退屈の理由が分かったというだけ。今更手放せるかと聞かれたら、たぶん無理だ。
きっと私じゃなくたって、こんなことができたら同じことを思う。
でも、何か物足りない。その心地だけが悪かった。