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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

うれしはずかしリンゴの木

作者: うさねこ

 

 僕のクラスには透き通るような肌に涼しげな眼もとが印象的な王子さまがいる。 

身長はすごく高くて167センチの僕から見上げたら首を痛めそうだ。

性格もよければ見た目もいい王子が廊下を歩けば、大抵の女子の眼はハートになること間違いなし。


いつも遅刻ギリギリで登校してお昼休みはボッチ飯、体育の時間は必ず余る僕の対極に位置する人間のはずだった。






 陽キャにとって高校生活で最も大切なイベントである文化祭。

クラスで楽しそうにワイワイウェィウェイやってる彼らを尻目に、陰キャの代名詞の僕は名前もわからない陽キャに命じられた通り、台車を使い段ボールを運んでいた。


 台車の荷台にはあふれんばかりの段ボール。

段差につまづいて倒したら大変なことになるとわかってるので慎重に運ぶが、何かに引っかかってしまい段ボールが崩れてしまった。

 

 あーもう!めんどくさい!!!!

なんで名前も知らない陽キャのためにこんな苦労しなきゃいけないの!!!


 「桜井、代わろうか?」


 いきなり背筋がぞわぞわするいい声が耳に流れ込んできた。

慌てて振り返るときれいな切れ長の目が僕を見ているし、なんかいい匂いがする。

僕は距離を取るのも忘れて、王子さまくらいイケメンだとこんなにいい匂いするんだーってバカなことしか考えられなくなった。


「どうした?桜井?」

「あっ!えーっとぉー、そーのー……」

「とりあえず、拾おうぜ!」

「うん。」


 うんってなんだ!うんって!

男子高校生が使っていい言葉じゃない!


 僕が赤くなってあたふたしている間に、王子様はどんどん床に散らばった段ボールを片付けていく。


「僕がやるからいいよ。時間取らせてごめん。」


 申し訳なくなって王子さまに声をかけると「もうやり始めたし。二人の方が早い。」と返された。

王子さまはどこまでも王子さまみたい。


 文化祭の期間中、王子さまは僕と目が合うたび笑いかけてくれた。

人の笑顔を向けられることが少ない僕はそれだけで有頂天。


 気づくと僕は王子さまのことを目で追ってしまっていた。





 最近の僕はなんだかおかしい。

学校に行っても見るのは王子さまの後ろ姿だけでノートは新品のようにまっさらだし、朝つらいときも王子さまに会うためと思うと耐えられる。


 特に体育の時間は王子さまが一段とかっこよく見える。

タオルを使わずに体操着をめくって汗を拭くところなんて見た日には、鼻血が出てしまって大変だった。


 それに、いままで王子さまの本名も好みも今まで全く興味がなかったのに、この一か月間は王子さまについて調べまくっている。

 

 まず、王子さまの本名は五十嵐 (とおる)というらしい。

好きなものは梅干し、嫌いなものは苺。

甘いものに目がない僕とは正反対。


 お互い好きなものが違うから、一緒に取り合いにならずに済むなぁ~。

映画見るのが好きらしいけど、どんなのが好きなんだろう?


 そんなことを考えているうちに、いつの間にか放課後になっていることが何度もあった。


 この僕がここまで特定の個人に対して入れ込むのはらしくないと思っていたけれど、どうやら僕は王子さまこと、五十嵐君を好きになってしまったようだ。


 それからというもの、告白する勇気もなく、ただ五十嵐君を目で追うために学校に来る日々を過ごした。






 転機が訪れたのは、年度末の大掃除の時。

教室の窓を新聞紙で拭いているときのことだった。


「お前、俺のこと好きだろ」

「えっっ!」


 いつの間にかそばに来ていた五十嵐君が突然声をかけてきた。

その顔は僕をからかっている様子はなく、真剣そのもの。

当の僕は、心当たりがありすぎて動揺を隠せない!

目が泳ぎまくってるのを何とか抑えるまで、五十嵐君は僕のことをじっと見つめていた。


「あっ、そっ、そんなことないよ!あはは……」

「そんなことないわけないだろ。お前、俺のことずっと見てきたじゃん。」


 五十嵐君に変態扱いされたくなくて何とかごまかそうとするけれど、もうごまかせないみたいだ。

ものすごくドキドキして変な汗がいっぱい出てくるけど、ちゃんと言わなきゃ。

もう嫌われてるかもしれないけど、彼は真剣に向き合ってくれてるんだから。


「ほんとは好きだよ。よく気付いたね。まさか気づかれてるとは思わなかった。」

「まぁ、俺も、お前のこと見てたし。」


 えっ?見てたってどういうこと!?

記憶の中を探るが、五十嵐君が僕のことを見つめていた記憶はない。

確か、たまに目が合ってにっこりしてくれただけ。

でも、僕にとってはその笑顔がすごいご褒美だった……


「モニターの反射でお前を見てた。」


 モニター?

確かに黒板の横に液晶モニターがあるけど……

ってことはもしかしなくても、授業中ずっと五十嵐君のこと見てたのばれてるってこと!?


 ただでさえ緊張して熱をもっていた僕の頬がさらに熱くなる。


「僕にじっと見られるなんて、すごく気持ち悪かっただろうし、嫌な気分にさせちゃったよね。ごめんなさい!」

「いいよ、別に。お前となら付き合ってやってもいいし。」

「えっ?いいの!?」

「まあ、な。」


 五十嵐君はそう言った後、颯爽と陽キャの輪の中に入っていった。


 残された僕はびっくりしすぎていてしばらく動けなかったが、担任に「早くしろ!」と急かされたので、窓ふきに専念した。

というか、専念せざるを得なかった!






 帰りのホームルームが終わった後、いつものようにダラダラしながら鞄に荷物を詰め込んで帰ろうとすると、いつも陽キャ集団とウェイウェイして帰っているはずの五十嵐君が教室のドアにもたれかかっていた。


「おせーよ。早く帰るぞ!」

「うん。」


 通学路を歩く僕の横に、大好きな五十嵐君がいる。

今まで何回も妄想していたシチュエーションなのに、いざそれが現実になると緊張して何も話せない。

もし、今クラスメイトに見つかったらと思うと怖くなった。


「俺、こっちだから。」

「そうなんだ。」


 緊張して何も言えないうちに、もうお別れの場所についてしまったようだ。


「じゃあな。」

「あっ、ちょっと待って!」

「なに?」


 五十嵐君の顔が少し曇っている。


「学校では、付き合ってること秘密にしよ」

「わかったよ。じゃあな!」


 なぜか五十嵐君はニヤッと笑ってから僕に背を向けて去って行く。

彼のツボがどこにあるのか、ぼくには全く分からなくなってしまった。






 この春休みは五十嵐君のことばっかり考えていたので、見たい番組は見逃すし、見ていてもあまり集中できなくて結局何の番組を見たのかわからないありさまだった。

おかげで両親に好きな女の子でもできた?と何度も聞かれたが、もちろん本当のことを答えられずにお茶を濁す。


 そんなこんなで待ちに待った始業式。

久しぶりに五十嵐君を見ることができてすっかり舞い上がってしまった。


 始業式が終わった後、五十嵐君は陽キャに囲まれていた。

僕はできることなら一緒に帰りたかったけれど、無理そうな雰囲気を感じてそそくさと退散することにする。


「おい!桜井!どこ行くんだよ?」


 五十嵐君に声をかけられたと認識したその直後、肩を抱かれてどこかに連れていかれた。


「えっ!?なに!?」


 僕は彼の腕の中から逃れようともがくけど、体格も力も彼に劣っている僕では逃げられない。

やっとのことで前を見ると、僕の苦手な陽キャがたくさんいる。

どうやら、陽キャの輪にひきずりこまれたみたいだ。


「こいつがさっき言った俺と付き合ってる子w」

「マジ!顔真っ赤になってんじゃんw」

「えーやめなよー。この子かわいそーだよーw」


 ソッコーばらされた!

陽キャに囲まれて怖いし、めっちゃ注目されるし恥ずかしいっ!

五十嵐君の顔を見ると、今までで一番いい笑顔だった。


「そういうことだから!じゃあな!」

「おーがんばれよー!」

「ちゃんとかわいがるんだよ!」


 そのまま肩を抱かれながら靴箱まで連れていかれた。


「どうして言っちゃったの?秘密にするって約束したのに!」

「お前、いつもすました顔してるくせに慌てると真っ赤になって涙目になるんだな。w」

「そういうこと聞いてないっ!あと、肩はなして!」

「じゃあ、離さない。」


 結局、僕がどんなに恥ずかしいからやだって言っても、五十嵐君はお別れの場所につくまで肩を離してくれなかったし、うなじとかに息を吹きかけてきた。


 会ったときはあんなにやさしかったのに、なんでこんなに意地悪になるの!?

もしかして僕が目覚めさせちゃった?


 どうやら僕は取り返しのつかないことをしてしまったようだ。

 



 





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