クソ村7
「……来ないの?」
「ああ。まあ、そのうちな」
歯切れが悪いが、要は来ないってことだ。
私の戦闘スタイルはカウンターがメインだ。攻撃してくれなければそれができない。
けど、べつに自分から攻められないというわけじゃない。
「ふっ」
短く息を吐いて、一息で間合いを詰めると、腰に帯剣したそれをそのまま振り上げる。
「速いが、速さだけだぁ!」
パパがそれを木剣で受け止めた。
マジか、一撃で終わらせる自信があったのに……っ!
剣を退いてパパが素早く体勢を整えると、こちらに剣を振ってくる。
これを待っていた。あとはスローで見えるそれを避けて、カウンターで終わらせ……
「って、速っ!」
なんとか剣での受けを間に合わせる。
全然スローで見えないんですけど!?
なんで、とは思わない。理由は単純にして明解、パパの剣速が速いからだ。
これが本気のパパか。っていうか娘を入学させないために本気ってほんとクズだなー。
受けた剣をそのまま押し返そうとすると、もう一度パパが退いた。
「純粋な力比べじゃもう勝てそうにないな。さすが怪力、末恐ろしい」
「可愛い娘を捕まえて怪力怪力言うなし」
「事実だから仕方ない! だがな、力や速度だけが勝敗を決める絶対条件ではないと、このドラゴンスレイヤーが教えてやるぜ!」
「どこの赤い彗星だ!」
軽く剣を打ちあうが、それがジャブであることは分かる。ジャブであっても、カウンターをとれる隙が無いのだからたいしたものだ。
様子を伺っているのか……ジャブに付き合う気はないけど、力を籠めた剣は簡単に避けられてしまう。
そうだ、ポイントはここじゃない。相手に攻撃を当てるには、不意を衝くのが一番。ママに教わったことだ。この打ちあいはそのための布石。
「どうやら、おまえは無意識に力を抑えているらしいな」
「え?」
剣を打ちあう間にパパが話を振ってきた。
私が力を抑えている? そんなつもりはないけど。
「そうかな?」
「ああ。出力を上げればもっと速く、強く剣を振れるはずだ。それに、そもそもレイアの怪力は技術が必要な剣と相性が悪い。てきとうに殴るのが一番効率のいい運用だ。にもかかわらず、剣を使って戦ってるのは、パワーを出し過ぎないようセーブするためだと俺は思う」
「うーん」
言われてみればそうかもしれない、と思う節がないでもない。
剣をわざわざ持ち出して戦うのは、そこに剣があるからだ。
たとえば試合をしようと言われたときに、そこにサッカーボールがあればPK戦をするし、アーケードがあればレバーを握る。サッカー選手に試合をしろと言われて殴りかかるやつの方が少ないだろう。
なんとなくその場にはルールが存在していて、私はそのルールに従っている。パパやクソガキが剣を使う相手だから、私は剣で相手をしているのだ。
けどもしそこにルールがなくて、なにをしてでもいいからパパを倒せと言われたら……私はたぶん。
「剣を捨てる、か」
観客がどよめく。そのどよめきを代表するように、司会のクラウンさんが叫んだ。
「おーっと、ここでレイアが剣を捨てたーっ!! 実力は五分のように見えたが、戦意喪失かー!?」
「それだけはないっての」
この村から出ていくため、諦めるなんて選択肢は絶対なしだ。
私は剣を地面に突き立てて、ボクサーのように拳を構える。
「じゃ、ちょーっと本気出しちゃおうかな!」
「応! そう来なくっちゃな」
互いに笑みを作り、そして覚悟を決める。
これが最後の一撃だと直感した。
パパが剣を腰に添え、居合の構えを作る。
その間合いに、迷わず私は踏み込んだ。どんな一撃が来ようと知ったことか。私が持つ〈頑丈な体〉は伊達じゃないと教えてやる!
「いくぞ、レイア!」
そして、パパが剣を振り抜く。
下からの切り上げ。今までで一番迅い。踏み込んだこの体勢では避けられないだろう。
けど──そんなもの、避ける必要もない!
瞬間、バキィっと音が鳴った。
「なっ、硬すぎだろ!!」
パパの目が驚愕に見開かれる。
木剣は私の腕に当たり、その剣身が折れた。これで剣士のパパにもう手はない。
あとは私が一撃を入れるだけだ。
拳を握りしめる。最初はグー……じゃんけん……
「ま、まま待って、これは知ってる! だからレイア待ってくれ! まいった! まいったぁ!」
グー!
「かはっ! お、おろろろろろろろろろろろろろろ!!」
「えー、娘さんに学校に行ってほしくないからと決戦をしたあげく、一週間ガチ修行しても娘さんに勝てず、挙句の果てに娘さんに殴られてゲロってしまった、ドラゴンスレイヤーのロキさん! 今の心境をお教えください」
「レイアを学校にはやらん……それより親子揃ってドラゴンスレイヤーだぞぉ……あはははは」
「あ、あまりのショックにメンタルブレイクしています……それでは見事勝利を収めたレイアさん! 今の心境をどうぞ!」
「こんな村さっさと出ていきますが、その前にさっきぬかしたことを言っていたクソジジイどもを皆殺しにします」
「ありがとうございます! 本日の司会は私、クラウン・マイヤーがお届けしました! それでは皆さん良い一日を!」
クラウンさんが締めくくり、ようやくギャラリーが帰っていく。
なんだったんだこれは。
私も帰るか。ああ、パパどうしよう。メンタルブレイクしてるしな。でも私が声をかけるとかえって刺激しそうな気がする。
「レイアおめでとう。すごい試合だった。剣とか全然見えなかったけど、ちょっと感動した」
そういいながら、観客席からユラが駆けてくる。ユラにしてはめずらしくテンションが高いのか、今にも抱き着きそうな勢いだけど……。
「ストップ、ユラ! 私ゲロで汚れてるから!」
「あ、うん。そうだね」
近づいてきたユラが止まって一歩下がる。いや、たしかに汚いけどそんな避けないでも……。
「でもね、本当にすごかった。演武みたいだったけど、なんていうか、真剣さ? 見たいのが伝わってきた」
「うん。実際パパも頑張ってたよ」
いつもより強いなーとは思った。
けど結局のところ、パパじゃ私には勝てなかった。それはもちろんパパが弱いからでも、私が強いからでもない。私が桁外れに頑丈であること、そのチートを超えられなければ、私に負けはない。
「でもロキは負けちゃったのね。あれ、間違いなく本気だったわよ?」
そう捕捉しながら、ママが合流する。
「ママ、このバカなイベントのこと知ってたでしょ? どうして教えてくれなかったの!! っていうか止めてくれなかったの!?」
「当然知っているものだと思っていたもの。というか村で今日の試合について知らなかったのはあなたとロキくらいよ? 止めなかったのは、これだけ証人がいればさすがにロキが言い訳できないと思ったから」
「あー、うん。そうだね。その通り。私の羞恥心以外は問題ないね……」
「気の毒だったわね」
と言いつつママが笑っている。ぜーったい面白がって教えてくれなかったし止めてくれなかったでしょ。
「気の毒って言えば、あそこに一番気の毒な人がいるんだけど」
パパの方を指さす。そこには膝をついてうわごとを繰り返す、メンタルブレイクした人の姿が……。
「私体を洗いたいから、パパの処理お願いしてもいい?」
「仕方ないわね」
ママがぽんと私の頭をなでてパパの方に向かう。ご苦労様ってところだろうか。
本当に思わぬ苦労があった。しかしそれもこれもすべては学校のため。ようやく安心して喜べる。
「ユラ、これで一緒に学校に行けるね!」
「う、うん。そう、だね」
と、さっきまで喜んでたユラの声が沈む。
うん?
「どうかした?」
「えっと。その、このタイミングでちょっと言い難いんだけどね」
そう前置いて、友人の悪事を先生に密告するかのように、細い声で言ってくる。
「私が通いたい王都の学校……セントラル学校に通うには、受験して合格する必要があるんだよ」
「受験……?」
「うん。勉強と実技の試験。それに合格しないと学校には入れないから……その……まだ入学できると決まったわけでは……」
……やっべ、受験のことすっかり忘れてた。
「ちなみに受験はいつあるんだっけ?」
「翌々月」
おほー^^。




