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クソ村6

 パパとの決戦に向けて、私は私で実戦を積んだ。


 山にいるモンスターを狩ったり、村でも腕の立つ男衆をぶち倒したりして、戦闘に主眼を置いたトレーニングを行う。といっても、どの攻撃もスローで見えるので、躱してカウンターの一撃で終わっちゃうんだけど。


 まあそれでも、私なりにいろいろやってみる。パパに負けるわけにはいかないからね。


 そんな日々を過ごして、気づけば一週間が経っていた。


 結局この一週間パパの顔は見ていない。本人の言を信じるのであれば、山に籠って修行しているとか。


 死んでいればそれも良し。しかし死んでいなければ、今日山から出てくるのは鬼か、修羅か……。


「って、死んでいたら全然良くないじゃん!」


 セルフツッコミしちまったじゃねえか! 山に入っている時点でフリでしょそんなもん!


 しかし、陽が沈み始めてなにやら村が騒がしい。まるで祭りでもあるかのような雰囲気で、村の人間が広間のあたりでうろうろし始める。けれど中央には出入りできないよう、杭にロープがかけられているので、それがより広間を煩雑にしていた。


 中央を開けるこの陣は村で踊りをするときのもの。掲示板にはそんな張り出しなかったはずだけど、行事かなにかあったかな?


「レイア。会場を見に来たの? 今日は頑張ってね」


 広場にいたのか、ユラが私を見つけてこちらに駆けてくる。


 会場? 頑張る? いったいユラはなにを言ってるんだ?


「頑張るって、なんのこと?」


「なにそれ、余裕じゃん。でも油断しちゃダメだよ。相手はあのロキさんなんだから。って、そんなの私よりレイアの方が分かってるか」


「相手はロキさんって……」


「うん。ものすごく強いだろうけど、ロキさんに勝って一緒に学校に行こう。レイアなら勝てる」


「う、うん。その予定なんだけど……」


 なんでユラがその決戦を知ってるの!? 親と入学をかけて試合とか、クォーター家の恥すぎて誰にも言ってないはずなのに!!


 っていうか、ちょっと待って。


「ねえ、さっきの、会場って? それにこの人だかりってもしかして……」

 

「なにボケてるのさ。ロキさんとレイアの入学を賭けた決戦会場のこと。まさかこんなに人が集まるなんて思わなかったけどね」


 なんだそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


 なんで家庭の事情が村のイベントになってんの!? この村暇なの!? バカなの!?


「悪ふざけもここまでくると笑えてくるわねぇ……? ねえ、ユラ。誰がこんなことを仕込んだのかなぁ?」


「なんでだろう、笑顔なのにレイアからすごい殺気を感じる……」


「知ってる、ユラ? 知らなければ情報源を辿って必ず見つけ出してやるんだけど?」


「えーっと、私はキールから聞いたよ。ロキさんとレイアが広場で戦うって」


「クソガキぃぃぃぃぃ!!」


 なるほど考えたなぁ。日ごろ私にされている恨みをこんな形で晴らしてくるなんて。


 いいだろう。まずはおまえから処刑してやる。


「ユラ、ごめん。ちょっと用事ができたから行くね?」


「う、うん。ほどほどにね……?」


「善処はする」


 ユラに断ってその場を後にする……のではなく、会場に入っていく。


 決戦を言いふらすくらいなんだから、本人がこの場にいないはずがないだろう。


 こんなちっぽけな村でガキ一匹捕まえるのに苦労はしない。友達らしき男のガキどもと喋っているクソガキを見つけると、そいつの耳を掴み上げる。


「痛ててててて!! なにすんだよレイア!! っつうか本番前になにしてんだよ!!」


「その本番とやらについて少し聞きたくてねぇ」


 耳を引きずって広場から離れ、人の少ない場所まで連行して耳を解放する。


「痛てぇよ! なんなんだよ急に!」


「おまえか? 私とパパの決戦を村中に広めたの、おまえか?」


「ひぇ……なんだよ、悪ぃかよ」


「悪い。死ね」


 げしっとクソガキの膝の皿に蹴りを入れる。


「っ~~~!! なんだよ!! ロキさんに言われたんだからいいだろ!!」


「パパが? なんであんたに言うの?」


「ロキさん、修行で山に籠ってるだろ。その間芋畑の世話は誰がするんだよ」


「……ああ、アンタに頼むとか言ってたっけ」


「だから事情は聞いてて、「後は任せた」って託されたんだ。おまえとロキさんの決戦の準備をな!」


「任せたのは畑の世話だけじゃないの?」


「そんなはずないだろ。村の最強二人の決戦、こんな面白そうな試合を村の皆で見なきゃ損だぜ!」


「完全に見世物だと思ってるだろおめー」


 私の持てる能力の全てを駆使して、クソガキの膝の皿を一秒間に五回蹴る。


「ぎゃああああああああ!! 膝の皿が割れたああああああああ!!」


 




 クソガキを処理して広場でユラと話をしていると、なんとなく周りがざわめいたのが分かった。


 来たか。


 陽の沈みかけ。群青色の空と雲を、橙色の夕日がどこまでも焼き尽くす。


 ロキ・クォーターが広間に現れた。


 服どころか皮膚のあちこちが擦り破れ、髭と髪は伸びて放ったまま、体つきは細くなっている。見た目だけで言えば一週間前よりむしろ劣っているが……


 澄んだ目と静かな闘志。まとう覇気(オーラ)がまるで異なる。研ぎ澄まされた、剥き出しの刃のようなそれは、近づけば切れてしまいそうなほど危うく、力強い。


 パパじゃないみたいだ。いや、少なくとも私の知っているパパじゃない。


 厄介なことに、どうやら修羅が出たみたいだ。


「久しぶりだな、レイア! 見た感じ、ちったぁ強くなったんじゃないか?」


「パパはなんかヤバい人になっちゃったね」


「それは褒めてるんだよな……?」


 褒めてる褒めてる。


「っていうか、この人だかりはなんだ? なんか、俺の知らないところで話が大きくなってるようなんだが」


「クソガキが気を利かせたって言ってたよ」


「クソガキ? ああ、キールか。ま、集めちまったもんはしょうがない。俺たちはこの観客に恥じないように戦うとしよう」


 おお、パパがめずらしくまともなことを言ってる。でもこの決戦はパパがまともじゃないからやることになったんだよね……。


「揃いましたか、御両人! それでは僭越ながら本日の司会は、私、クラウン・マイヤーがお届けします!」


 と、マイクを持った女の人が声たかだかに叫ぶ。


 な、なんだ? なにが始まるんだってばよ……。


「今宵の決戦はぁ、村の最強二人がぶつかる頂上決戦!! そして親子対決!! ドラゴンスレイヤー、ロキ・クォーターVS怪力少女、レイア・クォーター!! レイアが勝てば村最強の座を欲しいままにするとともに、この村を出て王都の学校に行くことが決定します!!」


 怪力少女て。そして今更だけど、プライベートとかあったもんじゃねえなこの村。


「一方で、もしロキさんが勝てばレイアの学校入学は阻止!! レイアは永久に村で暮らすことになるでしょう!!」


 どこの村の風習だよ、嫌すぎるでしょ。


「親を倒さないと入学させないとは、なんという大人気ない条件でしょうか!! あまりの低劣さに村の大多数がレイアの応援をしていることでしょう!! しかし一方で、我が村の美少女枠でもあるレイアには村を離れてほしくないジジイ共も多い様子!! 聞いてください、この声援を!!」


「ロキぃ!! やれぇ!! あの怪力娘をやっちまえ!! 村から逃がすなぁ!!」


「そうだぁ!! こんななにもねえ村の貴重な目の保養を逃がすなぁ!!」


「レイア!! 俺との決着がまだついてねえだろ!! 勝手に村から逃げるんじゃねえ!!」


 どんだけ村から逃がしたくないんだよ。


「一部の男子からも熱烈な声援があるようですね!! 盛り上がってきたところで、両名の意気込みを聞いてみましょう!!」


「絶対にレイアを村からは出さない」


「こんなキモイ村からは絶対に出ていきます」


「はい!! 私も今すごく村から出たい気持ちでいっぱいです!! それでは……ロキVSレイア戦、行ってみましょおおぉぉぉぉぉ!」


 実況の相まって、どっと観客が湧いた。


 陽が沈んで空が群青から深い紺に染まる。


 私とパパはどちらからともなく、木剣を取り出していた。


 試合開始だ。



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