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END     AND・・・?

 ふうっと一息ついて、ぐっと背を伸ばす。


 ようやく書き終えた便箋を封筒に詰めて、のりで封をする。あまり手紙というのは書きなれない。この世界にもLINEがあれば楽なのに、と何度思ったことか。


 入学してからお嬢様との出会い、学生騎士王杯で起きたことをまとめて、後は仕事がたいへんだとか他にも友達ができたとかを書いていたら、だいぶ時間がかかってしまった。


 学生騎士王杯のときの新聞を引っ張り出す。一面には恥ずかしそうにトロフィーを持つお嬢様(他に二年と三年の学生騎士王も映っている)の写真と、折れた宝剣の写真が載っている。


 正直これについては話したくない。村から出るときにママに何と言われたかは記憶に新しいからだ。


『王都では壁を壊したり人を殴ったりしないこと。あなたのパンチは破壊力が高すぎるんだから、気をつけなさい』


 人も殴ったし、宝剣も壊した。


 いやぁ~、まあ、その。だって仕方ないんだよ。


 イケメン先輩を殴ったのは先輩が戦いたいと言いだしたからだ。


 宝剣を壊したのは、あの状態でお嬢様を殴ったらほんとに殺しかねなかったから、機転を利かせたまで。

 

 私にやれることはやった。後悔はしてない。ただし反省はしている。手紙にその旨も書いたけど、はたしてどんな返信がくることやら。


 壁時計を見ると、出る時間までもう少しある。紅茶でも飲むか、とキッチンに向かうと、コンコンと扉が音を立てて開く。


「レイア、今日は外出ですか? 暇でしたら稽古に付き合ってください」


 ランニングを終えて、しっとり汗をかいたお嬢様のご帰還だ。コップに水を入れて渡すと、ありがとうと言ってそれを飲み干す。


「せっかくの祝日に稽古なんて、精が出るっていうか、もはや修行オタ?」


「おた……? またあなたの部族特有のスラングですか?」


熱狂者(マニア)ってこと。オーバーワークなんじゃ?」


「たしかに祝日ですが、普段は学校で鍛錬をしているんですから。トレーニング量を越えなければ問題ありません」


「もはや趣味の領域だね」


 私だって村にいた頃はトレーニングに明け暮れていたけれど、それは暇つぶしであって、王都で暇を潰す方法ならいくらでもある。


 その中からわざわざ疲れる運動を選択するなんて、もはや肉体改造マニアとしか思えない。


「っていうか、なんで私がお嬢様の稽古に付き合うのさ」


 そんなこと言われたこともない。


 普通科の私を持ち出していきなり何をさせる気だ。まさかルームメイトだからと言って私の体まで肉体改造する気じゃないだろうな。


 私が身構えると、お嬢様が困ったように腰に手をあてて、きっぱりと言い切る。


「あなたしか私が全力で戦える相手が身近にいないんですよ」


「ああ、なるほど」


 入学前から「十五歳の女子にして、剣位二冠を拝命した剣才」と名高かったお嬢様が、ここのところそれに輪をかけて有名になった。


 そのきっかけは学生騎士王杯だ。ただし、有名になったのはお嬢様が学生騎士王になったからではない。


「さすが、巷で話題の王国最強だねぇ」


 私がママに送ろうとしている新聞記事にも、お嬢様が「次代の王国十二騎士候補筆頭」などと書かれている。


「茶化さないでください。あなたに言われると腹が立ちます」


 お嬢様がむっとして腕を組むと、ジトっとこちらを睨んでくる。


「だいたい、王国最強というなら貴方こそその筆頭じゃないですか」


「そんなこと、新聞のどこにも書いてませーん」


「それはお父様の計らいで面倒ごとを避けたのでしょう? というか、私が最強だというなら、私に勝ってるあなたがそうでないはずがありません」


 まあそうなんですが。


 シルバさんには世話になった。学生騎士王杯の後で私宛にいくつも取材があったのを、一手に引き受けてくれた。


 その場だけ逃げれても、スタジアムに立ったときに制服を着ていた以上、取材は学校にまで来る。あの場で後顧の憂いを経ってもらえたのはありがたい。


「なにか安心しているようですが、あなたの顔と実力は知れているんです。いつまでも隠れていることはできませんよ?」


「隠れる気なんてないけどさ。特別目立ちたくはないんだよね」


「レイアの場合目立たないことの方が難しいでしょう」


「うーん。塩梅の問題なんだけどね。やりたいことのやりたい度合いと、目立ちたくない度合いを天秤にかけて、どっちが勝つかなんだよ。まあでも、あんまりやりたいことを我慢したくはないかなぁ」


「あなたの言ってることも、スタンスも分からなくはありませんが。身の振り方は決めておいた方が便利ですよ」


「どこにでもいる普通の美少女でいいのでは?」


「あなたみたいのがどこにでもいたら、今頃モンスターは根絶してるでしょうね」


 お嬢様が身体を拭いて、木剣を取り出すと、お嬢様が聞いてくる。


「それで、この後の予定は?」


「ごめん、ユラと約束してる。また今度付き合うよ。平日でもシフト調整すればお嬢様に付き合えるし」


「ありがとうございます。……あの、それと。前から気になっていたのですが、」


「ん?」


「その『お嬢様』って呼び方、どうにかなりませんか? 使用人じゃないんですから、もっと呼び方があるでしょう!」


「あー」


 まあ、たしかに。


 べつに茶化してるわけじゃない。ただ、最初に会ったときの印象が『お嬢様』だったし、特にこれまで指摘されなかったから、そのまま来てしまっただけだ。


「というか、今更すぎでは?」


「付き合いが長くなると、気になるものなんです!」


「ああ、彼氏からずっと苗字呼びされるみたいな?」


「し、知りませんよそんなこと……お付き合いした経験なんてないんですから……。って、そういうレイアは経験があるんですか?」


「いや、ないケド」


「あなたって時々すごくてきとうに話しますよね」


 お嬢様から白い目で見られた。いやほら、ゲームとか小説ではそういう経験あるから。


「じゃ、なんて呼べばいい? モンテール嬢? 王国騎士候補筆頭殿?」


「最初のはともかく、最後のはバカにしてるじゃないですか」


 お嬢様がはあっと息を吐いて、それから恥ずかしそうに頬を掻く。


「私たちはルームメイトで、友なんですから。『アルセーヌ』でいいでしょう?」


「分かったよ。アルセーヌ、これからもよろしく」


「ええ。よろしくお願いします」


 「それじゃあ、稽古がありますから」とアルセーヌが部屋を出ていく。


 時計を見ると、ちょうど良い時間だ。紅茶を淹れてる時間はない。鞄に財布と手紙、新聞を詰めて身だしなみを整えると、私も部屋を後にする。


 待ち合わせの寮のエントランスに着くと、既にユラが待っていた。


「お待たせー。待たせた?」


「私も今来たところ。先にギルドでいい?」


「オッケー」


 グッといいねマークで応えると、二人で今週あったことを取り留めもなく語りながら歩きだす。


 課題のここが難しかっただとか。仕事中でホルム先輩にしごかれたとか。最近図書館にイケメン先輩が来なくなっただとか。学生騎士王杯以降、セラスを中心とした"同士の会"が私の話題で盛り上がってるだとか。


 異世界転生したからといって、奴隷ハーレムを作ることもなければ、婚約破棄されたので"ざまぁ"することもない。


 どこにでもある普通の人生だ。時には必要以上に目立つこともあるけれど、それも笑って楽しめれば問題ない。


 入学からひと月。かくして、レイア・クォーターの順風満帆な人生の第一章は幕を閉じるといったところか。


「なに遠い目しちゃって、感傷に浸ってるような顔してるのさ」


「いやー、私の普通な生活が軌道に乗り始めたなと思いまして」

 

「またそれ? あんたのどこが普通なわけ? 陰で王国最強とか言われてる自覚無いの? バカなの? バカか」


「聞いておいて自分で納得しないでもらってもいいですか?」


 そしてそろそろバカキャラ扱いを止めて頂きたい。


 と、目の前に外套を着た男が現れる。


 多少涼しくなってきたとはいえ、長い丈で腕から腰まで覆うそれはかなり暑苦しそうに見える。まるで「目立ちたくないです」と言って服を着ているようだが、その季節感の合わない恰好がいっそう目立っていた。


 まあ、その格好はまだいいとして、問題なのは、その男がこちらを向いているということだ。


 つまるところ、そのいかにも怪しげな男は私たちの進行を妨げるように、そこに立っている。


「なんすかねー? お兄さん、ナンパですかぁ? 私たちに声かけるなら、もう少し釣り合う格好をしてほしいんですケド?」


「……ユラ・エステート様ですね?」


 私のことをガン無視してユラに声をかける。


 名前を聞いてはいるが、ほとんど確信しているようだ。


 もちろん、知らないおじさんに声をかけられて返事をするユラではない。


「ユラ様……」


 そう呟くと、目の前の男が突然泣き始めた。


 ガチ泣きしてて草。


 いや、草を生やしている場合じゃない。さすがに周りも異変を感じたのか、視線が集まり始める。


 ユラの腕を掴んで、小声で「行こう」と言うと、ユラも頷く。


 「ユラ様」、ね。名前を知っているあたり、なにやら訳アリなのかもしれないが、無視だ無視。


 私たちが行くのをあの不審者は止める気がないらしく、ただ一言だけ、後ろから言ってきた。


「ユラ姫様! いずれお迎えに伺います! 我等が祖国、"マルク"再興のために!」


 ──言い訳させてほしい。極めて切実に、私は普通に生きたいだけなのだ。


 しかし状況がそれを許さないこともある。


 クソ村でのパパとの決戦がそうであったように。学生騎士王杯でのイケメン先輩やアルセーヌとの試合がそうであったように。


 仕方がない場合(・・・・・・・)は存在するのだと私は知っている。


 まあ、そういうときもあるさ。人生なんだから。


 でもそういうシチュエーションにはその場の楽しみ方がある。夢の国に訪れたなら、ジェットコースターに乗るのが普通であるように。その瞬間を楽しむ、というのが私のモットーだ。


 だから頼む、誰かこの場合の楽しみ方をおまえら教えてくれ。


 幼馴染が亡国の姫君だった件について。


 レイア・クォーターの人生、第二章の開幕だ。


ご愛読いただきありがとうございました。


約一か月の連載にて完結させることができました。こんな終わりですが、続編は未定です。モウシワケナイ・・・。


「転生少女(最強)」への思いと今後の活動については、活動報告に記載します。それでは、またどこかでお会いしましょうノ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです [一言] 遅くなりました!!! 待ってました!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
[良い点] ちょっとおバカ(諸説あり)な主人公が思うがままに行動していて楽しかったです。 [一言] 転生して最強になって自由に生きると標榜してるのに、縛り縛られしまくってる作品があったりしますが、 …
[一言] こんなに早くあっさりと終わってしまって残念でもあり、無駄に長引いてマンネリ化するよりはいいのかなとも思ったり。 なんにせよ、楽しく読ませていただいきました。 完走お疲れ様です。
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