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VS最強2

「使え、ジーク。ただしレディに傷をつけることは許さん」


「さて、傷つけようとしてもできるかどうかは分かりませんがね」


 イケメン先輩がシルバさんから剣を受け取り、鞘から引き抜く。


 銀に輝くそれは、一振りで鋼さえ軽々切裂くように鋭く研ぎ澄まされている。


 さすがに言ったよね。


「いやいやいや、おかしいでしょ。さすがに死ぬよそれは。イケメン先輩それはおかしい」


「仕方ないだろう。こうでもしないと対等に戦えないんだ」


 対等じゃないじゃん。私だけ命がけじゃん。


 そう言いたいのに、もう言っても聞いてくれる雰囲気じゃなくなっていた。


 しょうがない、と拳を構える。


 確かにイケメン先輩は強い。今まで戦った相手の中じゃあ断トツだ。同じ王国十二騎士でも、シュゲーマンさんとはレベルが違うし、真剣勝負したパパよりも速く鋭い攻撃をしてくる。


 それでもまあ、なんとかなっている。


 正直、私にとっては未知の領域だけど、どこまでやれるか。


 戦えているからといって、油断はできない。もし自分と相手の力を見誤ったなら、死ぬのは私の方だしね。


 イケメン先輩が剣を振るのに合わせて、私もまた慎重にそれを受け流していく。


 狙うのはカウンターだ。大技を出した後の不意を突く。


 その前段階、この探り合いの剣戟から、勝負を急がせる必要がある。これはその牽制技。


 高速で剣と拳を合わせる中、私はさらに一歩前に出て、拳と剣のリーチの差を活かす。


 剣を振るう感覚は私にも分かる。剣身は広いように見えて、力の伝わり方はまばらだ。柄の付近で戦うなら剣を立てるし、剣先で戦うなら刺突技を使うように、その位置によって剣の扱いは変わってくる。その落差を試す。


 さらに一歩前に出ると、イケメン先輩がたまらず退いた。いわゆる剣の間合いを保つためだろうけど……後退するその一瞬が隙になる!!


 後退に合わせて、私は強く地面を蹴った。


 一瞬の加速。存在した間合いを埋め、イケメン先輩とガチ恋距離まで近づいて、天使のキッス……ではなくキックをサービスする。


 当てたのは左肩。隙をつけた形で悪くない感触だけど、一撃で終わるとは思っていない。実際、イケメン先輩は吹っ飛ばされたが、ちゃんと受け身を取って来る。


 もちろん追撃だ。吹っ飛ばされている間にその背後に回って、背中への一撃を狙う。


「よく調子に乗る……っ!!」

 

 が、吹っ飛ばされながらイケメン先輩もよく見てる。私の蹴りに剣身を合わせてそれを受け、今度こそ間合いをとって距離を開けた。


 これ、私の加速で間合いを詰めて、近距離戦に持ち込めればイーズィーウィンなのでは?


 思いついたら即実行! もう一度距離を詰めるため、地面を蹴るが……


「調子に乗ると言っている!!」


 先輩が見せる、今日一番迅い剣を紙一重で躱す。


 さすがに底は見せていないか。


 今のが全力であれば、あれを躱して間合いを詰められそうだけど。あれ以上に迅い一閃があるのであれば、次に躱せるかどうかは怪しい。


 剣の基本、間合いへ入った敵を一刀両断する一太刀。


 その剣の間合いを掻い潜るのは不利な行動だ。イケメン先輩レベルになると、いくら私でも隙を突かずに踏み込むのは難しい。


 ま、今のは牽制みたいなものだ。このまま剣との打ち合いで探り合いを続けると、痛い目をみるぞと言ったようなもの。こちらに攻め手があると知った以上、まだ様子伺いをする先輩ではないだろう。


 それでも受け身に回るようであれば、しょうがない。パワーでなんとかするっきゃないな。


 さあ、どう来る? と観察していると、先輩が震えた。


「ふっ、フハハハハハ、アーーーッハッハッハッハ!! ウファ、ククククッ!!」


 奇声みたいな声を上げて笑いだした。


 え、なに? 怖いんだけど。


「想像以上だな、レイア・クォーター!! おまえは間違いなく王国最強と肩を並べる!! おまえはいったい何者だ!!」


「普通の女子だけど……」


「ハッ! 笑わせるな! その力、魔王か邪神か。最強に足りえる力を持って、どの口が普通と言える!!」


「私の口だよ。レイア・クォーターは怪力のおまけかっつうの。怪力を持ってようと私は私で、どこにでもいる普通の女子だ」


 これだから拗らせたガキは嫌なのだ。


 金髪の女は全員ギャルで、黒髪眼鏡の女は全員清楚だと勘違いしてる。


 体格がデカかったらバスケかバレーをしなきゃいけないのか? 足が速かったら陸上選手にならなきゃいけないのか?


 どう生きるかは私の勝手だ。いちいちそんな当たり前のことに文句を言わないでもらいたい。


「来なよ。女子相手に受け身なんて、王国十二騎士以前に男として恥ずかしいんじゃない?」


「つくづく、調子に乗っている!!」


 イケメン先輩が剣を構え、そして今日初めて距離を詰めてくる。


 狙うのはカウンター。私は先輩の攻撃を待つ。


 先輩は剣の間合いに入ると同時に、下段からの切り払いを放ってくる。それがスローに見えた。


 遅くない? と思って観ると、その一撃は右手で放たれている。さっきの蹴りで左肩を負傷しているのかな?


 なら遠慮なく殴らせてもらおうと、私も踏み込む。遅い切り払いを右手で弾いて、左手でそのボディに一撃。


 これで終わりだ。そう確信した瞬間、私の拳は空を振っていた。


「え?」


 思わず茫然としてしまう。捉えたはずのイケメン先輩の体が、いつのまにか半歩後ろにあったからだ。


 そして「しまった」と思いだす。


 踏み込んでからのバックステップ、〈牙流一閃〉で見せた動体制御か!


 試合前まで憶えていたはずなのに、カウンターに気を取られて意識から外れていた。


 いや、しかしお嬢様のときとはまるで状況が違う。剣を振り抜いて返す剣で連撃をする〈牙流一閃〉だけれど、今私は剣を弾いたし、踏み込むことで間合いも変わっている。


 ここから連撃には繋がらない。そんな私の思考を、目の前の天才は上回ってくる。


「剣に頼るわけではない!」


 イケメン先輩が言うと、予想外の一撃が私の胸を貫いた。


 左の、拳?


 そうか、イケメン先輩が切り払いで左を使わなかったのは、左腕にダメージがあったからじゃない。剣の代わりに、この拳で代用するためか……っ!!


「王国体術〈崩拳〉。相手の強度を無視してダメージを与える、いわゆる鎧通しに当たる技だ。これで無傷とはいかないだろ」

 

 たしかに、痛い。


 痛いけど、それだけだ。


 これじゃあ私は倒れない。


 鎧通しかなにか知らないけど、イケメン先輩のすごいところは「腕っぷしの強さ」ではなく「剣の技術」だ。


 剣を捨てて奇襲できる多彩さは認める。


 しかし、そんなものは小手先だ。意表を突くあまり攻撃を妥協したに過ぎない。


 私は怪力だけど、同時に頑丈でもある。本当に私を倒したいなら、私の隙に一番の火力をぶつけるべきだったよ、先輩。


「鎧通しだかなんだか知らないけど、殴り方っていうのをレッスンしてあげる」


 殴るっていうのは、こうやるんだ!


 と、私の拳がついにイケメン先輩の腹をとらえた。


 それが突き刺さって、先輩の体がびくんと跳ねる。


 あ、ヤバっ……。


 とっさに私は蹴りを放ち、先輩を吹き飛ばした。私が腹パンしたあとにどうなるか、よく知っているからだ。


「クソっ、なぜ……!」


 イケメン先輩が生まれたての子鹿みたいに足を震わせながら、なんとか立つ。


 が、その瞬間は我慢できなかったのだろう。口を手でおさえるけれど、決壊した堰から流れ出る水を抑えることはできない。


「かはっ! お、おろろろろろろろろろろろろろろ!!」


 イケメン先輩が、イケメンでないものを口から吐き出して、この戦いの決着がついた。


 先輩が崩れ落ちて、口から出た先輩の上に横たわる。たぶん死んではいないだろうけど……臭いがアレで近づきたくはないかな……。


 まあ、用事は済んだしいいか。


 私はシルバさんの方を向いて、頭を下げて言う。


「すみませんっした! 用事が終わったので私帰りますねっ!」


「観衆の前でこれだけのことをして、簡単には帰れないだろう。控室で待っていたまえ。後のことについて少し話しがしたい。ひとまずこの場は私がなんとかしよう」


「いやー、ありがとうございます?」


 ダラダラと冷や汗を流しながらもう一度頭を下げる。


 いろいろやった自覚がないわけじゃない。とにかく今は退散しよう。


「レイア、待ってください」


 と、したところで、呼び止められた。


 今の今まで存在を忘れていたわけじゃないけど、声をかけるタイミングがなかった。


「なにかな? お嬢様」


 振り返ると、お嬢様が剣を持っている。木剣ではなく、さっきまでイケメン先輩が使っていたシルバさんの剣だ。


 なにか嫌な予感がする。その予感に従ってシルバさんの方を見ると、困ったように首を横に振っていた。


 まあ、あの負けず嫌いのお嬢様だから、こうなるストーリーが分からないでもないけどさ。それが真剣だってことは分かってほしい。私だけ命がけなんだから、腹パンくらいは許してよね。


 私も覚悟を決めると、お嬢様が鋭くこちらを見て、予想通りの言葉を言ってくる。


「私と勝負してください」


「いいよ。やろうか」


 私だって負けず嫌いの民だ。テニスの借りは返させてもらうよ。


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