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VS最強1

「レイア・クォーター。この場でオレと勝負しろ」


 いや、なんでやねーん。


 そんなことをこの前も思った。なんだっけ。ええっと、たしかあの時の会話は……


『いいね、しました!』


 そうそう。いいねしたのは憶えてる。もうちょっと前だ。


『それで、もう一つの仕事っていうのは?』


『エキシビションマッチでおまえもオレと戦え』


『いや意味分かんないでしょ』


 これだ。


 マジかこいつぅ。


 あのときは冗談で言ってるのかと思っていたけど、まさかこんな大舞台で、こんな状況で言いやがるとは思わなかった。


 頭おかしいよぅあの人。誰かタシケテ……そんな期待をこめてユラ先生を見ると、はぁっと息を吐かれた。


「レイア、今度はなにやったの?」


「なにもしてませんが?」


 なぜ私に非があること前提なのか。


「レイアに悪気がなくても、王国十二騎士にあんなこと言われて、無視するわけにもいかないんじゃない?」


 それはそう。既に選択の余地がないような気がしてならない。


「どうやら彼の言うレイア・クォーターとはきみのことを指しているようだが、無視するのだな。予定にないスタジアムへの登場は、処罰の対象だ」


 そう思っていると、右隣りから救いの手が差し伸べられる。我らがパッパ、シルバさんだ。


 「言っちゃって~! じゃんじゃん言っちゃって~!」という心の中の私のコールに、シルバさんはきっぱりと答えてみせた。


「それに、あのスタジアムに立てるのは実力のある者だけだ。仮にきみがあの場で戦うとしても、恥をかくことになる」


「………………なるほど?」


 とりあえず頷いた。


 いや、頷いてねえな。普通に首をかしげてたわ。それに対してシルバさんも首をかしげる。


「何かおかしなことを言ったかな?」


「その、まあ」


 ゆらりと立ち上がる。


 まあまあまあ、まあまあまあまあ、そのだね。


 さっきからひとつ、気になってることがあるんですよ。


「シルバさん、あなた私をお嬢様より弱いと思ってるでしょう? そして当然、スターレーン先輩なんかには適わないと思ってるわけだ」


「先程も言ったはずだが、比較できるものではない。きみは武人という立場にいないからだ」


「立場なんて──っ!!」


 そして私は、一歩踏み出した。


 そこには茫然とこちらを見るお嬢様がいる。


 黒いスーツの男がぽかんと口を開けて、周りには無数の観客がいる。


 その中の一粒にシャールさんが、セラスが、ユラが、そしてシルバさんがいて、誰もが私を見ている。


 ほら、距離なんてこんなもの。さっきまで見ていたはずのスタジアムにたった一歩で私は立っている。


 一人だけ、不敵な笑いを浮かべたままのイケメン先輩に、私は聞く。


「私って努力もせず、苦労もせず、本気でもない、普通の女子です。ただ……先輩よりは強いので、ここに立っても問題ないですよね?」


「ああ、なにも問題ない」


 十分すぎる回答だ。


 武人のくせに、立場や過程を気にするなんておかしいじゃないか。私はそう思う。きっと頭の構造がシンプルなせいだ。


 そういうところが、イケメン先輩と波長が合うのだろう。


 けれど世の中は複雑だ。そう簡単にはいかないようにルールというのがある。


「悪いがレイアくん、きみがその場にいるのは認められない。退いてくれないか。でなければ退去してもらうことになる」


 スタジアムの周りに配置された円柱、その一柱にシルバさんが立っている。


 いや、シルバさんだけじゃない。他の円柱にも立っている人が三人。合わせて四人が私に鋭い視線を向けている。


 誰だ? と聞こうとしたところで、その誰よりも強い視線、どころか今にも胸倉を掴みそうな勢いで、その人が近づいてきた。


「ちょっと、レイア! なにしてるんですか! なぜあなたがこんなところに!?」


「私じゃないでしょ。だってイケメン先輩が呼んだから」


「それでわざわざ来る人がありますか!!」


 お嬢様はおかんむりだ。


 まあたしかに、イケメン先輩のご招待は半分口実だ。


 けどまさか、あなたのお父さんに下に見られてムカついたからなんて本音は言えないでしょ。


 問題なのは私がここにいることを良しとしないルールだ。それならここは、立場のあるシルバさんにお願いするのが筋と見た。


「すみません、シルバさん! 悪いのはスターレーン先輩ってことで、ここはひとつ大目に見てくれませんか?」


「やむを得ない、か。オールワイズ、頼む」


 シルバさんがそれだけ言うと、円柱に立つ一人の青年がこちらに手を向けてくる。その手が緑に光ると、霧のようなモヤが放たれ、私の方へ吹いてくる。


 その光には見覚えがある。テニスのときにユラが見せてくれた、魔術の光と同じだ。だとすれば、触るのはマズイか?


 それを避けるのは前提として、オールワイズと呼ばれた青年がこちらに駆けてくる。


 魔術師と言えば学者気質、動かない案山子のようなものだと思っていたけれど、なかなか悪くない動きだ。


 そのうえで霧は常に私を捕らえようとうねるように変化して、霧を放つ手とは別の手も緑に光り出している。


 うわっ、汚いっ。絶対触られたくないです。


 たしかに彼の動きは速い。これが全力でないなら、お嬢様に匹敵しうるスピードがあると見える。そのうえで霧を使い、行動を阻害するとなれば、かなりのやり手なのかもしれない。


 うんまあ、私からすれば脅威ではないので問題ないけどさ……速いといってもパパほどじゃないし。


 こちらから距離を詰めてワンパンチ。青年が後ろへと吹っ飛んでいき、自分の立っていた柱へと叩きつけられる。


「シルバさん。私、退く気はないので。これ以上やるとなるとこうなります」


「ハッ! たいしたものだ。王国十二騎士のひとりを軽々とノックダウンとはな! モンテール殿、オレがこいつと戦いたい理由を分かっていただけたかな?」


 私とイケメン先輩の言葉が重なって、シルバさんへと向けられる。


 ん? ちょっと待った。今聞きづてならない単語が入ってなかったか?


「あれ、今吹っ飛ばしたのって王国十二騎士? 魔術師じゃなかった?」


「彼はオールワイズ・シュゲーマン。オレより先輩ではあるが、剣術と魔術に長けた期待の若手だ。もっとも、その期待がいまへし折られた可能性はあるが」


 マジ? 今のが王国最強の一人って……大丈夫なのか、この国?


 いや、待った。それより、彼、シュゲーマンさんが動いたのはシルバさんの指示だったはず。


 つまりシルバさんは王国十二騎士を従わせる武人だっていうのか。そんなものが……王国最強でないはずがない!


「シルバさんは、王国十二騎士なんですか!?」


「……おいおい、田舎娘もそこまで無知となると王国の沽券に関わるぞ? シルバ・モンテール、王国十二騎士の中でも最も古強者である、最強の頂点。王国最強の剣であられる方だ!」


 知らないよ。


 っていうか最強のくせに十二人も用意しないでほしいんですが?


 と、シルバさんが黙っていると、観客席のざわめきに気づく。


「シュゲーマン様が瞬殺された!? 誰だあの娘は……」


「セントラル校の制服を着ているぞ! 学生か!? たしかに、スターレーン様と親交があるようだが……」


 と、耳を傾ければ、どうやら私の所在や王国十二騎士を倒したことが問題視されているらしい。


「っく、王国最強のくせに!! 小娘一人にやられる方が悪いんでしょ!!」


「はぁ、あなたは誰に言い訳してるんですか?」


 呆れてお嬢様がため息を吐いていた。言い訳じゃなくて、王国十二騎士が大したことないって、事実でしょうが!


「おいおい、言ってやるなよ。強さにもいろいろあって、相性なんかもある。たまたまシュゲーマン殿はおまえと相性が悪かったのさ」


「先輩は他とは違うと言っている?」


「違うさ。なあ、モンテール殿!」


 先輩がシルバさんへと、宣戦布告するように剣を向ける。


「まさか王国十二騎士がこんな衆人環視の前で、女子供に倒されておいて、ただで退くわけにはいくまい。その力でもって威光を示すのが、名誉挽回には最短だと考えるが、いかがかな?」


「貴公の言い分はもっともだ。しかし私のような肩書のある大人が、女子を斬りつけるわけにもいかなくてな」


「心中察しますとも! ですがご安心を! ここに一人、ちょうどスタジアムに立っている王国最強がいるではありませんか!」


「……そのようだな。それでは命令せざるを得ない」


 シルバさんは大人しい口調であったが、誰が聞いてもその声には怒気が含まれていた。


 レイア・クォーターをおまえがここに呼んだせいで、こんなことになっているんだろ、と。


 しかし結果としてこの命令はイケメン先輩の意図した流れになったわけだ。


 さすが王国最強、頭もキレる!


「ジーク・スターレーン。そこにいる学生、レイア・クォーターをスタジアムから追い出せ」


「御意である、モンテール殿!」


 来いよ、王国最強。その手腕に敬意を表して、全力で倒してやる。


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