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学生騎士王杯3

 お嬢様VSイケメン先輩。


 これでようやく、エキシビションマッチのカードが出揃った。


 二人が望んだ戦いだ。お嬢様は目標を、イケメン先輩はライバルを見出だそうとして、互いに強者を求めている。


 このマッチに関して、背景を知る私が個人的な感想を言うのであれば、こうだ。


 ……なんっっっていうか、パッとしない戦いだなぁ。


 もっとこう、戦いっていうのは二人の思想や因縁がぶつかるものだ。


 殺された家族の復讐だとか、たったひとつの願望器を奪い合う戦争だとか、そういう展開を期待したい。


 いやまあ、現実に無理なことを言ってるのは分かる。


 いくらファンタジーだからといっても、そんな都合よく宿命を背負ってる人間がいてたまるか。仮にいたとしても、そんなやつと友達やってたら鬱展開の余波で私が死ぬ。


 だからまあ、大袈裟なことを期待しているわけじゃない。


 ただ、この試合の果てに二人が望むものを得たとして。お嬢様が目標を得たところで。イケメン先輩がライバルを得たところで。


 ハッキリ言って、程度が知れている。それに私は退屈を感じているのか?


「……って、メチャクチャ偉そうだな」


 ぶんぶんと頭を振る。


 王国最強を捕まえて程度が知れるとか、私は何様のつもりだ。


 私がイキってしまう理由は自分でちゃんと分かってる。怪力(チート)があれば剣位二冠だろうが王国最強だろうが負ける気はない。心のどこかでそう思っている。


 これはですね。良くないんですよほんと。努力しない系主人公はヘイト集めるから。


 努力した人間が偉くて、苦労した人間が偉くて、本気な人間が偉いのだ。


 私みたいに努力もせず、苦労もせず、本気でもない人間が偉そうにしていいわけがない。


 普通に生きるとは、そういうことだ。


 おお、テキトーに言ったけど、私にしてはなかなか真理っぽい。


 と、左隣の視線に気づく。見ると、ユラがなにか言いたげな顔をしていた。


「どうかした?」


「いや、まあ。さっきのシルバさんの話聞こえてたからさ。ちょっと気になって」


 ほへー、なんでもご存知のユラ先生が気になるなんて珍しい。


 だから何も考えずに聞いてしまった。


「気になるって、なにが?」


「えっと……」


 なぜかユラが躊躇いながら、どこか諦めたようにそれを口にする。


「レイアとアルセーヌさんが戦ったらどっちが強いのか」


「──ほう?」


 その疑問符は後ろから聞こえた。


 そして瞬時に悟る。ユラが言うのを躊躇った意味を。


 ユラであれば、さっきの私の心情を推し測ることができたからだ。死と隣り合わせだったあの状況を。


 そして今、再び死線が訪れようとしている。


 恐る恐る後ろを向くと、パッパが楽しそうに笑っていた。


「興味あるな。その話、私にも聞かせてくれるかな?」


 なんで食いつくっちゅーねーん。


 さいわい、それは私が口を開くまでもなくユラが対応してくれた。


 簡単にまとめると、私が怪力のギフト持ちで、村では一番強かったということだ。


「さっきのシルバさんの持論。評価する側とされる側の実力差について当てはめると、レイアの才能的はアルセーヌさんよりも上なのかもしれません」


「可能性としてはありえるが、その答えは実際に戦ってみなければ分からない」


 シルバさんが即答する。それはそうだろう。


 至極当然の結論が出た。そこで議論が終わったかと思うと、シルバさんがその言葉に付け加える。


「ただ、戦う場に立っていない時点で、レイアくんは比較に値しないと私は思う」


「戦う場に立っていない、ですか?」


 むっ、ときた。


 なぜだろう。「比較に値しない」って言われて、つい聞き返してしまった。


「仮にレイアくんに実力があったとしても、きみは今観客席にいて、アルはスタジアムに立っている。もちろん、どちらが良いとか悪いとかの話ではない。ただ違うものを比べられないと私は言いたいのだが、分かってくれるかな?」


「はい。分かります」


 ユラが答える。


 今度は私も頷いたが、納得はしていない。


 スタジアムから観客席までのこの距離がなんだというのか。


 お嬢様と私。同じ学校に通う学友で、同じ部屋に住むルームメイトだ。


 そこにどれだけ差があるのか、私にも分かるように説明してもらいたい。

 

 もちろんそんなことをシルバさんに聞けるはずもなし。もやっとしながらも、時間が流れて続く二年、三年の学生騎士王杯決勝が終わる。


 そしていよいよエキシビションマッチ。


 スタジアムに立つ、お嬢様とイケメン先輩。


 片や学生騎士王、片や王国十二騎士。それに何よりあの容姿だ。観客が今日一番の盛り上がりを見せる。


 ただ、それはあくまで見栄えの話。決勝マッチのように、どちらが勝ちそうか、などと言う話は聞こえてこない。


「さて。レイアくんはこの試合をどう見る?」


 訂正。私の心情など考えもしないまま、シルバさんは聞いてくる。


「スターレーン先輩が勝ちます」


 両者を見て比べたとき、そこには時の運で覆らない差があった。


 お嬢様の目標は果たされない。そしてその差はイケメン先輩をも失望させることだろう。


 イケメン先輩にとって、お嬢様は取るに足る相手ではないのだから。


「そうだな。相手は王国最強の一人。アルにもいい勉強になるだろう」


 シルバさんが淡々と同意する。


 いい勉強、ね。


 お嬢様はそんなつもりで戦わないだろうけど、この人にはどう見えるんだろうな。


 観客席のボルテージが冷めぬまま、スーツの男が手を上げて、試合開始を宣言する。

 

 イケメン先輩は剣に手を当てているが、構えはしていない。お嬢様の行動は見て対応できる。それを態度で示してるようだ。


 ある種挑発にも見えるパフォーマンス。しかしお嬢様は冷静だ。迂闊に踏み込まず、観察から始める。


 私とのテニスでも、強打を打たれて崩したりせず割り切って対応していた。集中状態で冷静に物事を観れるのは天性の才能だろう。


 お嬢様が腰の剣を抜いて踏み込み、それを振るい、イケメン先輩が迎え撃つ。


 剣の打ち合いで有利を取れれば、攻める側は力で押し切れる。それを測るための打ち合いだが、すぐにお嬢様は距離を取った。


 二週間前、初めてイケメン先輩を見た時のお嬢様との組手で、この打ち合いの差は見えていた。お嬢様もここで打ち勝てるとは思っていなさそうで、攻めも消極的だ。


 やはり簡単には勝てないと再確認したところで、お嬢様は次のカードを切り始める。


 王国剣術。


 おそらくはそれだ。フィジカルで勝てないなら、足りない分は技術で補うしかない。


 剣捌ぎ。歩法。魔術。体術。


 そのすべてを組み合わせた型を攻めに取り入れる。


 誰が見ても、決勝を遥かに超えてお嬢様は全力だ。その苛烈さに大勢が息を呑む。


 たしかにお嬢様の戦いはたいしたものだ。


 だがそれ以上に。それをすべて受けきっているイケメン先輩は異常だった。


 正面からの戦いは攻めるほうが容易い。カウンターや、体制の立て直し、一時の様子伺いで守りに回るのは有効だが、どうもイケメン先輩は防戦一方で反撃するようには見えない。


 一見、その姿はお嬢様の攻めにイケメン先輩が手も足もでないように見えるだろう。挑戦者が最強に牙を剥く様は観客をよりいっそう盛り上げる。


 けれど武に通じる者が見れば、その姿は逆に映る。イケメン先輩にはどの攻撃をも受け流す余裕があり、お嬢様は全てのカードを出し切ってなお倒しきれない。


 それだけの実力差が二人にはあった。


 いやー……ぶっちゃけもうちょっと、「お嬢様にもワンチャンあるんじゃない?」くらいに思ってたんですけどね……。これはアカン。これはワンチャンありませんわ。


「アルの戦いは力に頼らず、技術と戦略を持って相手を攻略する。手の内の切り方次第では戦力差を覆すことができるだろう。ただ、その戦闘スタイルはジークととても似ている。アルにとってジークは自分をより強くしたような存在だ。単に格上というだけでなく、一番戦い難い相手といえる」


 シルバさんが解説する。


 なるほど、だからこうもお嬢様の攻めが通じないわけか。


 せっかく解説してくれるなら、気になってることを聞いてしまおう。


「スターレーン先輩が防戦一方なのはどうしてなんですか?」


「負けたいから、だろうな」


 予想外の言葉に、思わずそちらを向くと、「困ったやつだ」とシルバさんが肩を上げていた。


「いくら様子を伺うからといっても、あれほど防戦一方になることはない。勝つもりなら多少は反撃をするさ。それすらしないのは、相手に勝機を与えるためとしか考えられない」


 前半に関しては同意見。


 けどイケメン先輩が反撃しないのは、てっきり実力差を見せつけるための嫌がらせ、くらいに思っていたのだが。


 シルバさんの言う「勝つつもりがないなら負けるつもり」、という発想にまでは至らなかった。


「まあ、彼のように強くなってしまうと、戦いが必勝になってしまう。それを退屈に思うのだろう。だから不意に自分を倒してくれる存在を探しているのさ」


「なんだか、スターレーン先輩を理解しているような言い方ですね?」


 聞くと、フッとシルバさんがくすぐったそうに笑う。


「私も似たようなものだからな」


 あー、言われてみれば確かに。


 結構気軽に話していたが、シルバさんはお嬢様の父親で、武の家系であるモンテール家の当主だ。


 その人が強くないはずがないと今更ながら思う。


「しかしこの様子ではジークが負けるのは難しそうだ。アルもほとんど手札を見せた。となればそろそろ彼も動く」


 そうシルバさんが言ったそのとき、観客席がどよめいた。


 その言葉通り、ついにイケメン先輩がお嬢様を押し返す。それに呼応するようにお嬢様が距離をとった。


 それは試合開始と同じ距離。けれどその過程に見えた差はあまりにも大きい。


 そこからは一瞬だった。


 イケメン先輩が距離を詰め、お嬢様がそれを迎え撃つ。


 その直後にお嬢様が吹き飛んだ。


 力で吹き飛ばされたわけじゃない。お嬢様の迎撃は確かに間に合っていたはず。


 それを見て、イケメン先輩が後退しながら剣を振り抜き、返す剣でお嬢様の空いた右腕を叩いた。


 今のはアドリブじゃない。迎撃を見て後退したといったが、完全に体が前傾であればそんな動体制御は不可能だ。


 つまり前に出てからのバックステップ、返す剣の一撃までが一つの動作。その動作ひとつひとつが流麗なものだから、お嬢様であっても見切ることはできなかった。


「今のも王国剣術ですか?」


「ああ。王国剣術〈牙流一閃(がりゅういっせん)〉という。牙で獲物に噛み付くかのような二連撃だが、ジークのそれはほとんど同時攻撃と言ってもいいな」


「それって防ぎようがないですよね?」


「同時攻撃と言ったが、正確には、後退している以上一撃目は当たらないなのだから二撃目に集中して防ぐことはできる。そして一番早いのは、突進を仕掛けてきた段階で退いて逃げることだ。迎撃をした段階でアルは負けていた」


「まあそれはそうなのかもしれませんが。距離を詰められるたびに逃げていては、対戦にならないじゃないないですか」


「アルには厳しい言い方になるかもしれないが、それが答えだったのではないかな?」


 一つの証明を解いたようにシルバさんが言う。


 イケメンパイセン強ぇ~。


 王国十二騎士は伊達じゃないって感じ。学生騎士王ってなんだったんだってくらいの圧勝じゃないっすか。今日はお嬢様の日にしてあげてほしい。


 イケメン先輩の攻撃が速すぎて見えた人は少ないかもしれないが、結果はお嬢様が吹っ飛んだことでヒット判定。これにより勝敗が決する。


 悔しそうな表情を浮かべたお嬢様が立ち上がり、余裕な表情のイケメン先輩と握手。


 事情を知っているだけに、なんともあっさりとした終幕だ。


 そう思っていると、イケメン先輩がスーツの男からひったくるようにマイクを奪う。


 なんだ? 優勝者コメント? あんたゲスト枠じゃん。優勝したのはお嬢様じゃん。帰ってどうぞ。


「あー、勝手な申し出をすることを運営諸君に先に謝っておく。オレは今からもうひと試合させてもらう」


 そう思っていたのは私だけのようで、イケメン先輩がもうひと試合すると言うと、会場がわっと湧いた。


 それはもうライブで新曲発表みたいな盛り上がりだ。当然その試合のカードにも期待が集まる。


 裏事情を言うのであれば、イケメン先輩にとっていまの試合は欲求不満だったのだろうなあ。


 しかし王国最強と対等な試合をできる相手なんて限られるだろう。相手は同じ王国十二騎士か? 剣聖か?


 どちらにしても、欲求不満なイケメンのサンドバッグにされるなんてかわいそうやな。〈牙流一閃〉されたら終わりだよ、このゲーム。環境トップ技、チートやめろ。


 そう思っていると、イケメン先輩がこちらを向いた。そのまま不敵な笑みを浮かべると、ビシィっと指さしてくる。


 言うまでもないことかもしれないけど、とても嫌な予感がしたよね。


 早くここから逃げないと、そう思うにはあまりにも遅すぎた。つまりイケメン先輩は、人が嫌がることを声高々に宣言したのである。


「レイア・クォーター。この場でオレと勝負しろ」


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