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学生騎士王杯2

 お嬢様は順調に勝ち進んだ。


 ウエスト校に続いて、イースト校、サウス校と勝ち抜き、いよいよ決勝のノース校戦。


 相手も同じく三勝してきている猛者だ。その戦いぶりにも余裕があり、両者のどちらが勝つのか、周りでは議論が飛び交っている。


 隣にいるユラ、セラス、シャールさんは当然お嬢様を応援しているけれど、対戦相手を立てることも忘れない。今までの三戦を経て、この一年生決勝マッチはどこが見どころになるのかと、話に花を咲かせている。


「レイアくんはこの試合をどう見るかな」


 その一方で、私はといえばお嬢様のパッパ、シルバさんに絡まれていた。


 席順的に右端のシルバさんと話すのは私しかいない。


 しかしトークスキルのない私では、シルバさんとの会話を広げることもできず……。


「なにか変なことがなければ、アルセーヌが勝ちますね」


 結果として、ユラに注意されたにも関わらず、おバカな回答を繰り返していた。


 これがユラやセラスだったなら、具体的に試合がどういう展開になりそうだとか、なにがきっかけで試合の勝ち負けが決まりそうだとか、聞き手を引き込むような話の振り方をしただろう。


 トークスキルの鬼。ディスイズ陽キャ。


 いや待ってほしい。これは私なりの配慮なのだ。


 もしこれがシルバさん相手じゃなかったら、


『決まっている、より強い方が勝つ(キリっ)』


 とか、


『お嬢様が劣勢か……しかしまだやつには奥の手がある……っ!!』


 とか、脳みそをまったく使わないで会話していた。だから会話に困ることもない。


 ところが相手は友達のパッパにして公爵様。さすがの私も気を遣うし頭も使う。そうなると、下手なことを言えない。


 まあ真面目な話をしてこんな回答なのもどうかと思うけど。事実両者を見比べた時に、お嬢様が優っているように見えるのだから仕方ない。


 ──まあ、そんなことは本当に些細なことでしかないけどなぁ。


「レイアくんがそこまで言い切るのは、アルとの固い友情だと思っていたのだが」


 ぽつりとシルバさんが言う。


 さっきまで「なるほど」くらいしか返事をしなかったので、その反応に驚く。


 もしかしてなにか怒らせた? そろそろ私処される?


「どうやらきみには、あのスタジアムに立つ学生の実力が見えているようだ」


「……そんなたいそうなアレじゃないと思いますけど。どっちが強そうとかは、なんとなく分かりますね」


 私にもよく分からない感覚だ。


 それが言葉にできれば、もうちょっとマシに見えるのに。おかげでさっきから「こっちが勝ちますねー。理由は知らんけど」みたいな言い方になってる。ユラにも叱られるわけだ。


 それなわけで、私が漠然としたことを言うと、シルバさんはうんと頷く。


「他人の実力が見える、というのはなにも不思議ではない。たとえばの話だが、キッチンに二人のシェフがいたとする。一人は素早く鍋を振るい、野菜を炒めてみせるが、一人は卵を割って殻を入れてしまう。どちらの方が料理が得意かは、それだけで分かるだろう?」


「それは、はい。でもそれは実力差に開きがある場合じゃないんですか?」


 そりゃ料理が得意な人と苦手な人がいて、どっちの方が料理が得意かを当てることはできるかもしれない。


 でも料理が得意な人が二人いて、どちらの方が料理が得意かと問われると、その判断は難しい。


 難しいはず、なのだけど……どうして私にはそれが分かるんだ?


「そうだな。私なりの持論を言わせてもらうと、それは一部正しく、一部違う。きみの言う実力差とは、評価対象同士の実力差……シェフの実力差を言っているのだろう?」


「そうです」


 私が頷くと、シルバさんが首を横に振る。


「そこが違う。重要なのは、評価対象同士の実力差ではなく、評価する者とされる者の実力差だ。この意味が分かるかな?」


「ぼんやりとは、分かるような気がします。つまり一流のシェフであれば、二流のシェフ同士の実力差を正しく評価できるってことですか?」


 今度はシルバさんが「その通り」と頷く。


 なるほど。


 前世で正月にやってた特番だな。庶民からすれば、プロの演奏家とアマチュアの演奏家の違いなんてさっぱり分からないけれど、一流(GACKT)なら全部分かる。


 ……ん? ちょっと待てよ。


 シェフの話に例えていたから忘れていた。話を戻すと、つまりそれって。


 私がGACKTってこと?


「私の持論に当てはめれば、きみは学生騎士王杯に参加している誰よりも優れた実力を持っている、ということになるな。もちろん、その参加者にはアルも含まれる」


「イヤ、ソノッ……アリガトウゴザイマス?」


 首を横に振ればパッパの持論を否定することになるし、かといって縦に振れば「おまえ何様だよ」と思われる。


 どうすればいいっちゅーねん。


 普段使わない脳みそでベストな答えを考える。


 ヤバい。何か言わないと、「私はお宅のお嬢さんよりも優れてるんですのよ?」と自慢する頭のおかしな女と思われる。


 そんなこと公爵様に言ったら、娘の友人だろうと殺されねない……。というか私が公爵だったら、まず間違いなく娘に悪影響なそいつを殺してる!


「すまない、妙なことを言った」


 死を間近に感じて、滝のように冷や汗を流していると、シルバさんが頭を下げる。


 まさかの謝罪……っ!!


 大丈夫なのか、これは? 妙なことを言って謝罪が必要なら、私は焼き土下座くらいしないとダメかもだが?


「きみの見る"眼"に理由をつけてみたくなっただけだ。本人が分からないことを私が推察したところで、困らせるだけだというのにな」


「いえ、そんな。興味深い話でした」


「ありがとう。そう言ってもらえると、私も助かる」


 シルバさんがフッと笑って、「きみの眼を信じれば、アルの優勝だな」とスタジアムへと視線を向ける。


 な、なんとか乗り切った……。なぜ私ばかり死にかけなきゃいけないんだ?


 額の汗を拭って私もスタジアムを見る。


 お嬢様とノース校の代表の試合が始まった。


 どちらの剣も流麗だ。よく洗練されている。剣の素人の私から見てもそう思えるものだった。


 両者ともに退かず、されど踏み込まず、互いに探るような打ち合いを続ける。


 その均衡を崩したのはお嬢様だ。何気なく、不意に、踏み込む。


「おや?」


 なんだ、アレ?


 踏み込んだくせに、その次が無い。お嬢様はその足を前に出したまま、腰に剣を沿えて居合の構えを作る。


 違和感のある姿勢に疑問符を浮かべざるを得ない。


 しかし、次の瞬間に更なる不思議な事態が起こる。


 ノース校代表の剣が空を斬った。


 動きに迷いはないい。まるでその斬った先にはお嬢様がいるかのような動き。


 けれどそれは幻影だ。彼はただ空ぶった。その結果生まれる、あまりに致命的な一瞬。


 その一瞬を、お嬢様の居合が一閃する。


 木剣はノース校代表の胴を叩き、その長身を軽々と切り伏せる。


 勝負あり。


 審判役が手をあげ、宣言をすると、スタジアムはびりびりと空気を震わせるような大歓声に包まれる。


 うん。まあ、試合結果はこんなものだよなぁ。


 しかし最後の一手はなにか変だった。お嬢様がなにかを仕掛けたように見えたけど。


「今のは王国剣術〈虚剣〉というものだが、知っているかな?」


 私の疑問を見透かしたようにシルバさんが声をかけてきた。


 「いえ」と私が首を横に振ると、頷いて言葉を続ける。


「自分の行動を悟らせることで、相手の動きを誘導する技だ。あの瞬間、ノース校の代表には迫りくるアルの姿が見えていたのだろう。それを斬ったと思ったら、斬られていたのは自分だった。決勝の大一番で、あいつも大胆なことをする」


 そう言って、シルバさんは賞賛するように拍手する。


 私も同じように拍手をした。いや、私だけじゃない、観客の誰もが勝利を祝福する歓声と拍手を贈っている。


 それに答えるようにお嬢様が手を振っていた。その笑顔は優勝に喜ぶ一人の女子にしか見えない。


 けど、その心底はたぶん違う。前に言った通り、優勝は前提条件だ。


 お嬢様VSイケメン先輩。


 これでようやく、エキシビションマッチのカードが出揃った。

 

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