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クソ村2

「よぅし! 剣の持ち方は教えた通りにすればいい。それじゃあ早速、俺と試合だ! どっからでもかかってきていいぞ!」


 私に教えるのが楽しくて仕方ないとばかりに、パパが声を上げる。


 正直私は剣の振り方なんてどうでもいい。早く木剣で叩いてほしい。


「そ、そいやーっ!」


 パパに向けて木剣を振ると、ぶんっと空気を切る音が鳴る。


 おお、思ったよりも軽々と振れた。背が高いのもあって、剣に振り回されることもない。


「さすが俺の娘だけあって、いい振りだ! その調子で続けてみろ!」


 パパと言えば娘の一撃を躱して余裕な顔だ。そりゃ勝てると思ってないし勝つ気もない。


 ただ剣で叩いてくれないと意味がないの!


「せいっ! せいっ! せいぃっ!」


「お、いいぞ! その調子だ! はっはっは、なかなかパパには当てられないなぁ~」


 こっの娘が可愛くて仕方ない中年めぇぇぇ!!


 完全に先生モードに入ってるせいで全然反撃してこないんですけど! なんなのこの素振り!


「ちゃんとやってよ! 本気でやらないと意味ないじゃん!」


「ちゃんとやってるさ。しかし今日初めて剣を振った相手に本気ではやれない。娘だから加減してるってわけじゃないぞ? そうだなぁ、騎士盤で上級者が低級者を相手にするとき、駒落ちでやるだろ? それと同じだ」


「ぜんぜん同じじゃない! 騎士盤はちゃんと対戦してるけど、パパは逃げてばかりで対戦してないでしょ!」


「う、うむむ……?」


「パパは「親父を倒せば一流だ!」とか言っておいて、そのパパに相手にしてももらえなかったら悔しくないの?」


「くはぁ!?」


 お? あと少しで落とせそうだ。


「待てレイア! おまえの言うことはたしかに分かる。分かるが、おまえは女の子だ! パパのときと違って体もできてないし、万一ケガなんてしたらたいへんだろ!」


「冒険者に男も女も関係ないでしょ!」


「関係なくは……ないと思うんですが……」


 なぜ敬語。


「はぁ。ロキ、レイア、ちょっとこっちに来なさい」


 と、夕飯の準備を終えてこちらに来たのだろう。ママがちょいちょいと手で招いて呼んでくる。


「ロキは娘が可愛いのは分かるけど手は抜かないこと。もし冒険者になるなら、今ここで鍛えてあげるのが将来のレイアのためになるんだから」


「うう、分かった。ここは心を鬼にしてレイアを鍛えよう!」


「鬼にはしなくていいけど、ほどほどにね。レイアにはアドバイス。攻撃が直線的過ぎてロキに読まれてるわ。たとえば、そうね。これを躱してみなさい」


 そう言って、ママがゆっくりと拳を突き出してくる。こんなの動くまでもない。身体を逸らしてそれを避けた。


「あなたの攻撃をロキが避けるのはこれと同じ。どこに攻撃がくるか分かっていれば、剣筋が速くても躱されてしまうのよ。でもね、」


 と言って、急にママが突き出した拳を横に振る。それは当然横にいた私に当たった。


 そうか。


「こうして相手の意表をつけば、実力差のある相手にも攻撃は当てられる。一度目の攻撃を囮にしたり、攻撃の速度に緩急をつけたりしてね」


「オッケー、ママ!」


 パパに叩いてもらうことが目的だが、そのためにはパパにやり返させるくらいの緊張感がないといけない。


 本気でやるだけじゃ足りない。「もしかしたら痛い目みるかも?」とパパに思わせる必要がある。今のアドバイスはその手掛かりになるはず。


「よし、パパやろう!」


「応! 今度は真剣にやるからな!」


 と言いながらもスタイルは先ほどと変わらない。私が木剣を振って、パパがそれを避ける。


 けどそこでは終わらない。私は剣を戻すことなく、振り下ろした体勢のまま、それを横に振った。


「おっと、考えたな? 危ない危ない、」


「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」


「ちょ、危ねえ!」


 もうこうなったら出鱈目だ! 教えられたとおり、上段から剣を振ったのは最初だけ。次からは滅茶苦茶に剣を振り回す。


 これにはパパも面を食らったようで、その場から飛び引いた。


「型とかあったもんじゃねえな……さすが俺の娘だ!」


「そんなのどうでもいいからちゃんと戦って!」


 ほんとは私だって剣道で一本取るみたいに、カッコよく決めたいんだよ! 恥ずかしいの我慢してんの! さっさと反撃して!


「……なるほど。剣士だな。すまない、俺が間違ってた。ちゃんとやる。痣くらいは許してくれよ?」


 イラっ。


 生まれてから十年。その節々で感じてきたこの苛立ちが、今日この瞬間になってなぜかどっと押し寄せた。


 この男、完全に自分に酔ってる。いるよねーこういうナルシストタイプ。インディーズバンドばっか聞いて「俺は”解ってる”」とか思ってるやつ。


 クラスメイトとかなら気にしないけどさ。もっと親密な関係ならちょっとイラっとするかもしれないポイントだ。


 じゃあそれがパパだったらどうかって? 決まってる。


 パパとて許せぬ!


 叩いてもらうとか、そんなのはいったん置いておく。このナルシストに一発入れないとこの苛立ちは収まらぬぞ……。


「はあぁぁぁっ!!」


 たったひとつ教わった型、上段の構えから一歩踏み込む。


 それだけで飛び引いたパパとの距離が詰められた。あれ? 一歩で届く距離じゃなかったはずだけど……都合がいいなら大歓迎だ!


 そのまま剣を振り下ろすが、警戒していたパパはそれを避けてくる。


 避けたそのところへ、追撃。片手で剣を横に振り抜いた。


「さっきより速ぇ……が、まだまだ動きが単調だな」


 前と同じ動作をより速く行う。緩急……パパには見切られていた。


 後ろに退いて木剣をぎりぎり避けてみせると、がら空きになった私の肩へ向けて木剣を振り下ろしてくる。


「少し強く叩くからな! ちょっと痛いぞ!」


 と言いつつ、だいぶ加減してくれたのだろう。私にはそれがスローで見えた。なんなら木剣を振り下ろし始めてから避けられる感覚があるくらいだ。


 でも避けない。振り下ろされるそれを待って、ガツンと肩に一発食らう。


 正直に言う。全然痛くない。ありがとうアルマロス! 期待してた通りだよ。これで……


 これでパパに一発入れられる!


 振り下ろされた木剣を持つパパの右手を私の左手で掴む。


「な、全然動じない!? ならこれで!」


 パパが即座に私に近づいてくる。


 さっきと逆転、今度はパパの体ががら空きだからだ。一方で私にはフリーになった剣を持つ右手がある。


 けれどこれだけ距離が近いと剣が振れない。なるほど、近づいたのはそのためか。


 なら……私は剣を、捨てる!


 右手には拳。これがあれば十分だ。


 最初はグー……じゃんけん……


「ま、まま待って、なんか知らんがレイア待ってくれ! まいった! まいったぁ!」


 グー!


「かはっ! お、おろろろろろろろろろろろろろろ!!」



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