学校暮らし4
「スターレーンさん?」
「ふん。様付けしないことには目を瞑るが、オレはおまえより年上だ。先輩をつけて呼べ」
「パイセン、ちーっす」
「おまえは時々よく分からない言葉を使うな。その挨拶はおまえらの部族固有のものなのか?」
もしかして私同じ人種扱いされてない?
甲冑のメンテナンスをしていると、ジーク・スターレーン先輩に声をかけられた。
彼の記憶は新しい。昨日、お嬢様との昼食中にクソリプをするだけして帰っていった男だ。
「なんですか、急に。なんか用ですか?」
これがお嬢様だったなら同じ騎士科同士で話のひとつでもしただろう。
しかし私とこのイケメンとじゃ接点がなさすぎる。お嬢様の友達同士? いや、昨日の会話でお嬢様とイケメンが仲が良いとはとても思えない。
「用事か。そうだな、おまえと一度手合わせしたいと言ったらどうする?」
「は? それこそ急でしょう。しかも意味が分かりません。なんで普通科の学生が騎士科相手に戦わなきゃいけないんですか。もっと言うと、天下の王国十二騎士様が平民相手に戦うとか、いろいろまずいなんてものじゃないでしょう」
なんだこいつ。見た相手なら誰にでも宣戦布告しないと気が済まないバーサーカーなのか?
それにしても、せめて相手は選んで欲しい。こんなどこにでもいるちょっとキュートでセクシーな美少女を捕まえて手合わせとか。
……はっ! 手合わせって、もしかしてこれはエツチなお誘いってやつなのか!? 今日は家に誰もいないんだよね的なお誘いなのか!? 雨が降ったからちょっとここで休憩してこう的なお誘いなのか!?
ありえる。
いやむしろそれ以外に考えられない。だって私はこんなに美少女で、しかも普通科の女子だ。男が食うのにこんな都合のいい存在はいない。
出会って早々に、お友達からの関係もデートもなにもすっ飛ばして、いきなりお誘いとかないわー。
異世界だからってさすがに常識無さすぎないか? 大学のヤリサーじゃねえんだぞ。股が緩いことに定評のあるハーレムもののラノベヒロインでもそんな誘い乗らないよ。
「平民など知ったことか。オレも生まれは平民だ。重要なのは、おまえが強いどうかという一点にある」
「つ、強い? 全然ですよ私なんて! その……まだ一回もシたことしたことありませんし……?」
「したことがない? 殺したことがないということか?」
「そ、そうですよ。ヤったことがないってことですよ! って、なに言わせるんですか、この変態クソリプ先輩!」
「フン。経験など関係ない。重要なのは素質があるかどうかだ」
絶句した。
白昼堂々と何を言ってるんだ、このヤリチン先輩は……。
「その点、オレはお前に素質があると見ている」
「ひぇっ……」
「なにもオレは殺したいわけじゃない。純粋な力のぶつかり合いを楽しみたいのだ。もっとも、最強であるオレの相手など、今となってはほとんどいなくなってしまったが」
「さ、最強……」
この人、どれだけ自分のソレに自信があるんだ。エクスカリバーとか言いだすんじゃないだろうな?
「いやマジで勘弁してください。初めてはほんとに普通の感じがいいんです。許してください」
「はぁ。だから殺る殺らないの話をしているわけじゃない。安い言い方になるが、オレが求めているのはあくまでスポーツのような力のぶつけ合いだ。そこに初めてもなにもないだろう?」
「いやあるでしょう!? どんなヤリチン理論だよ!! 純情純潔乙女舐めんじゃねえぞ!! どうせそのまま「ヤっていい?」の流れに持っていこうとしてるのバレバレだぞごらぁ!!」
「……なんの話をしているかよく分からないが、おまえ頭大丈夫か?」
「チ〇コに脳みそ詰まってるやつだけには言われたくねぇぇぇ!!」
生まれて初めてここまで声を出したかもしれない。
ぜぇ、ぜぇと息を切らしながら拒否すると、さすがにチ〇カス先輩も引いていた。
ドン引きしたのは私の方だと言いたいけど、もういいです。この"☨最強の男☨"と関わるといつ孕まされるか分かったもんじゃないからな。
頭のおかしな女のイメージでこいつのターゲットから外れるなら、それでいいや。
「あの、ちょっといいかい? なんかアンタたちの言い合い聞いてたら、妙な食い違いがあるようなんだけど……」
一仕事終えた気分になっていると、いつの間にかフェードアウトしていたホルム先輩が手をあげて入ってくる。もうこのヤリチン先輩との何か話すことなんてないんだけど……。
と思っていたが、ホルム先輩が話すうちにどうやらいろいろと誤解があったことに気づく。
ヤるとかヤらないはそういう意味じゃない? 剣の試合をしたいだけ?
「つまりヤリチン先輩はヤリチンじゃなかったということですか?」
「なんだ、そのさっきから言っているヤリチンとは。それもおまえの部族の言葉か?」
「違いますよ。ホルム先輩も知ってますよね、ヤリチン」
「ま、まあ、言葉は知ってるけどさ」
ホルム先輩が恥ずかしそうに頬をかく。
男勝りのさっぱりした先輩が恥ずかしがってる。かわいい。「私、今度ホルム先輩にいっぱいセクハラするんだ」と心のノートに書きこんでおく。
「ふん。まあいい。ところでおまえはオレの言ったことをなにと勘違いしていたんだ?」
「剣の試合じゃなくてエッチなことに誘っているんだと思ってました」
「……おまえみたいな頭のおかしい女を誘うわけないだろ」
「いや、それ以前に私みたいな美少女に喧嘩を挑まないでくださいよ」
誤解は解けたけど、お互いの顔に浮かぶ「こいつやべえだろ」とでも言いたげな表情は残ったままだ。
ひとまずヤリチン先輩からイケメン先輩には戻しておこう。
「まあでも、よく考えたらスターレーン先輩の好きな人ってアルセーヌですもんね」
「は? なんだと?」
先輩が取り乱す。いや乱してねえな。また「なに言ってんだこいつ」みたいな目で見られてる。
「いやだって昨日、せっかくの休日に絡んできたじゃないですか」
「顔見知りに声をかけただけで好意があると思われるのは心外だな」
「そう言われるとそうなんですけど、声をかけるっていうか、もうほとんど喧嘩売ってたじゃないですか。てっきり先輩がアルセーヌのこと好きだから、必死にアピしてるのかと思いましたよー。それで嫌われるようなこと言っちゃうなんて、男子中学生みたいで可愛くないですか?」
「チュウガクセイ……? よく分からないが、まあ恐らくおまえの言うことは全部違うだろ。あれはあいつに発破をかけていたのさ」
イケメン先輩って会う相手全員に喧嘩を売らないと気が済まないのか?
「あれは才能があるくせに目標が定まっていない。そんなだから剣位二冠なんかで留まっているのだ。目標がないなら、オレを超えることをそれにすればいい。そのために嫌味を言ってやったのさ」
「先輩って結構自己中ですよねぇ」
それだって、お嬢様のためじゃなくて自分が強い相手と戦うためだというのが容易に想像がつく。
「でも先輩はもう最強になったわけで、これ以上やることないわーとか言ってイキってませんでしたっけ?」
「だからこそ、モンテールに期待しているのだ。あいつがオレ以上に強くなれば、オレもまだ強くなれるかもしれないからな」
「素直にそれを本人に言えばよくないですか?」
「おまえも知っているだろ。貴族の鑑だなんだといわれているが、あれでいてあいつは負けず嫌いだ。頭を撫でるよりも叩いた方が成長する」
それは確かに。というか私もテニスのときに同じことをやったな。
その結果ひとつの黒歴史が出来たんですけどねぇ……。
「聞け。おまえに二つ仕事をやる」
イケメン先輩が腕を組む。その自信に満ちた態度と言動は威圧的だが、居心地の悪さは感じさせない。
自然と人を従える、まるで王様のような話し方で私に命令する。
「来週の漆の日に王都で催しがある。"学生騎士王杯"、その決勝リーグだ。今年の一年ではモンテールが一番出来がいい。他校と比べてもそこそこだ。オレの見立てでは、一年の優勝はあいつで間違いない」
「へぇ」
学生騎士王杯? というのがなんなのかよく分からないけど、将棋かなにかの大会だろう。お嬢様はその優勝候補なわけだ。
「優勝すれば、その後のエキシビションマッチでオレと戦うことになる。その一戦に向けてベストコンディションを持ってくるように伝えろ」
「オッケー」
なんとかって大会で優勝したら、エキシビションマッチでイケメン先輩と戦えるので、覚悟しておけよ、と。それを伝えるくらいなら、たいした手間じゃないので頷いておく。
「それで、もう一つの仕事っていうのは?」
「エキシビションマッチでおまえもオレと戦え」
「いや意味分かんないでしょ」
急に喧嘩売るのやめな?
これがたとえばユラならば、見慣れた光景だと思うだろう。喧嘩を売られるのは村じゃ日常茶飯事だった。今思い返しても、女子を殴ろうとしてくるなんて異常としか言えない村だ。
しかしそれは村の連中が私の怪力を知っていたからだ。私は王都に来てからその力のほとんどを封印している。
怪力なんてものは私が望む「普通の生活」には必要ないからね。だからこそ転生した時のチートは〈屈強な体〉にしてもらったはずなのに。
アルマロマロッスめぇ、全然話が違うじゃねえか……。この落とし前、あんたどうつけるつもりだ?
まあその話はいい。嘆いたところで怪力がなくなるわけじゃないし。
とにかく、怪力を封印してきた以上、私は普通の美少女なはずだ。それなのに、このイケメンは普通の女子になにを望んでいるのだろう。
「最強の天才が、普通科の女子をボコって見世物にするとか、結構先輩ってエグイですねぇ」
「バカか。おまえが普通科にいるのはそうだが、普通の女子じゃないだろう。オレの目は人の才を見抜ける。そして才能だけで言えば、おまえはモンテール以上だとオレは見た。どうだ?」
どうだと言われましても。
「見る目がないですね!」
「はぁ。おまえと話していると頭が痛くなってくるな……。いいか。とにかく、この仕事は命令だ。絶対にやれ。いいな?」
「いいね、しました!」
「よし」
イケメン先輩が言いたいことだけ言うと、足早に去っていく。
すると今度は待ってましたとばかりにホルム先輩が距離を詰めて聞いてくる。
「え、なに! スターレーンとの関係とかいろいろ聞きたいんだけど! それよりもまず、学生騎士王杯のエキシビションマッチ! いいねとか言ってたけど、あのスターレーンと戦う気なの?」
「え、戦うわけないじゃないですか。あんなのテキトーですよ」
「えぇ……」
先輩ががっかりしたような目でこっちを見てくる。いや、普通の女子が王国十二騎士と戦うわけないじゃん。




