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テニスのお嬢様3

「二人はなんで公園でテニスなんてしてるんですか?」


「ああ、それは──」


 ユラが聞くと、お嬢様がこれまでの経緯を話し始める。


 それを聞き終えて、ユラははあっと息を吐いた。


「村でテニスが盛んだったなんて話、私は知らないんだけど?」


「あははは、そ、ソウダッタッケー?」


 乾いた笑いが漏れる。


「まあ、薄々感じてはいましたけど。その割にはフォームが様になっていたので、正確なところは分かりませんでした。しかしそれもここまでです」


 フッとお嬢様が肩を上げて笑う。


「あなたの負けで構いませんね、レイア・クォーター?」


「うぐぐぐぐぐ」


 なんだこれ、大会で負けたときより悔しい!


 魔術さえなければ……いや、せめてお嬢様の球を打っても壊れないラケットがあれば勝てるのに……。


「たしかにレイアはテニスに関しては素人もいいところですが、アルセーヌさんとはいい勝負ができると思います」


 歯噛みしてなにも言えないでいると、意外にもこれに待ったをかけたのはユラだった。


「聞き捨てなりませんね。たしかに私はテニスが特別上手いわけではありませんが、素人に負けるほど実力がないとも思っていませんよ?」


 お嬢様が噛みついてくる。


 口じゃあんなこと言っているけど、煽ったときのあの反応からしてそこそこテニスには自信があるはずだ。でなければ自分のことをテニスのお嬢様だなんて言うわけがない。


「すみません。ただ、アルセーヌさんを侮ったわけじゃないんです。少し話は逸れますが、アルセーヌさんは疑問に思ったことはありませんか? どうしてレイア・クォーターという教養のない田舎娘が、セントラル学校に入学できたのか、と」


「あります」


 そんなにはっきり言わなくてもいいじゃないか。


「実際レイアはどうしようもなくバカですけど、ひとつだけ誰にも負けない取り柄があります。それは身体能力において、レイアは常人離れしているということです」


 言いながら、ユラが私の持つ壊れたラケットを手に取る。


「レイアはバカ過ぎて防壁魔術が使えません。しかしもしそれができれば、優れた技術を持つアルセーヌさんといい勝負ができるのではないかと私は思います」


 バカ過ぎての件はいらないのでは?


 そう言いかけた最中に、変化は起きた。


 ラケットが薄く光ったかと思うと、まるで糸を紡ぐように、風穴があいたガットが網目状に戻っていく。


 ほんの十秒もかかることなく、壊れたラケットは元通り、あいた穴が塞がっていた。まるで手品か魔法でも見せられたようだ。


「魔術。それも無詠唱ですか。ユラさんは魔術師だったのですね」


 感心したようにお嬢様が言うと、ユラが首を横に振る。


「普通科の学生ですよ、私は。たしかに便利な魔術は少しだけ知ってますけど、魔術師を名乗るほど勉強はしてません」


「ふふ、本業のそれが聞いたら歯噛みせずにはいられないでしょう」


 今の魔術にどれだけの技量があったのかは分からない。ただ、そもそも私と生きてきた環境が近いユラが当たり前のように魔術を使っているだけで、私にとってはとんでもないことだ。


 もっとも、最近じゃユラがなんでもそつなく熟しすぎて、ユラにはできないことのほうが少ない気がしている。


 だから今回もなんとかしてくれる。私はこの幼馴染をとことん信頼しているのだ。


「ほら、これ。ガットに防壁魔術を組み込んだから、半日くらいなら壊れないと思う。ボールにも同じことするから持ってきて」


「さっすがユラ先生! 大好き!」


「暑苦しい……」


 思わずガバっと抱きしめていた。やっぱりこの幼馴染は私よりよっぽどチートだ。


 ボールもレイアが防壁魔術をかけてくれる。細かい理屈は分からないけど、これでもう道具については心配いらないらしい。


 これでようやく対等な勝負ができる。私はビシィっとお嬢様にラケットを突き付けた。


「さあ、やろうか。こっからが本番だよ!」


「私を煽ったくせに手も足もでなかった挙句、幼馴染に助けられておいて、タンカを切れる度胸はある意味評価します。ですが、結果は最初から変わりません。私が勝ちます」


「安心してよ。たしかに私はこのテニス(・・・・・)に関しては素人同然だけど、負ける気は一切ないから」


 怪獣らしく、不敵に笑って見せる。口にした通り、負ける気は一切ない。


 試合再開。私とお嬢様はコートに戻る。


 サーブはお嬢様。恐ろしい速度で殺人級の球が飛んでくるけど、意識を集中すればそれはスローに見えるし、一歩踏み込めば返球に間に合う。


 お嬢様がやっているように、強化魔術は私には使えない。


 でもそんなのは全く問題ない。私にある唯一無二の力、屈強な体(チート)はその強化魔術とやらを補って余りある。


 その全力をこのレシーブに乗せる!


 ピンポイントでラケットはボールを捕らえ、ついに、お嬢様のサーブを打ち返す。


 そして、地面が弾けた。


「なっ……!」


 お嬢様が驚愕に目を見開く。それはそうだろう。だって私も驚いてるし。


 ボールはコートの遥か後方に吹っ飛び、大砲の球が着地したように地面を抉っていた。


 あれ……? 狙い外れ過ぎじゃない? なんで?


 ブランクがあるとはいえ、試合前のアップや試合中のサーブで感覚はだいぶ戻したはずだ。今の手ごたえ的に、たしかにリターンエースを決めたと思った。


 にもかかわらず、結果はアウト。それもテニス素人がスマッシュを打とうとしてホームランしたかのような大外れだ。


 なんだこれ、なにが起きている?


「たいした出力ですが、入らなければ私の得点です」


「分かってるよ。でも、次は入れるから!」


 と言ったものの、同じようなホームランでリターンの失敗が二回続く。


 さらに次のゲームのサーブ、レシーブでもアウトが重なり、結果私は無得点のまま一セットを落とした。


「休憩は必要ですか?」


「いらないよ。そういうお嬢様は?」


「私も不要です。ラリーもしてませんから、体力は使いませんし」


「ぐっ……」


 くっそぅ。言いたい放題言ってくれる。


 ゲームが終わってコートチェンジ。お嬢様が使っていたコートへ向かうと、後ろでユラがうろうろしていた。


 そのままそちらへ向かい、私はパンと手を合わせる。


「ごめん、地面なおしてくれてたんだ。ありがとー!」


「まあ、こんだけ凹んでたら邪魔だしね。それくらいはやっておくから、レイアはテニスに集中しなよ」


「うん、そうする」


 お言葉に甘えてコートに戻ろうとすると、「あ、ちょっと」と言ってユラが止めてくる。


「さっきからボールが全部アウトなの、原因分かってる?」


「たぶん、うん。だいじょーぶ、次のゲーム中には入れるから!」


「私に手間かけさせたくないなら、謝るより先にさっさと入れてよ」


「はいはい、りょーかいりょーかい」


 手を振ってコートに戻る。


 え、っていうかもしかして、ユラはボールがコートに入らない原因に気づいてる? 私は一ゲームかけてようやく原因に気づいたのに? テニスをやったこともないのに、外から見て分かるものなのか?


 まったく、つくづくチートな幼馴染だ。


 「お待たせー」とコートに入って、サーブの準備をする。


 前世じゃボールがコートに入れられないなんてことはなかった。今世でも第一セットの一ゲーム目はサーブが入っていた。


 ボールがコートに入らなくなったのは、ユラにラケットを治してもらって試合を再開してからだ。


 最初はラケットかボールがおかしくなったんじゃないかと疑ったけど、球を打っているうちに原因が分かった。


 実に初歩的なこと。ただ私がボールを打つときに、強く叩きすぎている。だからボールは後方に吹っ飛ぶ。


 理解はしている。でも力のコントロールが難しい。


 前世の私が出していたパワーの出力を蛇口から出る水だとすると、今私が本気で出しているパワーはバケツに入った水だ。


 蛇口は捻るだけで出す水の量を変えられる。バケツは一瞬で蛇口より遥かに多くの水をだせるが、出す水の量を調節するのが難しい。イメージとしてはそんな感じ。


 力を出さなければコートにボールは入れられる。ただ、お嬢様のボールに反応しそれを打ち返すのであれば、全く力を出さないわけにはいかない。


 体感で二十パーセントもパワーを出せれば打ち返せる、と思う。ただ、そんな力加減を今まで意識してやったことはない。


 しかも、殴ったり蹴ったりするのとはわけが違う。ボールをコートに入れるという絶妙な加減さが、ただでさえ高い難易度いっそう上げている。


 理屈は理解はした。あとはひたすら練習だ。このセット中にそれをものにしてやる!


 ──でもテニヌって普通の女子高生はやらないよね?


 心の中でもう一人の私が激しくツッコんでる気がする。うるさいもう一人の私。おまえはデュエルするときだけ出てくればいいんだよ。あ、今デュエル中か。


 普段の私であればこんな超次元テニスはしなかっただろう。ただ、今この瞬間だけはひとつ言い切れることがある。


 テニスの女の名に懸けて、テニスのお嬢様には負けられないんだよね。


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