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休日4

「なんですかこれは! なんなんですか、この服は!!」


 試着室だというのに、所かまわずお嬢様が叫ぶ。


 この場に先生さんがいたら「淑女がそんな大声をあげるなんて、なんてはしたない!」と教鞭を振り回していただろう。


 さらに言うと、「淑女がそんな恰好をするなんて、なんてはしたない!」も追加だ。もう教鞭どころか腕をぶんぶん振り回して半径八五センチはこの手の届く距離。宇宙まで飛び回る勢いかもしれない。


 それに関してはお嬢様も同意見で、淑女らしくきゃんきゃんと叫ぶ。


「こ、こここんな、お臍が見えているじゃありませんか!!」


 そう。私に降りてきた天啓。それは巨乳によって浮いたシャツを活かしたお臍のチラ見せスタイルだ。


 アンダーは黒のハーフパンツ、トップスは白の半袖シャツ。これだけ聞けばシンプルだが、シャツの丈はあえて短いものを選んだ。


 これによって常にお臍が見えてはいないものの、動くと胸に押し上げられたシャツが揺れて白いお腹がチラチラと覗く。


 最初こそ気づかないで、「案外あなたの感性は悪くないかもしれません」などと上機嫌なコメントをしていたお嬢様だが、服を確かめるうちにひらひらと動くシャツ、そしてそこから覗くお臍に気がついた。


 そしてさっきの悲鳴へと至る。


「お客様、どうされましたでしょうか? なにか当店の商品に不備がございましたか?」


 どうどうとお嬢様をなだめていると、カーテンの外から女性の声がかかる。どうやら「なんなんですか、この服は!」に店員が反応して対応に来たらしい。


 その声に、さっきまで顔を真っ赤にして怒っていたお嬢様がさっとその色を青くして、小声で私に言ってくる。


「あ、あなたのせいなんですから、この場をどうにかしなさい!」


「無茶苦茶言うなあ。ま、大丈夫でしょ!」


 素早くかごに入った制服をまとめて、試着室のカーテンを開ける。


「ば、バカですかあなたは! なにを開けて──」


「いいからいいから。ここは私がどうにかするよ」


 背中にぐりぐりと拳を押し付けるお嬢様に笑って、店員さんの方に手を振る。


「すみません、ちょっと連れを着替えさせていたら、普段着てない感じのだったからびっくりさせちゃったみたいで」


 そう言いながらお嬢様を引っ張って試着室を出る。


 誰かがわぁっと声を漏らした。そちらを見ると、試着室の外に数人のギャラリーができている。ほんとたいしたことじゃないのに、無駄な騒ぎを集めてしまった。


 改めて店員さんに向いてぺこりと頭を下げる。


「なんか注目を集めたみたいで、なんかすみません」


「い、いえ。それより……二人とも、とても素敵なコーデですね!」


「そうでしょう! 本業の方に褒めて頂いて光栄です!」


「お世辞を真に受けるんじゃありません! あなたはもっと謙虚になれと先生に言われたばかりでしょう!」


 はっはっはと調子に乗っていると後ろ頭をお嬢様にひっぱたかれた。あの人私の先生じゃないじゃん……。


「いえ、その、お世辞とかじゃありません! 私、本気で言ってます!」


「だって、お嬢様。言ったじゃん、その服ぜんぜんおかしくないって」


「おかしいでしょう! 服とは本来肌を隠すもので、それがこれでは、お、お腹が見えてしまうではないですか!」


「ね? 店員さん、ツレがこんな感じで全然分かってくれないんですよー。店員さんももっとお世辞攻撃してあげてください」


「やっぱりお世辞じゃないですか!」


 お嬢様がガルルと吠える。そりゃあ私だって自分のコーデに自信はあるけど、さすがに本職相手には適わない。


 それでも言われれば嬉しいものだ。もっとお嬢様に言ってやってください、そしてへそ出しの素晴らしさを伝えてやってください。


 そんな感じのニュアンスを店員さんも受け取ってくれると思ったのに、なぜか頬をぷくーっと膨らませている。見た感じを言語化すると、完全におこ。


「分かりました。そこまで信じて頂けないなら、服のお代は結構です! そのかわり、お二人のコーデをマネキンで使わせてください!」


「えっ………………と、お代は結構って、無料ってこと?」


「はい。それだけあなたたちのコーデを買っているということです。これでもまだ社交辞令だと信じていただけませんか!?」


「ひぇっ……いえ、あの。あ、ありがとうございます?」


「どういたしまして!」


 なんだかものすごい気迫を感じた。それはお嬢様も同じなのか、こくこくと頷いている。


 そのまま流れるように値札を取ってもらい、制服を袋に入れて、気づけば「ありがとうございあしたぁ!」と言われて店を出ていた。


「ど、どうしましょう、レイア。ど、どこかで着替えないと……」


 そしてお嬢様が腹痛みたいにお腹を押さえて、私の腕にしがみついてくる。


 まさかこの格好で外に放り出されるとは思っていなかったのだろう。お嬢様にしてはめずらしく、かなり取り乱している。


 まあ、一週間前まで人前で着替えるのを恥ずかしがっていた人が、一発目のオシャレにへそ出しというのは正直ハードルが高い。それにたぶん淑女的にはNGな恰好だし。


 けどもう服はもらっちゃったわけだし、仕方ないよね!


「大丈夫大丈夫! 店員さんも褒めてくれてたじゃん!」


「どこが大丈夫ですか!! どこの世界にお腹を出して歩く淑女がいると!! いうのですか!!」


「お嬢様、そんなに叫ぶとまた注目を浴びるよ?」


「っ!」


 お嬢様がびくっと肩を上げる。べつにビキニを着て街中を歩けというわけじゃあるまいし、大袈裟だなあ。


 とはいえ、私も人のことを言えない。前世でやった文化祭のコスプレ喫茶。私はナース服で客引きしてたけど、あれはさすがに恥ずかしかった。お嬢様もたぶんそんな心地だろう。


 でもせっかく店員さんに褒めてもらえたこのコーデを諦めるなんてことはしたくない。そう、私のコスプレはともかく、お嬢様の服は似合っているのだ。なにも恥ずかしがることはない。


 ここは自分のことを棚に上げて、コスプレの心得を伝授する。


「いい、おっかなびっくり歩いていると、こういうのは余計に目立つんだよ。大事なのは自信を持つこと。「こういう格好ですけど、なにか?」みたいな顔で歩けば誰も気にしないって!」


「こういう格好であることが問題なんじゃないですか!」


 ふむ。なかなか強情だ。というかもう私の言葉には聞く耳を持ってないな?


 ならここは……お嬢様の言葉で攻めてみるか。


「いろいろ言ってるけど、最初私に服を見繕ってこいと言ったのはお嬢様だよ? 私はお嬢様の格好は悪くないと思ってるし、店員さんなんてあそこまで誠意を見せてくれた。にもかかわらず、お嬢様は自分の気持ちだけでこの好意をなくそうとしている。それってちょっと横暴じゃない?」


「ぐ、ううううううううううううううう……」


 なんかモンスターみたいな呻き声をあげながら、お嬢様が私を睨んでくる。私今日一日でお嬢様に相当嫌われてないか?


「……分かりました。もういいです。今日一日は無心で我慢します」


 心を無くしてハートレスになっとる……そのうち闇に飲まれて襲ってきそう。


 まあともあれ、ようやく服を手に入れた。なんだか無性に疲れたけど、まだまだ休日は始まったばかりだ。


「良し! じゃあ次はランチタイム! お嬢様、なにか食べたいものはある?」


「あなたに任せま……いえ、私が知っている料理にしてください。いいですか、ゲテモノや変なものだったら即帰りますからね!」


 どーんだけ服でトラウマになっているのさ。



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