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休日3

「しかし王都に来たばかりの田舎娘が私を楽しませるほど王都の遊びを熟知しているとは思えません。どうするつもりですか?」


 お嬢様が聞いてくる。


 その問いに、私が村に住んでいるただの一人の少女だったとすれば、これを是と答えるのは難しかっただろう。


 しかし私にはこの王都より遥かに都会で生活していた、前世の記憶がある。休日はスマホ片手に遊びまくっていた女だ。都会の回り方なんて記憶に頼らなくとも肌に染みついている。


「任せて! まずはなんといっても……服だよね!」


 正直、村から持ってきた服はほとんどがラフなものだ。


 仕立てが良いのは受験のときに着ていたブラウスやローファーくらいで、あれは式典などで着ていくようにママが持っていた虎の子。それも私の身長がどんどん高くなるせいで若干サイズが小さい。


 王都で村の服を着たら完全に浮く。それはもう、某ネズミの国に一人でジャージを着ていくような無謀さだ。


「服? 社交場に行くわけじゃないですから、そんなもの、なにを着ても同じでしょう?」


「か~~~っ、ノンノンだよお嬢様」


 貴族特有の天然か? 分かってない、まったく分かってないな。


「女子にとってのオシャレは冒険者の防具、社会人のスーツと同じ。戦場で生きていくために必要なものなんだよ!」


「せ、戦場? 鎧や剣を仕入れようとでもいうのですか!?」


「いや違うけど……ああもう、いいから着いてきて! お嬢様の分も私が見てあげる!」


 お嬢様の腕をぐいぐいと引っ張っていく。


「ちょ、引っ張らないでください! っく、なんでぜんぜん外れないんですか!」


 お嬢様が手を外そうとしてくるけど、無視! 休日は待ってくれないのだ、全力で店を回るぞー!


 王都には服の店が多い。それはメンズ、レディースで分かれていたり、ドレスかカジュアルかで分かれていたり、購入する年齢層で分かれていたりと、様々な区分があるからだ。


 この中で自分好みの店を見つけるのはなかなか難しい。しかし、だからこそそれを見つけた時の嬉しさは倍増しともいえるだろう。


 この日のために何度か下調べはしていた。私はチェックしていたお店のひとつに入る。レディースとメンズのどちらも置いてある、フラットなデザインの服が多い店だ。店内には老若男女問わず客がいる。


 お嬢様も辺りを見回しているが、驚いた様子はない。


「意外と普通な店なんですね。もっと変わった店に行くのかと思ってました」


 お嬢様は私をどんなゲテモノキャラだと思っているのかな?


「ここは全体的に服がシンプルで着合わせやすいから、とりあえずシャツとかを買おうかと思って」


「よ、よく分かりませんが、あなたにはそれなりに心得があることは分かりました。いいでしょう。遊ぶのに制服姿が不便だと言うのは私も同意です。レイア・クォーター、私の分まで服を見繕ってください」


「御意に!」


 まずは標準的なシャツやブラウス、それに合わせてパンツやスカートを選ぶ。自分で言うのもなんだが、高身長は無難な服なら何でも似合う。オーソドックスな白いボタンシャツと黒のスキニーパンツだけで見栄えするのだ。


 前世では平均サイズだった私からするとこんなのはチートである。もう気分がよくなっていろいろと買ってしまいそうだ。残念ながら財布にそんな余裕はないけど。


「レイア、試着ができたのですが……その、ちょっと来てください」


 なにを買うかうんうんと悩んでいると、試着室からお嬢様の声がした。


 私もお嬢様も背の高い美形よりなので、似合う服にそこまで差異はない。髪や瞳の色に合わせてカラーを変えるくらいだ。


 だからひとまず半袖のボタンシャツとワイドパンツを渡しておいた。まず似合わないはずがないので、これからどこまで上を目指すかというところだけど……と、思いながら、試着室の前で待つ。


「いいよ、カーテン開けなよ」


「その……すこし困っているので、試着室に来てください」


「困ったこと?」


 いくらお嬢様だって子どもじゃないんだし、服くらいは自分で着れるだろう。実際私の前で制服は着れるわけだし。


 だとするとサイズが合わなかった? 私と同じサイズを選んだつもりだったけど、小さいサイズと間違えたかな。そんなあてをつけながら、試着室にお邪魔する。


 そして一瞬で理解した。その困った状況ってやつを。


「その、このサイズは少々小さいようで……その、胸の部分が窮屈です」


 恥ずかしいのか、お嬢様が頬を赤らめる。抱えるように抱いたその胸はシャツがパンパンに膨らんでいて、今にもボタンが弾けそうにそれを止めている。シャツとシャツの合間からは白いブラが覗いており、とてもじゃないがこの格好で街は歩けない。


 その姿を見て思わず舌打ちをした私の気持ちを、女子の同士諸君なら分かってくれるだろう。


 なにがおっぱいだ! なにが巨乳だ! 所詮は脂肪の塊だ! 男に揉まれるための玩具に過ぎない!  私は決して羨ましいなどとは思っていない! 決して!


「妬ましいのは分かりましたが、もう少し表情に出さないようにしてください。私も複雑な心境です」


「う、うるさいうるさい! 全然妬ましくなんかないわい!」


 お嬢様の巨乳を考慮し忘れていた。


 前世も含めて私に巨乳だった経験はないけれど、巨乳の友達はいたことがある。前世の話だ。たしかに「巨乳だと似合う服が少なくて困るわー」とか言っていた気がする。


 あれは煽りだと思っていたが、マジだったんだなと体験した瞬間である。願わくばそれを自分のみで体験したいものだった……。


 仕方ない。いったんお嬢様は制服に着替えさせて──


 ん、制服?


 ちょっと待て。なんでお嬢様は制服だとシャツを着れるんだ? いつも着ている服ならこんなけしからんことにはならないハズ……と、脱いだ後のお嬢様の制服を拾いあげる。


 そして絶句した。


「こ、これは……まさか、伝説の、乳袋!?」


「ちょっと、大きな声で言わないでください!」 


 ばっとお嬢様が私から制服を奪い返して、親に好きな男子の写真を見られた女子みたく顔を真っ赤にする。


 乳袋……立体裁断によって三次元にも実装されているとまことしやかに噂されていたが、まさか異世界で見ることになるとは思わなかった。


 いや、異世界だからこそと言えなくもないけどさ。


「お嬢様、その制服ってもしかして特注品?」


「……そうです。スタンダートなサイズだと胸がきついので、オーダーメイドで発注しました」


「なるほど」


 そうなると、ボタンのついたシャツは着るのが難しいか。


「私が服にこだわりがないのはこの胸にも原因があります。私が着れる服は限られていますから」


 確かにお嬢様の着ている服はお嬢様らしからぬラフなものが多い。寮内で着る部屋着や寝間着も私とそう変わらないものだ。


 部屋の中でオシャレをしろとは言わない。でも……


「お嬢様のスタイルで服にこだわりがないとか、あまりにも宝の持ち腐れすぎる!」


「そうですか? 可愛い服は私より、どちらかといえばセラスのような背の低い女の子の方が似合うと思います」


「そうだね、たしかに可愛い服は可愛い子が着たほうが似合う」


 素直にうなずく。


 女子なら可愛い服を着たい、その気持ちはよく分かる。


 ただ、可愛い服が似合わないから服にはこだわらない、これに関しては逆転が得意な弁護士ばりに「待った!」と言いたい。


「着たい服を着ればいいって言う人もいるけど、私は自分に似合う服を選んで着たい派。だから自分に似合うなら可愛いとは真逆のカッコイイ服でも喜んで着るよ。それで、そんな私の服は似合ってると思わない?」


 ちょうど試着していたノースリーブのブラウスとゆったりとしたロングスカートを見せびらかす。


「……あなたはどれだけ自信家ですか」


「自分のコーデに自信ありですもん」


「まあ、似合っているのは否定しません」


 ニヤリと笑う。服を褒められて嬉しくない女子はどこの世界にもいないのだ。


 しかし巨乳ファッションか。どうすればいいんだろう。前世の巨乳友達のファッションをこの店にあるものでまねるのはちょっと厳しい。


 ボタンシャツを抜きにしたとして、選択肢はいろいろあるけど、ゆったりした服だと胸が押し上げてシルエットが太く見えるはずだ。


 ようはウエストが細く見えればいい。お嬢様は腰回りが細いから、これはトップスとアンダーの境界がはっきりすれば解決できる問題だ。


 そう考えればあまり難しくはない。


 たとえば長い丈のボタン無しシャツをパンツなりスカートなりにインすれば解決する。これが庶民の乳袋ってね。


 逆に丈の短いシャツを着てトップスとアンダーを分ける方法もある。ただこの場合丈が少しでも長いと結局バランスが悪いかも──


 そのとき、私の頭に天啓が与えられた。


 それは都会の中の都会、渋谷にいた大学生のねーちゃんがやっていたコーデ。私でも挑戦できなかったが密かに憧れていた。これをお嬢様の巨乳と合わせれば……


 そこまで考えたところで、私は売り場へと走り出していた。



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